第25話 ワインをつくりましょう


「エルキア様、温泉はすごくいいものでした。他にもなにかありませんか……?」


 ネオエルフの青年が、そんなことを言ってきました。

 そうですね……温泉以上の楽しみとなると、難しいです。


「そうです! ワインをつくりましょう!」


「ワイン……ですか?」


 幸い、この森にはワインの原料となる果物が生っています。

 たまにはそういった楽しみも必要でしょう。


「では、この果物を集めてきてください」


 私は操作コンソール境界面インターフェースを開き、葡萄の写真を表示します。


「この果物でしたら、森の西側で見たことがあります! わかりました! 集めてきます!」


 ネオエルフたちはさっそく、森の西側に探索に出かけました。

 オークが彼らの護衛を担当します。

 そしてモフモフさんたちも同行するようです。

 果物のありそうな場所を、臭いで判断するそうです。


「いやぁ、みなさん協力して……素晴らしい場所ですね」


「リシアンさん……! いらしてたんですね」


 突然リシアンさんが後ろから現れて、私は少々びっくりしました。

 それと同時に、うれしさで口元が歪んでしまいます。


「ええ、約束の温泉を味わいに来ました。それと……ちょうどワインの製造に立ち会えそうで、ワクワクしていますよ。ラッキーでした」


「はは……そうですね。ぜひリシアンさんもワインを飲んでいってください。温泉からあがるころには、お出しできるようにしておきます」


「えぇ!? そんなにはやくできるんですか!?」


「ええまあ、リシアンさんの分くらいはすぐにできますよ。それから、ルキアール王国にもお土産に持って帰ってくださいね」


「そんな……何から何まで。ありがとうございます」


 私はリシアンさんを温泉施設まで案内したあと、さっそくワイン作りに取り掛かります。


「えーっと……醸造台ブルワリー・設置!」


 するといつものように、魔法で製造台が生成されました。

 これはアルコール専用の製造クラフティングテーブルです。

 中に果物を入れるだけで、一瞬でお酒にしてくれます。


作物ファーマーズカタログマーケット・オープン!」


 カタログの中から、葡萄を選択して生成します。

 これをやると少し味が落ちるのですが……。

 ネオエルフたちを待っていては日が暮れますからね。

 とりあえずはこれで作ってみましょう。


「えい!」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 そんな不安になるような音をたてて、醸造台ブルワリーは動き始めます。

 しばらくして、新鮮なワインができあがりました!


「リシアンさん、ワイン、出来上がってますよ」


 さっそく、お風呂あがりのリシアンさんに提供します。

 リシアンさん、お風呂上りだと普段よりさらにかっこよく見えますね……。


「ありがとうございます」


 ――ごくごくごく。


「おいしい!」


「よかったです」


「本当に、生き返るようですよ」


「はは……大げさですね」


 所詮は、魔法で生成した果物でつくったワインです。

 天然のものと比べれば、かなり味が落ちるのですが……。

 それでもリシアンさんが喜んでくれたなら、私はとっても嬉しいです。


「ルキアール王国にはワインなどなかったので、想像上の飲み物でした……。まるで神話の中に出てくるような……。話には聞いていましたが、こんなに美味しいものだとは」


「よろこんでもらえたようで、よかったです」







 リシアンさんの口コミもあって、ワインはすぐにエルムンドキアとルキアール王国の間で、大ブームとなりました。

 生産が追い付かなくなったので、今では普通に私の魔法で出した葡萄をメインに作っています。

 いちおう、葡萄の栽培もはじめたりしてはいますが……。

 天然ものは高級品になりそうですね……。

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