第24話 温泉施設をつくりましょう


 国民の数も増えてきて、そろそろレジャー施設も欲しくなってきましたね……。


「というわけで、温泉を作りたいと思います!」


「温泉……ですか?」


 ルキアール王国出身の方々は、どうやらあまりピンときていないようすです。

 長年の鎖国状態にあったのですから、当然ですね。

 それに、あんな荒野では温泉など縁もないでしょうし。


「エルキア様、我々もわかりません」


 ゴブマッソも手をあげてそう言います。

 この森にも、温泉はありませんから、知らなくても当然です。


「では、温泉について説明しましょう!」


 私は知る限りの知識を披露しました。

 温泉とはもともと、ジャポッネという島国で栄えた文化でした。

 今ではその国はもう滅びてしまったのですが、私はその国の文化が好きだったんですよねー。

 なのでカタログの中には、そういった文化が大量に保存されています。


「つまり温泉とは……天国のようなものなのです!」


 私の説明を、みなさんとても熱心に聞いてくれました。

 そして彼らの顔は、みるみるうちに期待でいっぱいになりました。


「うおおおおおお! そんなものがあったのですね!」


「さすがはエルキア様だ。なんでも知ってらっしゃる。この世の粋を知り尽くしているお方だ」


「さっそく作りましょう! 我々、なんでもいたします!」


 みなさんもやる気になってくれたみたいですね。

 私は操作コンソール境界面インターフェースに『温泉』のページを表示します。


「ほほう……これが温泉!」


「ですが温泉を探さねばならないのでは?」


 当然の疑問が、ネオエルフの青年から飛び出します。

 さすがネオエルフです、鋭い視点ですね。


「大丈夫です。マグマスライムを使えば、この森の中でも温泉施設を建てられますよ!」


「マグマスライム!?」


 マグマスライムとは、文字通り溶岩のように熱いスライムです。

 森の中で飼育するには、火事の危険もあるので注意が必要です。

 なので、まずは金属の飼育小屋を作って隔離してしいましょう。

 耐熱と断熱を兼ね備えた、特殊な金属で小屋を建てます。


魔物モンスターカタログ・オープン!」


 それからそこに、マグマスライムを入れ……。

 横に浴槽を用意し、そこに熱をちょっとずつ持ち込めば、完成です。


「うおおおおお! すごい! あっという間に完成しましたね!」


「これでは我々の協力はいらないのでは? エルキアさまは万能すぎる!」


 みな、少し寂しそうです。

 もちろん、私には考えがあります。

 みなさんの仕事を奪ってばかりというわけにはいきませんからね。

 みなさんに仕事を与えるのも、私の仕事です。


「そんなことありませんよ! みなさんにも、やってもらうことがあります!」


「そうなのですか! 嬉しいです! エルキアさまにお仕事を任せてもらえるなんて!」


 よかった……みなさんまだまだ元気そうです。

 

「このままでは、味気の無い温泉ですからね。みなさんには、施設の外観や飾りつけをしてもらいたいと思います。まだ露天風呂だけですからね。これだと外から丸見えです。それと、男女でお風呂を分けられるように、内装も整えてください」


「わかりました! さあみんな、仕事だ!」


 工事と聞き、ゴブリンたちが張り切った声をあげます。

 外観や温泉の装飾は、センスのいいネオエルフたちが、草木を選定して植えていきます。


 温泉部分の装飾――石や粘土を使う――は、ルキアール王国の方々たちが非常に上手にやってくれました。

 彼らは粘土や石を使うことには慣れていますからね。


 もふもふさんたちは、温泉が嫌いなのか、傍観者と化していました。

 動物は水にぬれるのを嫌いますからね……。

 仕方がないです。


「よし! できたぞ!」


「みなさん素晴らしい働きです! さっそく温泉で、疲れを癒してくださいね!」


「うおおおお! やったぜ!」


 温泉は非常に盛況を博しました。

 それからしばらくは温泉が満員になることが毎日で……。

 その後も、習慣として定着し、エルムンドキアの衛生は素晴らしく進歩しました。


「いやぁ温泉が天国というのは本当だな」


「エルキア様は天国までも創り出してしまわれたのか……」


「エルキア様は神様だからな。天国くらい作れて当たり前だ」


 などと、ますます私の噂に、尾ひれが着きました。

 そこまで持ち上げられると、くすぐったいのですが……。





 次にリシアンさんに会ったとき、私は温泉の話をしました。

 ルキアール王国へ、今後のことを話し合いに行った際のことです。


「へぇ……それはいいですね。そんなものがあるんですか……」


「ええ、ぜひリシアンさんにも入ってもらいたいです。今度エルムンドキアに来た時、温泉を案内します」


 私がそう言うと、リシアンさんはなぜか顔を赤くしました。


「え!? 入る……というのは、その……いっしょにですか?」


 そしてそんなことを言うのです。

 どうしてそんな勘違いをしてしまわれたのでしょう!?

 私の言い方が悪かったのでしょうか……。

 私も思わず顔を赤らめてしまいます。


「そそそそ、そんなわけないじゃないですかぁあああ!!!!」


「え……? いっしょに入るんじゃないんですか?」


 なぜかリシアンさんは少し、がっかりしたようす。

 あれ?

 リシアンさんってこんなことを言う人だったでしょうか?


「ああああ、あたりまえじゃないですか! なにを言ってるんですか!」


「でも、温泉を体験した国民からは、男女が分かれていっしょに入ると聞きましたが……?」


「へ……?」


「いや、我々には同性同士でも、裸で湯につかるという風習はないので……その、少し恥ずかしいといいますか……」


 なぁんだ……。

 というのは、、という意味だったのですか……。


 私はてっきり、私とリシアンさんがという意味かと思ってしまいました。

 どうりで話がかみ合わないわけです。


「そういうことでしたら、リシアンさんが来られるときだけ、貸し切りにもできますよ? リシアンさんは王族なのですから、そのくらいのわがままを言っても大丈夫ですよ」


「あ、いえ……そこまでは。他の温泉を楽しみにされている人が、かわいそうですからね。ちょうどいい機会ですし、私も恥を忘れて、新しい体験に挑戦してみますよ。エルムンドキアの方々とも仲良くなるチャンスです」


 リシアンさんは、本当に素敵な考えをする人ですね。

 私の知る王族というのは、一般人と同じ湯になど入れるか! みたいな人ばかりでしたので、新鮮です。


「そうですか、では今度、お待ちしていますね」


「はい。ぜひ、また近い内にお邪魔します」


 私は次にリシアンさんに会えるのを楽しみにして、国へと戻るのだった――。

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