第5話 精霊馬と刀

 お盆の時期になると思い出す。

小学生の頃のお盆の思い出。

精霊馬ってあるだろ?きゅうりとナスビで作る馬と牛、お盆の時期にご先祖様が帰ってくる時に乗ってくると言うやつだ。

私は子供の頃は毎年お盆の時期は父方の祖父母の家に泊まりにいってたんだけど、その地方には奇妙な風習があったんだ。

精霊馬は普通に作るんだけどその横に小さな刀を置くんだ。五月人形の鎧にセットになってるようなミニチュアの刀ね。

子供の頃ってあーゆーのが無性にカッコ良く見えてさ、抜いてみたくて触ろうとするんだけど、祖父母にめっちゃ怒られるのね。

「それはご先祖様のだから触ったらダメだ!」

ってさ。

それでさ、ある年の事なんだけど。その年の始めのあたりにじぃちゃんが亡くなってて初盆だったんだよね。それでばぁちゃんと一緒にじぃちゃんが帰ってくるからって気合い入れて精霊馬作ったんだよ。

じぃちゃんが乗るならカッコよくしてやろうってキュウリの馬の腹にイナズマ模様とか入れちゃってさ。今思うと厨二病がかなり進んでた時期だったな。

そんでいつも通りに刀も飾ってさ、ばぁちゃんから

「刀は触っちゃダメだぞ。じぃちゃんが困るからな。」って言われた。

そしてその晩の事なんだけど夜中にトイレに行きたくて目さましちゃったんだよね。

それでトイレいって用を足して戻る時に精霊馬が目に入ったのよ。それで思っちゃったんだよね。

今なら刀を触っても誰にもバレないって。

廊下は真っ暗だったけど電気をつけると誰か起きてくるかもしれない。寝室なら月明かりが入っててけっこう明るかったし両親はぐっすり寝てる。だから寝室に刀を持ち込んで横になりながら刀を抜いたり

してひとしきり眺めてたんだけどいつの間にか寝ちゃってたみたいでさ。

ふと気がついたら家の近くの田んぼ道にポツンと一人で突っ立ってたんだ。

「あれ?なんで俺こんなとこにいるんだろ?」とか思ってたらさ、道の奥の方からなんか人の声みたいなのと獣の唸り声みたいなのが聞こえたんだ。

私はビビって咄嗟に田んぼのあぜ道の陰に隠れて様子を見てたんだけど、だんだん近づいてきたソレを見て私は驚愕した。馬に乗った男の人が走ってきてたのにも驚いたんだけどその後ろにいる奴がヤバかった。白い毛むくじゃらのデカイ猿みたいなのが奇声をあげながら追いかけてきてたんだよね。

男の人は必死に逃げようとしてるんだけど私の隠れてる場所の手前でついに猿に追いつかれて猿の腕が馬の足を薙ぎ払って馬と一緒に倒れちゃったんだ。

猿は倒れた馬の首に噛みついてそのまま食い千切った。血しぶきをあげてビクビクしてる馬の腹にカミナリみたいな模様が見えた気がしたけと私は怖くて怖くてそれどころじゃなかった。

馬から落ちた男の人はヨロヨロと立ち上がってきてたけど、それに気づいた猿がニヤニヤした笑みを浮かべながら男の方を見て血塗れの口を大きく開けて

キェェェェ!ってデカイ奇声をまた上げたんた。

その声を聞いた時に私は恐怖のあまり「ヒッ!」って声をあげてしまった。

そしたら猿の動きがピタッと止まってさ、こっちを見てまたニヤァっと嫌な笑みを浮かべたんだ。

その笑みを見た瞬間に私の股関が生温かくなるのを感じた。

逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!

そう思うんだけど足が動かない。

きっとあの猿に食べられちゃうんだ!

そう思ってぎゅっと目を瞑った時、

「刀を寄越せ!」

そう声が聞こえた。

目を開くと私と猿の間に立つように回り込んできた男の人がこちらを見て叫んでいる。

何を言ってるのか理解できていなかったが、ふと気がつくと私の手には一振の刀が握られていた。

それを見た猿は奇声をあげて威嚇している。

もうどうしていいかわかんなくって持ってた刀を男の人に向かって投げた。

男の人は刀を受け取ると抜き放った。

刀身が月光を反射して輝いている。

男の人は即座に猿に斬りかかる。

そこで俺の記憶は途絶えた。

気がつくと精霊馬の飾ってある玄関前の廊下で寝ションベンたれてぶっ倒れている所を親と祖母に叩き起こされていた。

精霊馬の馬は首のとこで千切れてるわ刀は抜かれて落ちてるわでめちゃくちゃ怒られた。

夢の話をしても親は信じてくれなかったけど、

ばぁちゃんが後でこんな話をしてくれた。

このあたりの集落の近くの山には人の魂を食べる白い狒々(ヒヒ)の化物が住んでいて、お盆の時期には山から降りてきて帰ってきた祖霊の魂を食べていた。

食べられてしまうと祖霊の加護も無くなり出産率が減り集落は危機に陥った。

その時に都へ向かう途中の高僧が集落に立ち寄ったので相談したらしい。

高僧の調べにより、白い狒々は別の土地で侍に切られて逃げてきて住み着いたモノと判明し、精霊馬と共に小さな刀を供えることで帰ってくる祖霊に武装させる事になった。刀で切られた記憶の染み付いた狒々は刀を見るだけで逃げていくから安全だと。

「お前がじぃちゃんの刀を持って寝てしまったからじぃちゃんは追われて、お前は刀と共に常世の狭間に行ってしまっていたのかもしれないねぇ。」

そう言って一緒にじぃちゃんに謝ろうねと頭を撫でてくれた。

それからは毎年しっかりと精霊馬も刀もお供えして馬も牛もプラモで補強して強くカッコ良く作ってた。

今思うとじぃちゃん恥ずかしかったかもな、すまん。

俺のお盆の思い出話だ。

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