第14話 悪法列挙【side:クロード】


「さて、前回の会議では、バムケスのフッテンダム騎士国の食糧不足についてだったな。【無限キノコ】の栽培施設を作り、マウンテングリズリーを放つことで解決するということだったな」


 ドルス議長が、前回の会議についてさらっとまとめを述べる。

 これがいつもの会議のスタイルだ。


「そちらについては、現在、さっそく配備を進めています」


 発案者であり、担当者のサイラ・コノンドーが報告を述べる。


「うむ。では、本日の議題に移ろうか……。誰か、困っている国はあるか?」


「はい! 本日は私から、お話がありますわ」


「おお、これは珍しい」


 真っ先に手をあげたのは、我が愛しの婚約者――ルリア・マシュコンレーだ。

 ルリアのリリンガ王国は大国だが、それゆえに、いろいろと苦労も多いと聞く。


「我が国では現在、貧困層の治安が問題となっておりますわ。彼らは日銭を稼ぐことで精一杯のくせに、その少ないお給料をお酒などに費やしてしまっているのです。嘆かわしい……」


「たしかに、それは問題ですねぇ……」


 これには俺も同意だ。

 我が国でも、似たような問題は日々起こっている。

 おそらく他の国でも似たような状況だろう。


「いっそ、お酒を禁止してしまえばいいのでは?」


 また解決策を思いついたのはサイラだった。

 頭の切れる男だ。


「だがそれも、シルヴィアさんは絶対にダメだと言っていた」


 ドルス議長が首を横に振る。

 なにを情けないことを言っているのだろうか。

 シルヴィアのことなどもう忘れればいいのに。


「お言葉ですが、シルヴィアはもうここにはいないのですよ? それなのに、遠慮する必要はありません。きっとヤツのことです、酒屋とのつながりでもあったのでしょう……。汚い女です」


「む……たしかにクロード殿の言う通りかもしれん。シルヴィアさんはもう議会員ではなくなったのだ……」


「そうですよ! ドルスさまが議長なのですから!」


 我ながら、上手く言いくるめたと思う。

 ドルスさえ押さえれば、あとは簡単に法案が通る。

 だがそこに、バムケスが異議を唱えた。


「酒が飲めなくなるのは困るぞ? 俺はそれじゃあ生きていけねえ!」


「でしたら……我々上流階級だけで独占するのはどうでしょう……? そうすれば、酒屋もハッピーになれます。以前より高値で買い上げれば、文句は出ないでしょう」


「お! それはいい考えだな、クロード」


「でしょう? そもそも、平民たちが酒を飲むなど贅沢だったのです。彼らの貧相な舌では、もったいない」


 これであとは、決を採るまでもないな……。

 禁酒法は確実に施行されるだろう。


「では、平民たちの飲酒、および酒の購入、所持を違法とすることで問題ないか?」


「ああ、問題ない」


「では、ルリア・マシュコンレー王女のリリンガ王国から先行的に、禁酒法を進めていくということで……」


 議会は満場一致で可決した。

 やはり、シルヴィアという老害が一人消えるだけで、議論が進む。

 俺は世界を、数世紀前に進めたんじゃないか?

 偉大すぎる……!

 やはり老人は百害あって一利なしだな。

 そうだ――!


「次は私から一つ提案があるのですが……」


「なんだクロード? 話してみてくれ」


「老人を冷遇するというのはどうでしょう? 彼らは何も生み出しません、あとは死にゆくのみ。それはシルヴィアを見ていてもよくわかったでしょう? 老人にお金を使っても、リターンがありません。ですが若者に使えば、投資になります」


「たしかにそうだが……それはやりすぎではないのか? 明らかに私怨が混じっているように聞こえるが……?」


 ドルスめ……話の分からんやつだな。

 俺はなにも老人をすべて迫害し、殺せと言っているのではない。

 現在職に就いていないものや、生産を行っていない人口を減らすだけだ。


「そんなことはありません。彼らは口だけで、我々の邪魔ばかりします。なにも殺せというのではありません。彼らを国外へ追放しましょう! そうすれば、国の生産力は間違いなく向上しますよ!」


「うーん、まあそんなに言うなら、クロードのヴァルム王国だけで、試しにやってみてくれ。だが、どうやって老人を外へ追い出す? 出ていけと言って素直に従うか?」


「そこは考えがあります。老人を廃棄した世帯に、補助金を配るのです。これくらい、痛くもありません。未来の生産力への投資です。これによって出生率もアップすること間違いなしです!」


「うーん、そうだなぁ……まあ確かに……」


 クソ、ドルスの奴、慎重にもほどがある。

 だがあともう一押しだな。

 俺は新婚約者、ルリア・マシュコンレー王女に目くばせする。

 すると、ルリアは無言でうなずき。


「ドルス議長、私からもクロードさまのアイデアを推薦しますわ。彼の意見は素晴らしく機知に富み、鋭い考察だと言わざるを得ません。これを採用しないのは、組織、いや人類にとっての損失ですわ」


「まあ、ルリアさんがそこまで言うのなら……。そうだな……」


 ルリアの援護で、どうやら可決できそうだな。

 これで婚約した甲斐もあったというものだ。

 我々二人が議席を抑えていれば、我々の案が通りやすくなる。


「よし、それでは決まりだな。今日のまとめに入ろう」


 その後、ドルスを中心に、報告書が作成された。

 会議の内容は書面に残しておくことで、後からのトラブルを避けられるのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


・【無限キノコ】×マウンテングリズリー作戦 / フッテンダム騎士国 / バムケス・フリーダ


・禁酒令 / リリンガ王国 / ルリア・マシュコンレー


・老人追放 / ヴァルム王国 / クロード・キュプロス


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、これがどう転ぶかな……。

 上手くいくことを祈ろう――。

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