第4話


私の家は板橋区にある古い一戸建てである。人が元々少なく、夜になるとほとんど消えていなくなる。

私はあの豪華な屋敷で、あの淑やかなお嬢様と2人だけの三時間を過ごした。

時間の流れを止めたい程幸せな時間だった。何の悩みも何の怖いこともない夢のような時間が私を包み込んでいた。今頭の中でもあの人のことだけ思っていて、地に足がつかないほど興奮してた。

最初に会った時は正直嫉妬の感情ばかりだった、

「どうして世の中こんなにも不公平なんだろう。。」

でも実際に近距離で話した後は嫌な感じがほとんど消えてしまった。むしろ、「好き」になった。

もし大人になって人と一緒に住むことになったら、絶対レナのような美人でしなやかな同い年の女の子がいいよ。私は仕事で疲れて、家に帰ったら、すぐ迎えにきてくれる優しい女の子が最高だ。

私は妄想しつつ、家の方向に向かっていく。

「そうしたらメイド服を着せたほうがいいかな」

独り言をいって思わずレナがメイト服を着る様子を想像してみた。

「あー、なんでこんなにも美しいのだろう。」と

私が家に帰って、ドアを開けて、「ただいま」を言ったら、きっとレナがー

「お前何をしている?早く酒買ってこい!!」

「え?」

反応する前に、顔にビール瓶がぶつかってきた。その痛さと冷たさが私を現実の世界に呼び戻した。

ああ、思い出した。

私と一緒に住むのは可愛い女の子じゃないくて悪魔だったということを。

私はそいつのことを無視して、自分の部屋に戻った。シャワーもあの家で浴びてきたから、後は鍵を締めて朝まで耐えることだけだ。

そいつ、私の父親だった。

以前の彼はマトモにメーカー企業で操作員をやっていたが、ある日事故が起きて右手を失なってしまった。この後は会社に「自己責任だ!」「自分が大きいなミスをしたせいであんなことになった」と責任を転嫁され、補償すらもらえなかった。

その後、彼は廃人になった。毎日家にこもってお酒ばかり飲んでいて、あの日のことを叫んでいる。「あの器械がおかしいんだよ」「機械が故障したせいで俺はあんな目にあった、何故分かってくれないんだ」と何回も何回もこう叫んでいた

母は彼のことを憐んで、必死にバイトをやって生活費を稼いでいた、でも無駄だった私の学費、賃貸、三人の食費、他の料金など主婦だった母親にとって重すぎる。

そしてわたしは一旦退学して母の負担を減らそうと思ったが、無駄だった。

結局のところ、母は病で死んだ。

医者によると結構珍しい病気で、もし早く検査していたら助けられたかもしれない。

母の葬式で私は泣けなかった、母のことが好きだ。悲しくて悲しくて心の底から儚い感情が生じた。全てが夢で、もう一度目を覚めたら、元に戻るかもしれない。

けれど、そうにはなれなかった。

「ドンドンドン」

悲しいうちにドアが悲鳴している。

「小娘、早く酒買えを言ってんだろう。お前を育てた恩情を忘れたか」

あ、何故男ってダメなやつはこんなに多いんだろう。

今の私は何の感情もなくそう思った。

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