第22話 罪というものは
俺の朝は普段から早い。
でもこの国ではやることがあんまりないんだよな。
陽が昇る前に魔獣預り所へ行ったら開いてなくてションボリ。
建物の周りを何周か走って、基礎体力作りをやってから帰った。
建物の中からは弟たちの声が聞こえるけど、あいつらも出してもらえなくて悲しそうだ。
あとで
それから、一応デッタロ先生からは魔術の本を読む宿題を出されている。
三冊目が終わったら何かあるらしい。
良く分からんけど何かくれるって言ってたので、もうちょいがんばるよ。
「お前はあれだけの事件があったのに、やっぱり魔獣のことが優先なのか」
少し呆れられた。
えー、だって子供の俺が解決出来るわけじゃないし。
「
この国には確かに商隊のお手伝いで来てるけど、本来は俺のご褒美だったはずなんだ。
変なことに巻き込まれはしたけど、それは大人の問題でしょ。
「そうだな」
エオジさんがクスクスと笑っている。
そして食事が終わってお茶が出たタイミングで昨日の話を始めた。
「興味は無いだろうが、一応報告はさせてもらおうかな」
エオジさんは少し姿勢を正して、俺と
「結果からいえば、犯人は見つからなかった」
グラスをサルに渡したという給仕は存在しなかったそうだ。
「飲み物に入っていた薬は軽いもので、死ぬようなものじゃなかった。
少し気を失うとか、腹を壊す程度だとさ」
実際に金魚もどきはしばらくして普通に泳ぎ始めたという。
それは良かった。
俺のホッとした顔を見て、エオジさんが顔を
「だけど、子供相手だ。 もし何か未知の持病を持っていたり、量を誤ったりしていたら分からないだろ?」
絶対に大丈夫、とは言えない。
「でも、それなら尚更、その犯人というのは何がしたかったの?」
子供を驚かせたかったのか、外相を脅したかったのか。
それともブガタリアの商人に脅しをかけたかったのだろうか。
「ただ単に驚かせようとしたのかもしれないね」
まるで子供のお遊びのように。
俺は案外そんな感じなんじゃないかと思ってるんだよな。
「子供のいたずらってことか」
あの会場に、本当に俺たち以外の子供はいなかったのかな。
サルが給仕と間違えた誰かが居たとしたら、それを指示出来る子供がいたのかもね。
うん、考えるのも嫌だ。
それより俺は海が見たい。
「エオジさん、連れてってくれるって言ったよね」
「はあ。 そうだなあ」
そんな会話をしていると、来客があった。
大使の従者が
「コリル、昨日の親子が謝罪に来ているそうだ。 会うか?」
「んー」
会いたいかと言われれば会いたくないさ。
だけど、会ってやれば
「何もしゃべらなくていいなら」
俺はツンツンを呼んで背中に乗せる。
ツンツンが姿を消したのを見てエオジさんが頷き、
「昨晩は大変失礼をいたしました」
外相の男性とサルの二人である。
ツンツンが今日はピリピリしてないのは危険じゃないということか。
父親に無理やり頭を下げさせられているサルは、少し顔色が悪いな。
どうせ俺みたいな小さい上にみすぼらしい相手には頭を下げたくないって感じだろ。
でも悪いのはそっちなので、俺は無表情で
「コリル君は大丈夫だったかい?」
それは怒られなかったかということ?。
それとも別の誰かに傷付けられたかってこと?。
俺は隣に立っているエオジさんを見上げる。
本気でこいつらとしゃべりたくないんだよ、俺。
察してくれたみたいでエオジさんはコホンと咳をして、
「コリル坊ちゃんは戻ってすぐにおやすみになりましたからねえ」
って、わざと小馬鹿にした感じで俺の頭を撫でた。
すると勘違いサル野郎がムッとした顔になって、ますます俺を馬鹿にした顔になる。
「おそらく今回は私が狙われたものと思われます。
コリルくんは巻き添えになっただけですが、お騒がせしてすみませんでした」
えー、こんな謝罪されて俺はどうすればいいのさ。
父親の外相は青ざめて息子を睨んでいるが、今ここで騒ぐのは不味いと思ったんだろう。
「息子も反省しておりますので」
と、会話を締め始める。
ああ、もう邪魔臭いなあ。
「謝罪はお受けした。
そちらのほうが後始末や調査で大変なところ、わざわざ訪ねていただき感謝する」
話は終わったということで、俺たちは一礼して部屋を出る許可をもらう。
この後、
俺に被害は無くても、かわいい孫が巻き込まれたということで、
それが豪商ってもんですよ。
ここからは俺は不要になるので、エオジさんとさっさと海に行こう。
表の玄関にはまだ外相の馬車があり、たぶんサルが乗っている。
「どうします?」
「裏口でいいんじゃない?」
というわけで、俺とエオジさんは裏口から出た。
この町は大通りはいいんだけど、裏通りはかなり危ないらしい。
それこそ、いろんな国からいろんな人種が入ってくるからね。
「ツンツン、頼むね」
キュル
ツンツンが気配遮断の魔法を使うときに俺も混ぜてもらう。
昨夜から俺は色々考えた。
何故、急に弟たちと会話というか意思が聞こえるようになったのかを。
まあこれは俺の推測だけど、たぶん他国という環境のせいだろうな。
今までブガタリアの国内なら、俺は第二王子だし滅多に危険なんてなかった。
弟たちも安全な場所に居たし、周りも安心出来る味方ばかりだったから、声での会話とか必要なかったんだ。
でもここじゃ勝手が違う。
弟たちも俺の危険を感じて怖がっている。
そんな気がした。
「お前たちは本当に俺の役に立とうとしてくれてるんだな」
死にたくない、死なせたくない。
弟たちも俺も。
輪廻の輪には弟たちも乗れるんだろうか。
もしかしたら、出来るなら、いつか同じ人間になって本当の兄弟になりたいな。
ツンツンと共に気配を消して、俺はエオジさんの後ろをついて行く。
真っ直ぐに進んで、気が付いたら広い通りに出て、その大通りの向こうには両脇に店が並んだ市場がある。
「まだ昼前だから露店もあるな、寄ってくか?」
俺だけ魔法を切ってもらって姿を現す。
「うんっ」
エオジさんは笑って手を差し出して来た。
人が多いから迷子にならないように手をつなぐらしい。
俺は精神的には二十三歳だ。
恥ずかしくて少し顔が赤くなる。
「欲しいものがあったら言えよ。 ちゃんと金と鞄は持ってきたからな」
おお、さすが優秀な護衛だ。
食料用鞄は市場に来るには必須だもんね。
仕方なく手をつないでもらって人込みを歩く。
ブガタリアじゃ祭りでもこんなに多くの人出を見たことない。
しかも色んな人がいて、言葉も分からなかったり、市場に書いてある文字も知らない文字があったりする。
海に行くはずだったのに、思わぬ足止めだ。
露店では食べ物が多い。
とても良い匂いがして、その店の前で立ち止まる。
それを見た太った店主がニカッと笑って、何かを串に刺したものを俺の前に差し出した。
「ほら、坊主、食べてみな」
俺はどう返事をしていいか分からず、エオジさんを見上げる。
笑って頷いてくれたので、「ありがとう」と言って受け取った。
ツンツンも【ソレ、スキ】という反応だったので大丈夫だろう。
「あ、美味しい」
少し歯ごたえがある。
魚というより前世の貝類の歯ごたえに近かった。
俺はエオジさんに頼んで、ツンツンの【スキ】なものを弟たちのお土産用に大量に買うことにした。
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