第27話 追い返す


 私がルキアール王国に来てから、数か月が経ちました。

 その間に私がやったことと言えば――。


 土地の改造、それから農耕改革、さらには政治に関する改善まで、多岐にわたります。

 この国のみなさんの努力もあって、今ではすっかり国力を取り戻しています。


 あれだけ荒れ果てていた土地は、もはやどこにも面影がありません。

 辺り一面緑に囲まれ、たくさんの作物が育っています。


「いやぁ、これもシルヴィアさんのおかげですよ」


「いえいえ、リシアンさんもかなり頑張ってましたよ。私一人の力じゃありません」


 私たちは、豊かになった国をしみじみと感じながら歩いて回ります。

 みなさん熱心に農業に励んだり、興行にいそしんでいます。


「あ! リシアン王、それにシルヴィアさんだ!」


「ほんとだ! 今日もお似合いですねぇ!」


「もう、みなさん茶化さないでください」


 二人で歩いていると、よくこうして声をかけられます。

 国民との距離が近くて、気さくな王様です。

 私はそんな平和な、この国が大好きになりました。


 だけどそんなある日、招かれざる客が訪れたのです――。


「シルヴィアさん、昔の知り合いだという方がいらっしゃってますが……」


 私はお城の一室をお借りして、そこに寝泊まりしていました。

 来客を知らせに来てくださったのも、お城の報告係の方でした。


「ありがとうございます。今、参ります」


 私が広間へ行くと、すでにリシアンさんが来客を対応されていました。


「リシアンさん、私の代わりに……? お城へ通してよかったのですか?」


「当然です、シルヴィアさんの昔の知り合いなのでしょう? でしたら、面会を断る理由はありませんよ。むしろ、私もシルヴィアさんの昔話を聞かせてもらいたくて、こうして先にお通ししたのです」


「はぁ、そうですか……」


 たしかに、リシアンさんからすればそうなるのでしょう……。

 ですが、この来客は……。


 昔の知り合い、と言っても――。


「なんの用でしょうか、クロード・キュプロス王子……?」


 そう、来客とは、私を追放した張本人である――ヴァルム王国のクロード・キュプロス王子だったのです。

 いったいどの面を下げてやってこれたのでしょうか。

 しかもわざわざ私の行き先を調べ上げたなんて……気持ち悪いです。


「これはこれはシルヴィアさん、つれないじゃないですか。元婚約者が、わざわざこうして訪ねてきたのですよ? しかもかなり探し出すのには骨を折りましたよ。まさかこんな辺境の地に身を落ち着けていただなんてねぇ……。もっと歓迎してくれてもいいんじゃありません? ねえ、リシアン王」


「えぇ!? お二人は婚約関係にあったのですか!?」


「勘違いしないでくださいリシアンさん。彼はデタラメを言っています。こんな人の言うこと、信じないでください」


「おいおい! 失礼だなぁ! この国は客人にそんな対応するのかよ!」


 相変わらず嫌な感じの人ですね……。

 これがクロードの本性というわけですか。

 今思うと、さっさと婚約を破棄出来てよかったです。


「それで、今更なんの用なのでしょうか?」


「ああ、そうでした……。実はですねぇシルヴィアさん。あなたが居なくなってしまって、大変困っているのですよ……」


「はぁ……?」


 自分たちから追い出しておいて、何を言っているのでしょう?

 さすがに低知能すぎて呆れます……。

 言ってることが滅茶苦茶ですね。


「いえね、あれから皆で話し合って、老人を追放することにしたのです。ですがその政策は失敗に終わりました……。なのでこの状況をなんとかしてほしいのです。暴動が起きてしまって、正直手に負えない」


「え……」


 私はクロードの言葉に絶句しました。

 本当のバカなのでしょうか……。

 まさか私が居なくなって数か月で、ここまでの失策をやらかすとは思ってもみませんでした。

 本来であればクロードの国は、議会に参加できないほどの小国です。

 なのでクロードの知識や統治能力も、大したことないことは、百も承知でした。

 ですがまさかここまでとは……。


「そんなの、あたりまえじゃないですか。自業自得ですよ。というか、他の議会員がよく許しましたね……」


 まあきっと、私がいなくなったところで調子に乗っていたのでしょう。

 議会揃って無能ですね……。

 いくら経験がないと言っても、これは……。

 歴史を学ばないからこうなるんです。

 私は500年の間に、知識の累積がありますからね、こんなへまはしません。


「そこをなんとか……! 私も後悔をしているのです! あなたを追い出してしまったことはこの際ですから・・・・・・・謝ります! ですからどうか、最後に一度だけお助けください! シルヴィアさんの魔法なら、なんとかできるはずです!」


「そんな、暴動を鎮めるなんてこと、無理ですよ。魔法で人の心までは操れませんからね。民の心が一度離れたら、その国はもうおしまいですよ」


 まったく、このルキアール王国を見習ってもらいたいものですね。

 するとそこで、さっきまでは比較的穏やかに話していたクロードが、豹変しました。


「っち……下手にでりゃあ、さっきからなんなんだよ! 結局なんにもできねえ、口先だけの老害ババアのくせに!」


 ついに本性を表しましたね……。

 まったく、愚かにもほどがあります。

 どうしましょうかねぇ……。

 私がどう対処するべきか悩んでいると、リシアンさんが急にクロードへと詰め寄りました。


「な、なんだよ!?」


「さっきから聞いていれば……なんなんですかあなたは! シルヴィアさんに向かってその態度は!」


 リシアンさん、私のために……。


「っは! 俺はヴァルム王国のクロード・キュプロス王子だぞ? それに新世界秩序機構ニューオーダーズの一員でもある。そんな俺に、こんな小国の王ごときがたてつこうっていうのか?」


「そんなことは関係ありません、シルヴィアさんは私の恩人です。そしてこのルキアール王国の救世主です。あなたのようにシルヴィアさんにあだなす者は、この国にとっても敵です」


 リシアンさんの気持ちは嬉しいですが……そんなことを言って大丈夫なのでしょうか……。


「ほう……? その言葉、忘れないぞ? こんな無礼な小国、ひねりつぶしてやるからな。覚えておけよ?」


 クロードはそれだけ言うと、怒ったまま帰ってしまいました。


「リシアンさん、ありがとうございました。ですが、リシアンさんまで彼の恨みを買ってしまったのでは?」


「大丈夫ですよシルヴィアさん。あんな男怖くありません。それに、この国も国力を取り戻しつつありますので……。彼らの国からこの国を攻めようと思うと、険しい山や森を抜けてこなければなりませんからね。そう強くは出てこれないでしょう」


「そうですか……」


 だといいのですが……。

 まあ、クロードの国は暴動が起きていると言っていましたし、戦争どころではないでしょうから……。

 放っておいても大丈夫かもしれませんね。


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