目に刺さるような夕焼けから目を背けてもまだ潮の匂いは微かに香っている。

目を背けている間に何かが変わっているわけでもないのに。

「おい。最近いっつもぼーっとしてんな。」


修哉は伸びかけた坊主頭のままそう言った。

野球部を引退してからは頭をこまめに剃ることもないようだ。

「あぁ、ごめん。」


そう答える僕はまだ上の空だったようで

「遼ちゃんも俺の夢ちゃんと聞いてくれないのかよ。」


と不平を漏らした。


「ちゃんと聞いてたよ。スポーツトレーナーになりたいんだろ。」


去年部活で怪我をしてからこの海沿いの帰り道でよく聞いた話だ。その話を聞くたびに、胸が締め付けられるような痛みを感じる。


「親がずっと反対すんだよ。頭の悪いお前に大学なんて無理だって。遼ちゃんみたいにちっちゃい頃から頭が良くないと駄目だって。やっぱり遼ちゃんはこの町を出て大学に行くんだろ。」


「そんなことまだ決めてないよ。」


逃げてるだけだ。


「修哉なら今から勉強すればいけるよ、大学。」


そんなところ行かなければいい。小学校から続いているこの日常がずっとずっと続けばいい。だけどそれは叶わない。時間というものがまるで自分を縛る枷のように感じられた。この日々を望むだけでも、世界がそれを醜い欲だと阻んでくる。そんなことを思いながら歩いていると、目に刺さるような夕陽はだんだんと沈み、代わりに世界を覆うような黒いカーテンがかかり始める。そんな景色が変われない僕を嘲っているようで、嫌いだ。





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変幻色彩 さんせっとぼーい @sunset_boy

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