新入生獲得なるか!?
第6話 原田先生
あの日から4日が経った。仮入部の期間は新入生歓迎会の翌日から2週間。要するに、仮入部3日目──なのだが、今だ1年生の影も形もナシ。仮入部期間の1年生が活動できるのは5時まで。現在4時40分。そろそろ来てもいい頃なのだが。
「うーん、うまくやったと思ったんだけど。」
本当に、あの自信はどこへ行ったのやら。田中は頭を抱え、机に突っ伏している。
「結構みんな、注目してくれていたからきっと、誰か来るって。」
そう励ます2人の声も心なしか暗い。僕もどう声をかけたらいいものか分からず、家庭科室には重い空気が充満していく。
「あれ、なんか一人増えてる。」
突如、この重苦しい空気にわって入ってきた声に、僕らははっとする。その男──先生はボサボサの髪に寄れたシャツ、若くもないけれどおじさんというほど老けているわけでもない。
気だるそうに僕を見つめている。一体何の先生なのだろう。
「一年生・・・・・・には見えないね。」
「ああ、原田先生。彼は新庄奏多くんです。私と同じ3年6組の。転校生なんです。」
原田先生、と呼ばれたその人はうーん、と少しの間考えていたが、すぐに「ああ」と合点があったというような顔をする。
「君か、6組に転向してきた男子というのは。」
「はあ。」
「新庄くん、こちら原田豊先生。家庭科部の顧問。」
「・・・・・・新庄奏多です。よろしくお願いします。」
「ん、一応俺がこの部の顧問ってなってるから、そこんとこよろしく。あ、ちなみに担当教科は家庭科な。」
ん、家庭科?
この前の授業は女の先生だったと思うけど?
「この前の先生はただのピンチヒッター。原田先生はつい最近まで盲腸で入院してたの。だから今日の今日まで授業にも部にも顔出してなかったってわけ。」
「ま、顔出してないのはいつものことですけど。」
「たしかに。」
女子3人の(恐ろしい)笑みに原田先生は顔を引き攣らせた。僕もこの異様な雰囲気に苦笑いを浮かべるほかなかった。
「んなこと言われたって、先生だって忙しいんだよ。ほら、次の授業の準備とか、テストの作成とか。全学年の家庭科の授業やってるだろ?」
そうか、技術と家庭科の先生って学校に1人ずつしかいないんだっけ。
「そんなこと言って、いつも変えるのは私達が部活を終えるより早いじゃないですか。」
「お前・・・・・・・なんで知ってんだよ。」
「基本的にこの教室の鍵は私が取りに行って返すので、先生がいないことくらいわかります。」
反論の余地ナシ、だな。
ぽりぽりと頭をかく原田先生に、僕を含めた家庭科部員全員が冷たい視線を送った。
「・・・・・・ところで」
「話変えましたね。」
「卑怯だ。」
河合さんと早瀬さんがコソコソ話しているのを無視して、原田先生は続けた。
「今日までの仮入部、何人来た?」
「・・・・・・・ゼロです。」
「なるほどねぇ、まあ、そんなもんか。」
悔しそうに唇を噛む田中とは対照的に、原田先生は何でもなさそうに、むしろ既にわかっていたように小さく頷く。
「まだ時間はあるからな。そーいや、キルトの方はどうなってる?」
「まだデザインの途中です。」
「ちっと遅いな。もうちょい頑張んねーと、夏休みも冷房のない灼熱の学校に、毎日来ることになるぞ。
んじゃ、そゆことで。」
さらりと言いたいことだけ言って、先生はくるりと僕らに背を向け、また一つ何か考える素振りを見せたかと思うと再びこちらを振り返った。
「俺の保身のために付け足しとくけど、俺はちゃんと定時に学校出てるからな。今の時代、いくら残業しても残業代でねーの、ブラック企業か学校ぐらいだよ。」
それだけ言うと、今度こそ家庭科室を去っていった。
「ほんと、あの先生のことはよくわかんないや。」
田中がぽつりと漏らした声に被せるように、今日の仮入部終了時刻を告げる放送が入った。
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家庭科部の1〜4日目仮入部人数:0人
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