転生者 病気を治療してみる

 月曜日に学校に登校すると、与謝峰さんの姿が無かった。特に何も考えずに与謝峰さんのいない席をみつめてしまう。昨日の夜もメッセージを送ってみたが、【しばらく大変な状態になるかも、おやすみ】とそっけない返信しか来なかった。


「こっちゃん家大変みたいね、下の子が学童から病気貰ってきたみたいで一家全滅……みたいになってるっぽいよ」


 休み時間に鈴香が話しかけてくる。


「え?そうなの……大変だとは聞いているけどそんなに?」


 言ってくれてもいいのになぁ……あんまり信頼ないのかなぁ?俺も難しい顔をしていたのか、鈴香も難しい顔をしてしまった。


「詳しくは知らないかぁ……お見舞い……はダメだって、こういう時はあんまり家に近づいちゃだめなんだってね、ママが言ってた」

「ウィルス系のなにか?隔離しないとダメなんだろ確か?」


海斗が話題に入ってくる。


「それで手伝うよ~って言っても拒否されたのかぁ」

「あれ?鈴香って家近いの?」

「うん、すぐ近く、中学までは学区の区切りがすぐだったから別の学校だったけどご近所さんだよ」

「あーそれで……仲がいいのね」

「うん、保育園からの付き合いだし、家族ぐるみの付き合いだよ」


 今の俺の回復魔法もどきを使えば治せるんではないだろうか?そう思った俺は与謝峰さんにメッセージを飛ばす【大丈夫か?俺の能力で病気治せるかもよ?やってみないか?】放課後になっても既読マークがつかず、心配した俺は学生服のまま鈴香の家方面に急いで行ってみるのだった。


 さすがに家の場所を鈴香に教えてもらうのもストーカーみたいで……いや、今の俺のやってることはストーカーだな……そんな事を考えていると目の前にマスクをした与謝峰さんがカゴに荷物を沢山積んだ自転車を漕ぎながらよろよろして進んでいるのを発見した。見た感じでかなり危うい。思わず俺は駆け寄る。与謝峰さんが俺の気配に気がついたのかゆっくりとこちらを振り返る。


「大丈夫か?」


 ゆっくりと与謝峰さんがブレーキをして、よろけて立ち止まって振り返る。


「あぁ、うゆきくん……うつっちゃうからだめだよ」


 かなりボーっとした感じになってしまっているな。普段のはきはきした感じが全くない。……俺は倒れそうになっているのを見て自転車と体を支える。


「いいって、俺には能力あるでしょ」

「あぁ……きくのかな?」


 俺は与謝峰さんから自転車を引き取りスタンドを立てて自転車を道の脇に置く。ペットボトルの飲み物やらゼリー状の食べ物……ウィルスバスター系のスプレーなど病気対応系のもののせいでかなりの重量だった。

 魔法感知を働かせると、色々な場所の流れが悪くなっている状態だった。これくらい悪いと朦朧としてしまうのか……例の黒いモヤは見えなかったので、試しに与謝峰さんの手をぎゅっと握り元気になぁれ魔力を送ってみた。与謝峰さんは振りほどこうとしていたけど力が上手く入らない様で途中から諦めたようだった。


「あれぇ……あたたかい……」

「やっぱり大丈夫か……」

「あん、うふぅ……あっ……」


 与謝峰さんが段々気持ちい状態になってきている様だ。相変わらずこのときの声ってみんな色っぽい感じになるんだなぁ……電気ビリビリの状態は黒いモヤが関係しているのが確定したかな……治ったら相談しよう。両親にやっていた時よりも治りが悪かったので両手を握ってさらに強めに魔力を流してみる。魔力感知をしてみても、ほとんど良い流れになっている様だ、だが一部おかしい箇所があり、そこはどうしても治らなかった。これ、ウィルスとかなのかな?


「大体治ったみたいだけど、全部は治らないみたいだね」


 与謝峰さんは目を見開いて驚いた感じだった。


「すごい、意識がはっきりするし、ひどい腹痛ないし、熱も引いた感じがある……ありがとう……」


 そして自分の手をちらっと見て、みるみると顔が赤くなって行く。


「えーと……凄いありがたいんだけど、そろそろ手を離してくれると嬉しいかな……」

「ああ、ごめん……」


 いつも海斗とかチームメイトくらいの手しか握らないから、小さくて柔らかい与謝峰さんの手が新鮮でにぎにぎしてしまった……ちょっと恥ずかしい。


「そ、それじゃ、ありがとう、これならちゃんと帰れるよ」

「あー、家族は大丈夫なの?」

「うーん……ちょっとつらそう……家族全員なっちゃって……病院に行けないくらいだったんだ……本当に悪いと思うけど家族も治せたりするかな?」

「もちろん」

「多分、うちの母親だったら……ちょっとくらいバレても大丈夫だと思う」

「?」


 ちょっと疑問に思いつつも、与謝峰家に向かう。割と豪華な一軒家だった。母子家庭と聞いていたけど……?スーパーキャリアウーマン的な母ちゃんなんだろうか?


