子供たちの本音

 いつもは不気味で仕方なかった法事は、感情がかき回されお手上げ状態だった今日の快人にしたらあっという間に過ぎていった。僧侶が礼をして部屋から立ち去り、大叔父もそれに続いて部屋から出ていく。大叔父の姿が見えなくなってから大人たちが次々に立ち上がり、座布団を移動させたり、どこからか大きな机を出し始めたりし始めた。訳もわからないまま快人は急いで立ち上がり、部屋の隅に逃げ込んだ。おしゃべりな女性が「安いけどおいしいのよここの料理!」なんて言っているから、食事の準備をしているんだろう。次はこれか。快人の喉から思わず唸り声が漏れる。


「腹減ってねーの?」


 青年が快人の顔を覗き込みながら不思議そうな声で問いかけてきた。快人はぐるぐると音を立てる自身のお腹に手を当てた。


「空いてる……」

「じゃあなんで唸ってんの?」


 快人は爪先を見つめて黙り込んだ。父にも母にも話したことのない自分の気持ちを、初めて会った青年に話していいのだろうか? 話して、快人の気持ちをわかってもらえるだろうか?

 少しだけ顔を上げて青年を覗き見ると、青年は首を竦めて苦笑いした。


「ま、言いたくないならいいわ」


 背を向けて立ち去ろうとする青年。


「きいて! ほしい……」


 青年の後ろ姿を見た瞬間、抑えつけていた衝動が急激に膨らんで快人から飛び出した。

どんどんと小さくなる震えた声。そんな情けない声に、青年は足を止めて振り返った。緩く笑いながら片膝を突く青年に、快人の目に涙の膜が張る。ばれないように目をこすって、青年に駆け寄る。青年の耳に両手を添えて、快人はそっと口を開いた。


「おとなたち、みんなよくわかんないはなししてて、おいてかれて、つまんない。

 ……さみしい」


 そうか、おれは淋しかったのか。


 すとん、と音を立てて言葉が快人の胸の奥に嵌まる。嵌まった場所から、じわじわと熱が伝わってきて、また涙が流れそうになった。よくわからない温かな感覚にぼんやりとしていると、快人の耳に温かい何かが添えられた。青年の手だ。


「俺も、あいつら何しゃべって盛り上がってんのかわかんねーから置いてかれてる。

 つまんないし、……まあ、確かに、……淋しい、な」


 ハッとして青年の顔を見ると、青年は頬を少し赤く染めて困ったように笑っていた。それがどうしようもなく嬉しくて、快人はこの日一番の笑顔を見せた。

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