第23話 キノコの壁【side:ドルス】
私、ドルス・シュマーケンはここボルドー王国の王でありながら、
まさに、順風満帆な人生と言えるだろう。
汚点のない、完ぺきな人生。
そして、それはこれからもそうなるはずだったんだ。
それなのに――。
「どうしてこうなった……」
私は眼前に迫るキノコの壁を前にして、この世で一番長いため息をつく。
横にはフッテンダム騎士国のバムケス・フリーダも一緒だ。
「すまねぇ……」
「まったくだ。とんだとばっちりだよ、まったく……」
フッテンダム騎士国は、バムケスのへまによって、無限キノコの海に飲まれた。
それで、我がボルドー王国まで、国民ともども避難してきたわけだ。
我が国とフッテンダムとは陸続きに、隣同士だからな。
特別な友好国でもある。
まあ、そのせいでこんなことになっているのだが。
「それで、あとどのくらいでキノコはこの国を滅ぼすんだ?」
「さあな、持って三日か……」
「…………」
私は眼下に広がる、美しい故郷の土地を目に焼き付ける。
ここももう見納めか。
たった一人のミスで、国が二つも滅ぶなんて。
だが案外歴史は、そういったことで変わっていくものなのかもしれん。
門番がカギを閉め忘れたことで滅んだ国もあると聞く。
「どうしてカギをかけなかったんだ、バムケス」
私は少々からかうように、芝居がかった口調でそう言った。
門番と鍵の逸話は、この世界の誰もが知っている有名な話だ。
「はぁ? 知るかよ。俺じゃなく担当者に聞いてくれ」
まったく、呆れた男だ。
この期に及んでまだ人のせいにしているのか。
「マウンテングリズリーはどうなったんだ? まだ壁の中にいるのか?」
「さあな、それもわからねえ。キノコに阻まれて、偵察にもいけねえ。まあ、ここまでやってきてねぇってことは、まだ苦戦してんじゃねえのか? 案外、壁はもう破ったが、キノコに埋もれて身動きが取れなくなってたりな!」
バムケスは冗談のつもりかしれないが、案外それもあり得る。
マウンテングリズリーが壁を壊している間も、無限キノコは凄まじいスピードで増殖を続けているだろう。
それこそ、まるで生き物みたいに。
無限キノコは縦にも横にも広がりつづけ、この国まで足を延ばしてきたのだ。
マウンテングリズリーがキノコに飲み込まれ、そのまま圧死していてもなんらおかしくはない。
というのは、少し願望も入っているだろうか……?
「まあ、それだけが不幸中の幸いだな。キノコに加えて、熊までやってきてたら、シャレにならなかった」
我が国に、バムケスの国ほどの軍事力はない。
だが、幸いなことに建築技術や魔法研究などは我が国のほうが進んでおり、なんとか少しずつキノコを駆除することで、一応、食い止めてはいる。
だが、それもいつまでもつか……。
「私はここを離れ、シルヴィアさんに会いに行こうと思う」
「はぁ、お前、正気かよ!? あの薄汚いエルフに頭下げんのか!?」
「当然だろう。もうそれしか方法はない……」
情けない話だが、やはりこうなってみると実際、シルヴィアさんが正しかったとしか言いようがない。
無限キノコがこれほど危険を伴うなんて。
あれだけシルヴィアさんが禁じていた理由が、身に染みてわかった。
それに、巨大化したマウンテングリズリー10頭を仕留められるのも、彼女しかいないだろう。
「まあ、俺は絶対にあんなエルフは認めないが、好きにすればいいさ」
「ああ、お前がなんと言おうと、私はシルヴィアさんに頼むしかないと思っているよ」
こうして、私は数人の使者とともに、ボルドー王国を発つことにした。
簡単に見つかればいいが……。
シルヴィアさんのことだ、我々には見つけられないような場所にいてもおかしくはない。
国の防衛と、避難はバムケスに任せておく。
ヤツの国のへまなのだから、それくらいの仕事はやってもらわねばならない。
私はこれで国を失うことになるが、これは組織のリーダーとしての責任だ。
間違いが起こったなら、誰かがそのツケを払うのだ。
今回はそれが、私だっただけのこと――。
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