第二章 私のもう一つの顔

電話越しでも分かる、違う人物。


「初めてだよ、朧以外の奴と話すのは。」 


彼は、笑いながら話を続ける。何だコイツは。朧は?


「朧なら眠った。お前が僕のことを暴くなん て思ってなかったよ。改めて自己紹介しよ う、僕は余波と言います。」


なんだこの感じは。


俺は『余波』の事を知っている?


どこで知った?


でも初めてましてな感覚じゃない?


朧と一緒にいた時に感じたあの・・・。


まさか、ずっとあいつの、朧の人格にいたのか?

 

確認しよう。あいつは言った。


『僕の正体を』と。


「何故、俺に正体をバラした。」  


「君は大切な『薬』なんだよ。朧にとってね。詳しい話はできない。今はね。」


薬?俺が朧にとって。話の趣旨が掴めない。余波は朧にとってどういう存在なのかも分からないままだ。

 

まだ詳しい話をしたいがそろそろ時間だと余波は呟く。待て、まだ分からない事がある。


「また話そう、その時にね。当分朧をよろしくお願いますね。彼女は何をしでかすか分からないので。僕は後処理のことしか出来ない存在なのです。」 


そう伝え、通話は途切れる。朧が何かする度に余波が出てくるってことなのか?


「結局朧の口から何も聞けなかったな。」


 

会う度に泣きそうな顔で俺を待ってくれている。何も文句も言わずずっと待ってくれる朧は・・・。俺の知っているあいつの本当の顔を俺は見ていないのか?

 

俺は、俺にとっての朧は何だと一日中考えて考えて・・・。

 

結局分からないまま時間だけが過ぎて行き朧と会うのは『あの時』から半年が経った頃だ。


目の前に現れたのは朧じゃなかった。あいつだった。

 

見た目でも分かる。朧は普段メガネなんてかけない、そして長髪のはずが短髪になっていた。服装もあいつの雰囲気の服装ではない。


「お前は・・・。」


「今度こそ初めまして、来栖さん。」


 やはり目の前にいるのは俺の知ってる朧ではなかった。余波だ。 朧とは違う雰囲気の圧を肌に感じ、席に着き店員さんに注文を頼んだ。呼び出した理由は把握できてないが、多分前回の事だろう。


「で、俺を呼んだのは・・・。」


「そう、朧と僕の事を話そうと思って。君なら話してもいいかと思って・・・。今後、僕がいなくなってもいいようにするためにね。」

 

いなくなる?どういう事だ?


「それって、お前が表に出てくる条件が関わるのか。」


 余波が驚く顔をした。関係性は高いことが分かれば話は簡単にこうなるのだろう・・・。


「そう、朧はね・・・」

『ストレス』が極限に溜まると余波を出し、発散しているらしい。余波も朧がストレスが溜まっていくと感覚的に分かり定期的に目覚めてしまうと語る。普段は、朧の頭の中で寝ていることが多いと言ってるが、最近は起きてることの方が多くなっていると。


「朧ね、今は心の傷に対してストレスになっ ているんだ。失恋ってやつ。馬鹿だよあいつは。」

 

失恋した話は耳に入っているがそれでストレスになっている事は知らなかった。朧は何も言わないから。何があっても誰かに話すことはしない奴だからだ。いつも事だから尚更今回はタチが悪い。解決することが困難になる訳だ。


「今もストレスが溜まっていて余波が出てきているのか・・・。」


「そうですね、僕的には構わないのですが、これは病気の類になると本で確認済みです。だから、完治してしまうと僕はいなくなる、だから貴方に頼みがあって。」


成る程、話は早く終わりそうだ。しかし余波の表情は悲しい顔つきだ。一人の身体に二人の人格。余波にとって生まれてきた理由、そして消える理由も前から分かっていたことだと思う。俺には理解は難しい話になるが。


「来栖君は、僕の存在についてどう思いますか?僕 は彼女によって生まれた存在で、ストレス の塊。感情とういものは正直言ってわからない・・・。」


 一番辛いのは朧と余波だと思う。俺はそう思う。一つの身体で対処できない苦しみが一気に来ると思うと考えられない。他人のことは考えたことないが朧のことは何故か考えてしまう自分がいる。

 

こんな時どう接していいか分からない。分かっても・・・。

「余波は・・・。お前はどうしたいんだ?お前にとって朧はどんな存在なのか。」   


今の質問に俺は自分だったら答えられないのに発してしまった。余波は考えずに直ぐに答えを出す。

「僕は、朧にとっての捨て駒。いや処理だけの存在・・・。って思ってましたよ。最近 までは。」


「最近までは?」


余波は、クスッと笑い、俺を見て話し出す。半年間、考えていた答えを。

 

半年間も朧は定期的に余波と交代して自分は眠っていたらしい。余波は朧の身体に異変を感じた。自傷行為が増えていたことだ。傷は確かに前回より増えていた。こんなにも苦しい思いしてまで彼女を苦しめているモノ。

 

見えないモノと朧は常に戦っていてそして負けて死にたいと生きてる価値を知りたくなり自傷行為を行っていると。

 

そして、余波はとある手紙を出してきた。

「これは・・・。」 

「そうです。彼女は僕宛に書いた手紙。」

 内容はこう書いてあった。

 

『 余波へ   

私の為に、毎度後処理をしてくれて本当に

感謝してます。私は後悔しています。貴方 にこんな辛いことをさせ、私は逃げてしまい。人格を作り余波は私を恨んでいるとそう思っています。生みの親そして私の大切 な兄妹。でも頼れるのは余波と友人だけ。

どんなに友人がいても私には貴方だけが心の支えになっています。私の病気が治っても余波は私の大切な人です。だから・・・

これからも・・・』

 

文章はここで途切れていた。そして便箋には血が付着していた。


「彼女は自傷行為をする度に僕宛に書いています。そしてこれを・・・。」

 

余波はもう一通の手紙を渡してきた。これは。


「俺宛の手紙・・・なのか。」

 

そっと開封し読んだ。そこには感謝の言葉でいっぱい書いてあり、少し字が滲んでいる場所もあった。こんなに苦しんでそれでも伝えたかったことを書いて。俺は朧に何もしてないのにあいつは『ありがとう』と何度も何度も綴っていた。戻ることも出来ない時間をもとに戻って欲しいと思った。


「貴方は、私にとって光で憧れって、俺はお前に何も与えてないのにさ。」

 

あんなにそばにいて忘れられない悲しい顔を思い出す。お前はいつもいつも笑顔で振る舞っていたのかよ。

 

余波も俺もあいつにとっての柱、心の柱。いつか終わると思う道を探し続けている朧は今も苦しみから解放されたいと俺達にそう伝えたかっただろう。ごめん、気づいてあげられなくて。


「彼女は来栖さんに感謝してますよ。僕には 分かります。だって見て・・・。」


 指を差す文章を見て、俺は朧の気持ちを、本当の気持ちが書いてあった。それは・・・

 

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彼に本当の自分を見て欲しくて かりんとう @nana_ssm

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