「あ、鈴ちゃんから聞いてるか……うち、3年前にパパが事故で死んじゃって……その前に家買ったから……なんか住宅ローンが死ぬと借金が無くなるだかで……それで何とかなってるみたい」


 なるほど、そう言うのもあるのね、と納得しつつ、俺は止めた自転車の前後のカゴから荷物を取り出す。


「ありがとう、助かるよ」

「おう……これ女の子が一人じゃきついんじゃ……」

「乗せるの大変だったよ……買い物中に段々具合が悪くなってきて……あの状況じゃ無くても大変かもね……」


 電動アシスト自転車って凄い馬力だなぁ……と思いながらビニール袋の重さに閉口する。ペットボトルって結構重いのね……こっそり魔力強化だ。うん、らくちん。


「ただいま」

「おじゃまします……」


 誰もお迎えに来ないし、部屋の電気が殆どついていなかった。買い物袋をもってキッチンに向かい買ってきたものを冷蔵庫に入れる。中身がほとんどない状態だった。こんな状態で買い物に行くのだからそんな感じか。俺の考えていることがわかるのか与謝峰さんが説明してくれる。


「いつもは日曜日に1週間分買い出しするから……日曜日に病気で倒れると大変なの……」

「なるほどね……」

「あ、感知でウイルスとか判別できたりするの?」

「あ、ちょっとやってみる」


 うーん、どうやら感知は出来ないみたいだなぁ……与謝峰さん自体がまたちょっと流れが悪くなってきている。回復させたけどまたウィルスで悪くなってるのだろうか?


「そこまでは感知出来ないみたい。与謝峰さんの体調がまた悪くなり始めてるかも」

「なるほど……ちょっと体が重くなってきたと思った」

「どうすればいいんだろ?」

「おそらく、現在の所はウィルスは魔法で治せない、体力とか体の悪い所は治せる……となると、羽雪君に家族を治してもらったら直ぐに病院に行って抗生物質とか貰って帰って来て、そこから治療……かなぁ……」

「わかった」


 与謝峯さんが買い物袋からマスクとアルコールスプレーを取り出し俺にマスクを着けアルコールスプレーを体中に吹き付ける。


「それじゃついてきて」


 俺は与謝峰さんの案内で2階の部屋に入っていく、俺たちに気が付いたのか辛そうな与謝峰さんの母親の声が聞こえる。


「……琴ちゃん?……お客さん?……ダメよ……家に入れちゃ……」

「ママ、ちょっとそのまま横になって、大丈夫だから」


 起き上がろうとする与謝峰ママ、娘の言う事を聞いて再び横になる。与謝峰さんがそこら中にアルコールスプレーを吹き付ける。除菌してるのか?


「……あなたの事だから、またなにかやってくれるのかしら……」

「ふふっ……羽雪君お願いできる?」

「わかった、それじゃすみませんが手を握りますね」


 与謝峰ママの手を握り、魔力感知を行う、さっきの与謝峰さんくらい悪い状態だな……魔力を流し良い方向になる変わる様に念じてみる。


「あ、ああっ、あたたかい……?」


 拒絶反応みたいのは無かったので、さらに魔力を流して一気に治してみる。


「んふぅ、ああん……」


 チョットなまめかしい声の様な……母親の時も思ったがなんでこうなるんだ?与謝峯さんがその姿を見て焦った感じで俺に質問をしてくる。


「う、羽雪君……私は他から見るとこんな感じだったの??」

「うん、みんなこんな感じで気持ち良い感じになるみたいよ」

「……次からは気を付ける」


 与謝峰ママが目をぱちくりとさせ、手足をキュッキュッと動かす。そしてそのままベッドの上で上半身を起こす。


「どう言う事、これ?……相変わらず不思議な事をしてくれるのね……」

「とりあえず病院が閉まる前に病院に行こう、おそらく抗生物質系が無いと治らないみたいだから早く準備して」

「……うん、わかったわ」


 与謝峰ママが立ち上がりクローゼットに向かう。娘に対する信頼がすごいな説明無しで言うことを聞いてくれるなんて……ってか昔から不思議な事してたのか……


「羽雪君はこっち、弟と妹もよろしくね」

「おう、わかった」


 与謝峰弟と妹を同じように治すと、病院に行く準備を終えた与謝峰ママがリビングで待っていた。チョット困惑したような複雑な表情で俺に話しかけてくる。


「ありがとう……良くわからないけど不思議な力を使えるのね、あの子が呼んできてくれたのかしら?……ん~あの子とお付き合いしてるのかしら?」

「……っと……クラスメイトです」

「え?そうなの?あの子が心を許してるからてっきり彼氏かと……」


 弟と妹を病院に行く準備をさせて連れてきた与謝峰さんが顔を真っ赤にして部屋に入ってくる。今の会話が聞こえてたっぽいな?


