第13話 防衛整備


「うぅーん……?」


 朝、私はけたたましく鳴り続ける騒音に起こされます。

 音は下の方から聞こえてきます。

 みなさんでなにかしているのでしょうか……?

 ……っは!

 まさか、ゴブリンたちが【ネオエルフ】たちに反乱を……!?


「大変です! すぐに行かないと……!」


 私は乱れた髪のままで、下へと降りていきます。

 ですが、それはすぐに杞憂だったと気づきます。


「ほっ……。よかった……。でも、これは……?」


 なんと騒音の正体は、ゴブリンたちが工事をしている音でした。

 余った家を解体して、街の外壁を作っているようです。

 さらには、トラップや、武器まで制作しているではありませんか……!

 どういうことでしょう……。

 ゴブリンたちが自ら街の為に、工作をしてくれているのは構わないのですが……。

 彼らにそれほど高度な知能があったでしょうか?


「あ、エルキアさま。おはようございます! 勝手に木を切ってはいけないと思ったので、空き家から資材を拝借しました」


 私を見つけたゴブリンの一人が、駆け寄って来ます。

 昨日も話をした、知能が比較的高い個体でしょうかね。

 でも、見た目が昨日と異なるような……?

 なんだか、より人型に近づいた気がします。

 私、寝ぼけているんでしょうか?


「ゴブリンさん……その身体……どうしたんですか?」


「さぁ? 我々にもわからないのです。朝起きたら、身長が高くなっていました。それに、顔もシュッとして、男前でしょう? しかも、知能まで格段に上昇したんですよ!?」


「はぁ……それはよかったですねぇ! ですが、いったいどうして……?」


「ふっふーん! それは私が説明しましょう!」


 なぜか自慢げに現れたのは、世界樹の精霊――ユシルです。

 これも世界樹の力の影響なのでしょうか……?


「まさかユシル、あなたが?」


「……というより、ママのおかげでもあります」


「私が!?」


「ええ、世界樹を再生するときに、ママの魔力を使いましたよね。そのときに、ママの魔力があまりにも多すぎて、世界樹の中に余っちゃったんです。そのせいで、ここが超強力なパワースポットになってしまっているんですよ」


「そんな馬鹿な……」


 つまり、ゴブリンたちが一夜にして上位種に進化したのも、私のせいだというわけですか……。

 【ネオエルフ】たちの成長と繁殖速度が異常に早いのも、そのせいだったりするんでしょうか?


「やはり、我々が進化できたのも、エルキアさまのおかげだったのですね!? さすがはエルキアさまのご加護です! 我々、この国に受け入れてもらえて、本当に幸せです!」


「それで……ゴブリンさん、朝からいったい、なんの騒ぎなんですか?」


「ああ、これですか? 我々なりに、足りない頭を使った結果です。我々ゴブリンたちにできることはなにか……それは戦いです! エルフの皆さんを、我々で防衛しようと思ったのです!」


「まあ、それは見ればわかりますが……家を破壊しちゃダメじゃないですか……。資材が必要なときはちゃんと言ってください」


「す、すみませんでした!」


 とはいえ、いちいち私の許可を得ていては不便でしょう。

 彼らの自主性に歯止めをかけることにもなります。


素材マテリアル変換機コンバーター・設置!」


 まずは素材マテリアル変換機コンバーターを誰でも使えるように、アイテム化したものを設置します。


「エルキアさま……なにをされているのですか?」


「まあ、見ていてください」


 次に、二つの無限収納庫アイテムボックスを両端に置きます。


無限収納庫アイテムボックス・設置!」


 それを繋げて……。

 片方は空のまま、もう片方には、【無限キノコ】を入れておきます。

 あとは自動的に、素材マテリアル変換機コンバーターが【無限キノコ】を木材に変え、空の容器に移してくれるはずです。


「これで、私のいないときにも、ここから資材を取り出せますよ」


「エルキアさま! なんと素晴らしいアイデアでしょうか! 本当にお優しいお方だ!」


「そうですねぇ……ゴブリンさん」


「はい?」


「あなたに名前を付けます。あなたはゴブマッソと名乗ってください。そして、あなたを現場監督に任命します! あなたの管理のもとで、これらの資材を有効活用してください」


「は、はい! ありがたき幸せ! このゴブマッソ、命に代えてもこのエルムンドキアに貢献いたします!」


 これでゴブリンたちに任せておけば、街は自動的に発展していくでしょう。

 私って、あったまいい!

 それに、勝手に防衛も申し出てくれたので、かなり優秀ですね。

 これで【ネオエルフ】たちも、安心して暮らせるでしょう。


 ゴブリンたちには街の防衛と拡張を。

 【ネオエルフ】たちには農作業を。

 それぞれ、仕事もあります。

 国の発展の第一フェーズとしては、なかなか上々なんじゃないでしょうか。


「さぁて……これで私もようやく一息つけますね」


「お疲れ様です、ママ」


 私はその後、街の中を歩いて見て回りました。

 ゴブリンたちも知能が高くなったせいか、普通に【ネオエルフ】たちと会話を楽しんでいます。

 上手くやっていけそうですね。

 【ネオエルフ】の数も、15人にまで増えていました。

 これはどこかで避妊を覚えさせないと……マズイですね……。

 あとでとりあえず、注意しておきましょう。


「そろそろ私がこの国を離れても、大丈夫そうですね……」


 何気なく言ったこの一言で、みんなは大騒ぎになりました。


「そんな!? エルキアさまがこの国を去られるなんて!?」


「私たちは神に見捨てられたのだ……!? おおおおおおん!」


「エルキアさまー! 捨てないでください!」


 【ネオエルフ】もゴブリンたちも、拝むポーズをしてみたり、泣き叫んでみたりと大騒ぎです。


「はいはいみなさん、勘違いしないでください! 私がみなさんを捨てるわけないじゃないですか。私は、一時的にこの国を離れるだけです」


「なんだ……よかった……」


「……っほ」


「安心しました……エルキアさま! 我々を捨てないでくれて、ありがとうございます!」


 なんとか誤解は解けたようですね……。

 まったく、はやとちりな人たちですね。


「というわけで、明日からしばらく、ルキアール王国へ行ってきますね」


「ルキアール王国……ですか?」


「ええと……みなさんは知らないですよね。みなさんがここに来る前に、この国で最初にお迎えしたお客さん、それがルキアール王国のみなさんなんですよ」


「そんなことが……!? 知りませんでした!」


「神話以前のお話だ……!」


「それは……つまり、他国の神ということだろうか……?」


 みなさん口々に噂をし、めちゃくちゃな推論を話し始めます。

 説明が面倒ですね……。


「とりあえず、そういうことなので、みなさん。留守の間、よろしくお願いしますね?」


「もちろんですとも! 我々に、エルムンドキアをお任せください! 必ず、エルキアさまの留守を守り抜いてみせますぞ!」


「はは……頼もしいです」


 なんとかなりそう……ですかね?

 まあならなかったらそのときです!

 そんなわけで、私は、リシアン・コルティサング王子に会いに……。

 ルキアール王国へ出向くことにしました!

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