第12話 愚かなるもの
「ゴブリンの大群です! みなさん、世界樹の上に逃げてください! ツリーハウスに避難です!」
私は、独自魔法――
「大変だ! エルキアさまが危険を知らせてくださったぞ! みんなで避難するんだ! 急げ!」
よかった……真っ先に気がついたエルヴィンが、みなを先導してツリーハウスに向かっているようです。
これでとりあえず、彼らの安全は確保できたでしょう。
まあ、彼らも不死なので、殺されることはないでしょうが……。
なんといっても相手はゴブリンです。
何体か、上位種のオークもいます。
彼らの手にかかれば、何をされるかわかりません。
「ではユシル、みんなを頼みます。私は、ゴブリンたちを止めてきます」
「はいママ。ここは私に任せてください!」
私は
◇
「止まりなさい! ここより先は、エルフの国――エルムンドキアの領土となります。なにか用事があるのなら聞きますが……」
ゴブリンのような凶暴な連中には、少し強気で対処したほうが良いです。
下手に出るとなにをされるかわかりませんからね。
私の言葉に、一人のゴブリンが反応しました。
「おろかなるものよ、ここはおれたちのなわばりだ……。ころされたくなければ、たちされ!」
はぁ、そういうわけですか……。
まったく、彼らのような弱い生物には、私の力がわからないんでしょうかね?
まあ、無理もありませんか……力の差が違いすぎますもんね。
「違いますよ。ここは500年前から、私たちエルフの土地です。そこにあとから住み着いたのがあなたたちだっていうのに……」
「うおおおおお! ころす! エルフ! ころす! ころす!」
どうやら話し合いでは解決しませんね……。
ですがここは自然界。
弱肉強食の世界です。
ゴブリンたちもそのことは承知の上で、力を向けている。
だったら格の違いを見せつけてやるまでです。
「まったく、野蛮なんですから……!」
500年前とおんなじですね。
前にもゴブリンとの戦争がありました。
あの頃は私も未熟で、多くの犠牲を出しましたが……。
今は違います。
「
彼らのような野蛮なモンスターに対しては、物理的な大きさで強さを示すのが一番です。
私の魔力の膨大さを感じられないような連中ですからね。
なので、ゴーレムを出してしまえば退くでしょう。
私も彼らを蹂躙する気はありませんからね。
無血で済むならそれに越したことはありません。
――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
大きな地響きとともに、地面から巨大なヒトガタが生えてきました。
これこそ、古代の魔法技術が誇る、ゴーレムです。
「な、なんだこのおおきさは!? われわれではかてないっ……!」
さすがのゴブリンたちも、ゴーレムにはびっくりしたみたいですね。
この時代の人々は、ゴーレムなんて見たこともないでしょうから。
ゴーレムは、もはや失われた技術です。
「さあ、これで私の力がわかりましたか? 争う気はありません。あなたがたの住居まで侵略していくつもりはありませんから、この森で共存していきましょう?」
私はゴブリンの長らしき個体に向かって話しかけます。
「す、すみませんでした! あなたさまのお力、よくわかりました!」
あらら……。
なかなか素直なゴブリンたちですね。
でも、負けるとわかっていて無理やり挑んでこない点は、評価します。
これほど知能のましなゴブリンたちであれば、本当に共存できそうですね。
「ぜひ、われわれをお仲間に入れてください!」
「えぇ!? あなたたち、ゴブリンをですか……!?」
たしかに私は共存していきましょうとは言いましたが……。
エルムンドキアの一員に加えるつもりはありませんでした。
エルフとゴブリンの共同体など聞いたこともありませんし……。
上手くやっていけるのでしょうか?
「本気で言ってるんですか……?」
「はい。われわれゴブリンは、この森では格下の存在。ぜひ、あなたのような強者のもとで暮らしたい! あなたこそがこの森の王です!」
「うーん……【ネオエルフ】たちがなんと言うか……。そもそも、あなたたち、エルフに暴力は振るわないと約束できるんですか?」
「はい! もちろんです! みなに徹底させます! われわれは知能はエルフのみなさんに比べれば、微々たるものですが、力はあります! 力仕事は任せてください!」
たしかに、エルフにはない強みを、彼らは持っています。
彼のように、頭のいい個体も何体かいますしね。
彼らが力仕事を担ってくれれば、【ネオエルフ】たちの助けにもなりますね……。
幸い、空の住居は腐るほどあるんです。
【ネオエルフ】たちが許すのであれば、彼らを受け入れてみましょう。
「はぁ……。仕方ありませんね、ついて来てください。【ネオエルフ】たちに会わせます」
「ありがとうございます! 偉大なるエルフの王よ!」
◇
「ええ、我々は一向に構いませんよ」
「そうですか、よかったです」
原初のエルフ――エルヴィンとエルシーラに訊ねたところ、二つ返事でオーケーがもらえました。
これで人類初(?)のエルフとゴブリンの共同体が、ここに誕生しました。
「では、ゴブリン族のみなさん、よろしくお願いしますね」
「はい! 農作業でもなんでも、われわれに任せてください!」
敵としては恐ろしいイメージしかありませんでしたが、味方になってしまえば頼もしい限りです。
【ネオエルフ】たちにはそれほど強い力はありませんし、防衛の戦力としても頼りになります。
まあ【ネオエルフ】は不死身なのであまり気にするところではないかもしれませんが……。
そのうち【ネオエルフ】たちにも私が魔法を教えて、自衛の手段を身に着けてもらう必要がありそうですね。
「では、私はもう疲れたので、今日は寝ます」
私が生あくびをしながら、ツリーハウスへ戻ろうとすると――。
「はい、お疲れ様でした、エルキアさま」
「おやすみなさいエルキアさま」
「エルキアさま、エルムンドキアに長寿と繁栄を!」
みなさん……私を崇めすぎです……。
眠りにくいじゃないですか……。
「は、はい……お、おやすみなさい……みなさん」
◇
「はぁ……今日は疲れました」
――ぼふ。
私は自室のベッドに倒れるようにして沈み込みます。
その隣には、可愛い可愛いユシルがちょこんと座っています。
「ママ、お疲れ様です。みんなの神様をやるのは、大変ですよね」
「ですねぇ……。ぬわあああん、もう寝ます! あとのことは明日考えますぅー!」
「あはは、ママ珍しい! そういう子供っぽいところもあるんですね」
「ありますよぅ! 私だってたまにはダラダラしたいんです!」
そんなふうにして、ユシルとおしゃべりして、じゃれ合っているうちに、私はいつの間にか眠っていました。
こんなにぐっすり、深く眠ったのはいつぶりでしょう。
不老不死なせいで、どうしても睡眠を軽視してしまうんですよねぇ……。
だからかは知りませんが、たまにこうして、どっぷり眠る時間が必要になります。
このときの私は知りませんでした……。
朝起きて、あんなことが起こっているとは――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます