第9話 タイムカプセル

今日は高校時代の同窓会。

卒業して10年目の同窓会だ、今までも幾度か開催されてはいたが私が参加するのは今回が初めてだ。

陰気で友人も居なかった私は参加する気も起きずに毎回欠席していた。

だが、この日の同窓会は参加する事にした。

何故なら今回は特別な同窓会だから。

10年前に埋めたタイムカプセルを掘り返す日なのだ。だから当時の担任も出席する、当時まだ30代の若い担任で女生徒からの人気もあった。

校舎の裏手にある体育館、そのさらに裏の片隅にタイムカプセルは埋まっている。

持参したスコップで地面を掘り返すこと十数分、

プラスチック製の容器が土の中から顔を出した。

蓋はガムテープでぐるぐる巻きに封をされていたが歳月により劣化していてすぐに剥がれていった。

蓋を開けると陰湿な重い空気がガスの様に湧き上がってくるのを感じた。

卒業式の前日に埋めたタイムカプセルの中には

「高校生活の思い出の品」

を入れる事になっていた。

中身を丁寧に取り出していく、このグローブとボールは野球部のAとBのものだ。

彼らにはピッチング練習という名目でよく物をぶつけられたが、一度目の同窓会に向かう途中で交通事故に巻き込まれ飛んできたトラックのタイヤが直撃して亡くなったと聞いた。

お揃いのシューズを入れていたサッカー部の3人組は毎日の様に私のカバンを蹴り飛ばしていたが、河原でBBQをしている時に川に落ちたボールを拾いにいって流されたらしい。

私の制服を燃やしたS子の腕時計を見ながら、たしかアパートの火事で焼け死んだんだったなぁと思い返す。お気に入りの文庫本を入れていたHは最初友達だったけど気づけば私の教科書をズタズタに切り裂くようになっていたっけ。去年、長年付き合ってた彼氏に浮気をされて捨てられ、風呂場で手首を切り刻んだと聞いた。

気づけば私の背後には当時のクラスメイト達が並んで立っていた。

物言いたげな視線を無視してタイムカプセルから小さな木箱を取り出す。

「私の思い出の品」

木箱の中身は私の子供だ。

ずっとイジメの相談に乗ってくれた担任、唯一の味方と心と身体を開いた私を弄び妊娠がわかると金だけを渡して堕ろさせ私を捨てた男との子。

この子を堕ろした日に私の心も死んでしまった。

「たしか、浮気相手を孕ませた事が奥さんにバレて刺されて死んだんだっけね。」

本当に懲りない男。心の中で呟きながら箱を愛おしく抱きしめる。

「良く頑張ったね。今そっちにいくからね。」

鞄からナイフを取り出し首筋にあてがう。

最期に一度だけクラスメイトと担任に振り返る。


「今度こそ、全員揃った同窓会をしましょうね。」





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