第12話 愚かなるもの


「ゴブリンの大群です! みなさん、世界樹の上に逃げてください! ツリーハウスに避難です!」


 私は、独自魔法――全域拡声ラウドスピーカーで地上にいる【ネオエルフ】のみなさんに呼びかけます。


「大変だ! エルキアさまが危険を知らせてくださったぞ! みんなで避難するんだ! 急げ!」


 よかった……真っ先に気がついたエルヴィンが、みなを先導してツリーハウスに向かっているようです。

 これでとりあえず、彼らの安全は確保できたでしょう。

 まあ、彼らも不死なので、殺されることはないでしょうが……。

 なんといっても相手はゴブリンです。

 何体か、上位種のオークもいます。

 彼らの手にかかれば、何をされるかわかりません。


「ではユシル、みんなを頼みます。私は、ゴブリンたちを止めてきます」


「はいママ。ここは私に任せてください!」


 私は空中浮遊スカイムーブで森の上空から、ゴブリンたちのもとへ一直線に向かいます。





「止まりなさい! ここより先は、エルフの国――エルムンドキアの領土となります。なにか用事があるのなら聞きますが……」


 ゴブリンのような凶暴な連中には、少し強気で対処したほうが良いです。

 下手に出るとなにをされるかわかりませんからね。

 私の言葉に、一人のゴブリンが反応しました。


「おろかなるものよ、ここはおれたちのなわばりだ……。ころされたくなければ、たちされ!」


 はぁ、そういうわけですか……。

 まったく、彼らのような弱い生物には、私の力がわからないんでしょうかね?

 まあ、無理もありませんか……力の差が違いすぎますもんね。


「違いますよ。ここは500年前から、私たちエルフの土地です。そこにあとから住み着いたのがあなたたちだっていうのに……」


「うおおおおお! ころす! エルフ! ころす! ころす!」


 どうやら話し合いでは解決しませんね……。

 ですがここは自然界。

 弱肉強食の世界です。

 ゴブリンたちもそのことは承知の上で、力を向けている。

 だったら格の違いを見せつけてやるまでです。


「まったく、野蛮なんですから……!」


 500年前とおんなじですね。

 前にもゴブリンとの戦争がありました。

 あの頃は私も未熟で、多くの犠牲を出しましたが……。

 今は違います。


人形製造ゴーレムクリエイト!」


 彼らのような野蛮なモンスターに対しては、物理的な大きさで強さを示すのが一番です。

 私の魔力の膨大さを感じられないような連中ですからね。

 なので、ゴーレムを出してしまえば退くでしょう。

 私も彼らを蹂躙する気はありませんからね。

 無血で済むならそれに越したことはありません。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 大きな地響きとともに、地面から巨大なヒトガタが生えてきました。

 これこそ、古代の魔法技術が誇る、ゴーレムです。


「な、なんだこのおおきさは!? われわれではかてないっ……!」


 さすがのゴブリンたちも、ゴーレムにはびっくりしたみたいですね。

 この時代の人々は、ゴーレムなんて見たこともないでしょうから。

 ゴーレムは、もはや失われた技術です。


「さあ、これで私の力がわかりましたか? 争う気はありません。あなたがたの住居まで侵略していくつもりはありませんから、この森で共存していきましょう?」


 私はゴブリンの長らしき個体に向かって話しかけます。


「す、すみませんでした! あなたさまのお力、よくわかりました!」


 あらら……。

 なかなか素直なゴブリンたちですね。

 でも、負けるとわかっていて無理やり挑んでこない点は、評価します。

 これほど知能のましなゴブリンたちであれば、本当に共存できそうですね。


「ぜひ、われわれをお仲間に入れてください!」


「えぇ!? あなたたち、ゴブリンをですか……!?」


 たしかに私は共存していきましょうとは言いましたが……。

 エルムンドキアの一員に加えるつもりはありませんでした。

 エルフとゴブリンの共同体など聞いたこともありませんし……。

 上手くやっていけるのでしょうか?


「本気で言ってるんですか……?」


「はい。われわれゴブリンは、この森では格下の存在。ぜひ、あなたのような強者のもとで暮らしたい! あなたこそがこの森の王です!」


「うーん……【ネオエルフ】たちがなんと言うか……。そもそも、あなたたち、エルフに暴力は振るわないと約束できるんですか?」


「はい! もちろんです! みなに徹底させます! われわれは知能はエルフのみなさんに比べれば、微々たるものですが、力はあります! 力仕事は任せてください!」


 たしかに、エルフにはない強みを、彼らは持っています。

 彼のように、頭のいい個体も何体かいますしね。

 彼らが力仕事を担ってくれれば、【ネオエルフ】たちの助けにもなりますね……。

 幸い、空の住居は腐るほどあるんです。

 【ネオエルフ】たちが許すのであれば、彼らを受け入れてみましょう。


「はぁ……。仕方ありませんね、ついて来てください。【ネオエルフ】たちに会わせます」


「ありがとうございます! 偉大なるエルフの王よ!」





「ええ、我々は一向に構いませんよ」


「そうですか、よかったです」


 原初のエルフ――エルヴィンとエルシーラに訊ねたところ、二つ返事でオーケーがもらえました。

 これで人類初(?)のエルフとゴブリンの共同体が、ここに誕生しました。


「では、ゴブリン族のみなさん、よろしくお願いしますね」


「はい! 農作業でもなんでも、われわれに任せてください!」


 敵としては恐ろしいイメージしかありませんでしたが、味方になってしまえば頼もしい限りです。

 【ネオエルフ】たちにはそれほど強い力はありませんし、防衛の戦力としても頼りになります。

 まあ【ネオエルフ】は不死身なのであまり気にするところではないかもしれませんが……。

 そのうち【ネオエルフ】たちにも私が魔法を教えて、自衛の手段を身に着けてもらう必要がありそうですね。


「では、私はもう疲れたので、今日は寝ます」


 私が生あくびをしながら、ツリーハウスへ戻ろうとすると――。


「はい、お疲れ様でした、エルキアさま」


「おやすみなさいエルキアさま」


「エルキアさま、エルムンドキアに長寿と繁栄を!」


 みなさん……私を崇めすぎです……。

 眠りにくいじゃないですか……。


「は、はい……お、おやすみなさい……みなさん」





「はぁ……今日は疲れました」


 ――ぼふ。


 私は自室のベッドに倒れるようにして沈み込みます。

 その隣には、可愛い可愛いユシルがちょこんと座っています。


「ママ、お疲れ様です。みんなの神様をやるのは、大変ですよね」


「ですねぇ……。ぬわあああん、もう寝ます! あとのことは明日考えますぅー!」


「あはは、ママ珍しい! そういう子供っぽいところもあるんですね」


「ありますよぅ! 私だってたまにはダラダラしたいんです!」


 そんなふうにして、ユシルとおしゃべりして、じゃれ合っているうちに、私はいつの間にか眠っていました。

 こんなにぐっすり、深く眠ったのはいつぶりでしょう。

 不老不死なせいで、どうしても睡眠を軽視してしまうんですよねぇ……。

 だからかは知りませんが、たまにこうして、どっぷり眠る時間が必要になります。


 このときの私は知りませんでした……。

 朝起きて、あんなことが起こっているとは――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る