第28話 クロード【side:クロード】


 くそうシルヴィアの奴め……俺を見捨てやがって……。

 このまま帰るなんて屈辱だ。

 それに、暴動をおさめる方法も完全に尽きた……。

 万事休すか。


「みなさん、戻りました」


 俺は憂鬱な気分で議会員たちに会いに行った。


「クロード、それで……シルヴィアさんは? どうだった?」


「ダメでした……」


「そうか……ならもう終わりだな……」


「え……?」


「クロード・キュプロス王子、君は新世界秩序機構ニューオーダーズを追放だ。短い間だったがこれでさよならだ」


 ドルス議長は、表情を変えないまま淡々と俺にそう言った。


「そんな……!」


「もう暴動をおさめるには、これしか方法はないんだ。お前が責任を取って、平民に落ちる。それで手打ちにしようということになった……」


 は……?

 今なんて……?

 ドルスはなんて言ったんだ?


「待ってください! 平民落ち!? そんなことになったら、俺は殺されてしまう!」


「まあ、そうかもな。残念だ」


 ヤバい……ドルスの目は本気だ。

 俺は切り捨てられたのだ、組織のために……。

 こんな非道なやり方、許されるのか?

 そもそも俺が責任をとったところで、本当に民たちは静まるのか!?

 俺は無駄死にはごめんだ。

 そうだ!

 俺にはまだ愛する婚約者がいたじゃないか。

 シルヴィアとは違い、若く美人で頭もよく、権力チカラもある優しい女性。


「お、おい! ルリア俺を助けてくれ! このままじゃ殺される!」


 俺はルリアに懇願する。

 だが……ルリアの目は、ひどく冷めきったものだった。

 あれほど俺に羨望の眼差しを向けてくれていたというのに……!

 今ではまるでゴミでも見るかのような、軽蔑した目。


「は? 王族でもなくなったあなたに興味なんかないですわ……。まったく、いい迷惑です。私も見る目がないですが……あなた、頭悪すぎでは? 将来有望な若い優良物件だと思っていたのに、まさかここまでのマヌケとは思いませんでしたわ」


「っく……!」


 俺は絶望した。

 この女、手のひらを返しやがって……!

 俺に惚れていたというのは嘘なのか!?

 だが次の瞬間、ドルス議長の口からとんでもない言葉が言い渡される。


「は? ルリア・マシュコンレー殿、なにを言っているんです? あなたもクロードと同じですよ?」


「は?」


 さっきまでのルリアのすました顔が、一瞬にして絶望の表情に変わる。


「あなた、クロードの案に賛成しましたよね? それに、こんなバカと婚約しようだなんていう人間は、組織に必要ありません。すでに後継の代表者は決まっています」


「きさまあああああああああああああ!!!! ドルス!!!!」


 ルリアは鬼の形相で叫んだ。

 そうか……最初から俺たちは議長の手のひらで踊っていたのかもな……。

 俺たちを議会から外して、空いた席にドルスの手のものを座らせる気だ。


 こうして俺たちは、シルヴィアと同じように議会を追放され……。

 さらには身分も奪われた。

 着の身着のままで放り出されて……。

 明日にはおそらく死ぬだろう。

 怒りにかられた民にでも見つかれば即座にヤられる。

 そうでなくとも、数日のうちに餓死して終了。

 温室育ちの俺たちに生きるすべはない。


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 俺は思いのままに叫んだ。

 だがその叫びは、誰に届くわけでもなく――議会堂にこだました。

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