第2話 田中花子
僕の転校先での最初の席は、一番窓に近い席だった。ついていない。一番前だなんて。しかも、花粉症持ちの僕には相性最悪の席と言っていいだろう。(ちなみに席は誕生日順。僕は後ろから数えたほうが早い)
あの自己紹介をした日から数日。僕は自然とクラスメイト達と打ち解けていた。最初こそは少々不安だったものの、ここまで来てしまえば友人関係に困ることはそうないだろう。
ただ一つ、気になることが。
なんとなく、背後から妙な視線を感じるのだ。好奇心ではなく、期待を含んだような熱い視線だ。
ここで、恋愛的な何かを期待してはいけない。むしろこれは、僕にとっては最悪の始まりに過ぎなかったのだ——。
新しい生活に慣れて数日がたったころ。長いようで短い一日を乗り越え、僕は部活動の見学に行くために、教室で体操服に着替えていた。当然、小学生の頃のように男女ともに真っ裸、ということはない。制服の下にあらかじめ体操服を着ているので、制服を脱いでしまえばよいだけの話なのだ。これは全国共通なのか、前の学校でもそうだった。
脱いだ制服をカバンに入れ、さあ行こうと教室を出ようと歩き出した時、背後から声をかけられた。
「ねえ、新庄くん。放課後は暇?」
「え?」
あまりにも突然だったので、僕はびっくりして思わず聞き返してしまった。
声をかけたのは、たしか僕の斜め後ろに座っていた女子。髪をポニーテールでまとめる彼女は、心なしかルンルンと瞳を輝かせているように見える。活発そうな子、という印象を持たせる。
「放課後は暇?」
その女子は机に手を載せてずいっと身を乗り出した。
ま、まさか、これは・・・・・・・世に言う「告白現場」というのだろうか・・・・・・?
転校早々、こんなことってあるだろうか?いやいや、まだ告白と決まったわけじゃない。
「えっと、これから部活の見学に行こうと思ってるけど。」
それがどうかした?と、内心ドキドキしながら尋ねると、彼女はパッと目を輝かせて「だったら」と口を開いた。
「家庭科部に来ない?」
・・・・・・・今なんて?
「もしかして耳悪いの?だから要するにね、家庭科部に来ないかって勧誘してるの。」
ちなみに僕の聴力に異常はない。と、いうことは彼女が言っていたことを僕の耳は正確に聞き取っていたということになる。
しかしなぜ、家庭科部?
「新庄くんさ、この前の家庭科の授業の時、男子の中で1人だけ、ものすっごい手際早かったじゃない。縫い目もまっすぐで歪みがなかった。だから。君には家庭科部員としての素質があると思ったわけ。」
そうだっただろうか?何か特別なことをした覚えは全くと言っていいほどない。でもそれが、彼女の目には珍しく映ったのだろう。
そういえば、最近感じていた視線ってこの人のかあ・・・・・・。
なんだか面倒なことになりそうだ。そう、僕の脳が信号を出している。早く断った方が良さそうだ。
「えっと、申し訳ないんだけど、もう見学する部活は決めてあるから今日のところ、は」
僕の声はそこで止まった。
えっ、うそだろ?出来るだけやんわり断ろうと言葉を選んだはずだ。なのに、どうして、どうして!!
彼女は泣きそうになっているのだ!
今にも溢れ出さんばかりの涙を溜め、こちらをじっと見つめている。まずい、まずい、非常にまずいぞ・・・・・・。
新学期始まってまだ一月も経っていないというのに、女子を泣かしたなんてことが学校に知られたりしたら・・・・・・。
あーんなことやこーんなことが僕の頭の中を駆け巡る。
「わかった!わかったから、泣かないでよ、ね?」
慌てて小さな子をなだめるように彼女の瞳を覗きこむ。すると、彼女はニッと笑うや否や、「よかったあ」と言うのだった。
は、はめられた。しかも、信じられないくらいあっさりと。
「私、家庭科部部長、
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