転生者 激しい筋肉痛になる

 ……翌朝目覚めると、今まで感じたことのない激しい筋肉痛が全身を襲った。


「ぐっ、む、むぐ、ぐ」


 スマホのアラームを止めようと、手を伸ばしただけで恐ろしい痛みが全身を駆け巡る。チョットこれ、何?どうなってんの?滅茶苦茶だ……


「兄ぃなにやってんの?」


 朝の支度を終えて学校に行く準備を終えた妹が鳴りやまないアラームをうるさく感じたのか、俺の部屋のドアを開けてスマホのアラームを止める。今の状態だと大変助かるわ……


「身体中ものすごい筋肉痛……だ」

「ふぅ〜ん?えいっ!」

「あ、ちょ、本気で痛いの、やめて、やめろっつーの!あたたたっ!」

「あれ?全身痛いの?足だけじゃないんだねぇ〜」

「後で覚えてろ……くぅ……」


 妹が俺の反応が本気だとわかり、不憫に思ったようで俺の足をつつくのを辞めた。


「ん~なんか手伝う?」

「いや、いい、なんとかする」

「んじゃー先行ってるねー。ママー兄い全身筋肉痛だってさー」


 妹がリビングの母親に声を掛けてそのまま学校に向かう。元気な妹だ……

 全身の激痛に耐えながら、そういえば前世の世界には回復魔法もあったなぁ……

 前世での武術のお師匠様が「筋肉痛の時に回復魔法を使うと力が成長せんぞ!」と言っていたのを思い出す。


(これ、回復魔法は使ったらいけないやつだったっけか……ってか、こっちの世界で言う所だと爬虫類系だったんだなぁ、武術のお師匠様は……まじで強かったなぁ……)


 回復魔法を試したいところだが、とりあえず師匠の言葉に従い、筋肉痛に普通に向き合うことにする。師匠の教えに転生後も従ってしまうのは我ながら律儀だと思う。しかし痛い……過去に経験したことのない痛さだぞこれ?


「昨日は寝坊で今日は筋肉痛ねぇ、あんた日中なにやってんの?」


 激痛で重たい体をぎこちなく動かしながらリビングに着くと、母親が心配そうな顔をして話しかけてきた。


「んー秘密特訓?」

「……バカ言ってないで、ご飯食べたら食器を片付けておいてね。それじゃ、今日は早めに出社しないといけないから先に行くね」


 いそいそと母ちゃんが身支度を整えて家を出る。


(冗談じゃなかったんだけど、まぁ、そう思うわな……)


 激痛に耐えながらもなんとか身支度を整え、家を出ていつもの様に海斗と落ち合う。


「うわ!何その歩き方?怪我?」

「普通に筋肉痛。気にすんな」

「間に合う……か?」

「ガンバル」


 さすがに動きがあまりに変だったようだ、開口一番がそれかと思ったがそんなものか……不恰好ながらも海斗の普通に歩くスピードに頑張っていついていく俺。

 居たたまれない目で俺を見守る海斗。段々と歩くスピードを落としてくれる……


「どうやったらそんなに筋肉痛になるの?先に帰ってトーレーニングジムにでも行ってみたの?」

「……秘密特訓してみた」

「あー」


 居たたまれない目が、生暖かい目に移り変わっていく。


「うん……まぁ、やりたくなるよね……」

「うっ!……なんかもうちょっと、こう、なんか、冗談で切り返してくれ……」


 痛みに耐えながら頑張って歩き、ようやく学校まであと半分となった所で、海斗がスマホの時計を確認する。


「あーちょっと遅れ気味かもなぁ……?」

「先に行ってていいよ、付き合ってくれてありがと」

「あっ!」


 海斗が交差点の前からくる鈴香達に気が付いた様だ。まぁ、いつもより遅れ気味だと会うよね。彼女らに。


「おはよう!」

「おはよー」

「おはー」

「……おはよう」


 海斗のテンションの上がり方が相変わらず凄い。鈴香の前だといつもこうなるな。もうちょっと抑えた方が鈴香うけしそうなんだけどね。落ち着いた感じが好きらしいし。


「相変わらず大きな声ねぇ~」

「おう、元気が取り柄だからな!」

「んで、隣の人は……なんか?元気?無さそう?なんでそんなに変な歩き方してんの?」


 俺の筋肉痛歩きの動きが鈴香にややウケたらしく、吹き出して笑われてしまう。


「優斗、秘密特訓したんだってよ!」

「あっ」

「えっ?!」

「うっ、単に全身筋肉痛なだけだ……」

「あはっ!おっさんみたいだね。うちの親父みたい」

「うっせ……」


 いつもの俺達の絡みには、普段ほとんど入ってこない与謝峰さんが珍しく突っ込んでくる。


「確か、羽雪くんは普段から運動してよね?どれだけ運動すればそんなになるの?」


(あ、正直に言ってはダメなやつだよなコレ)


「あっと……魔り、いや、筋……いや、……くっ」


 慌て過ぎだ俺は誤魔化しながら何かを言おうとして大失敗した。思った様に言葉が出てこない。俺には突然なにかを誤魔化せるような話をひねり出すのは無理だった……


「何言ってんか分からないよ」


 笑いながら鈴香が直ぐにツッコミを入れてくる。


「黙秘権を行使します」


 残念ながら良い言い訳が思いつかなかった。これは、もう黙るしかないね。


「秘密特訓じゃぁしょうがないね」

「だなぁ……」

「……そうね」

「くっ……」


 それから俺は皆からからかわれつつも頑張って遅刻する事なく学校に着いたが、俺の動作がロボットのようにカクカクだったので教室に着くや否やクラスメイトに色々と弄られた。まぁそうなるわな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る