「ま、ママ、母子手帳の準備は?」

「ちゃんとしてあるわよ?」

「それじゃぁ、また体調悪くなる前に早く病院行こう」

「え?ねぇちゃん、オレ治ったぞ?」

「私ももう、苦しくないよ?」

「えっとね……お兄さんがちょっとの間だけ痛くならないおまじないしてくれただけだから、すぐに悪くなっちゃうの、だから病院に行かないとダメなの」

「えーじゃぁ、兄ちゃん家にいればいいじゃん」

「お、お兄さんにも予定あるの!さ、いくよ!」

「え~」

「あれぇ?おねーちゃん顔赤い」


 与謝峰さんが全員にマスクをつけさせて与謝峰家が病院に向かう。熱が無くなって元気な状態で診察受ける……とか難しそうだけど、与謝峰さんなら何とかしちゃうだろう……とも思った。



 その夜、与謝峰さんからお礼のメッセージが届く。病院で検査をしてもらって全員ウィルスの陽性反応が出たらしい。抗生物質を飲みながら3日ほど家から出てはだめになったと言う報告だった。一応殺菌とかしたけど、体調悪くなったら気を付けてねと忠告もされた。後はうちの家族は不思議な事については絶対喋らないでいてくれるから安心してとの事。そう言えば与謝峰ママが不思議な事に対しての耐性みたいのあった感じだもんね。小さい頃から天才だとやっぱり色々あるのだろうか?



 その後も与謝峰さんが休みになってからも淡々と日常が進んで行く、学校、同好会活動、魔力の自主練習、そして時々勉強のサイクルで回っていく。


 いつものように学校で海斗と雑談していると、鈴香と与謝峰さんがクラスに入ってくる。

ああ、そうか、今日から学校登校OKか……いつもの様に手をひらひら振ってくれるのひらひらと振り返す。放課後が楽しみになってきた。


 昼休みになると弁当を食べている海斗と俺のもとに与謝峰さんが来た。後ろから鈴香が何事?と付いてくる。


「羽雪君……えっとね……うちの親がありがとうって、これを……」


 どうやら、手作りのパウンドケーキの様だ。オシャレな感じでビニール袋にリボンが付いている。ザ・女子力といった感じの素敵仕様だ。


「お、ありがとう、気にしないで良いんだけどなぁ……」

「私から別にお礼するから良いっていったんだけど……自宅待機中に暇だったみたいでお菓子とか色々つくってたの、作り過ぎたから持ってけって」

「その後、家族はどうだったの?ぶり返さなかった?」

「大丈夫だったよ。弟達ははすごく元気なのに家にいなければいけなかったから、すごいうるさかった……元気そのもの」

「あーそれは良かったんじゃないかな?」

「うん」


 与謝峰さんが優しく微笑む。与謝峰さんって時々大胆、と言うより思い込んだら突撃するタイプなんだろうな……いつもしている気配りとかたまに一切しない時がある気がする。  まぁ、まさに今なんだけど……教室の真ん中でクラスでも人気な女の子が男にラッピングをしたお菓子を手渡す……周りはいろんな噂話をするんじゃないかなぁ……


「え、えっと……何があったか教えてくれたり……しない?」


 鈴香が割って入る様に話しかけてくる。若干?いやかなり動揺してる感じだ……


「ああ、3日か……4日まえ?俺が〔ポンキホーテ〕に用があって行ってみたら、ヘロヘロになってる与謝峰さん見つけて、荷物持って行くの手伝ったりしたの」

「……鈴ちゃんごめんね、手伝ってくれるって言ったのに……大丈夫だと思って買い出しに行ったら急激に私の様態が悪くなっちゃって……」

「……なるほどね」


 鈴香に疑われてる感あるな……主に俺の方だけど。確かに俺がそっちの〔ポンキホーテ〕に行くのはちょっと不自然だからな……かといって与謝峰さんに対してストーキングまがいの事してたのがばれるのもなぁ……悩んでいると、生暖かい目をして見守る海斗に気が付く。何故だ?

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