第5話 終わり、そして始まりへ
「優美!」
「郁人!どこ行ってたの!?心配したんだからね!」
「ごめん…優美…俺…」
「わかってる…だから、ちゃんとお話ししよ?」
俺は全てを謝った。優美を疑ったこと、人を殺めてしまったこと、優美の人生を狂わせてしまったこと。優美はそれらを受け入れ、こんな俺を許してくれた。
気づいたらもう11時をとっくに超えていた。今回、家に帰ったのは正解だった…真実を知って自分の行いを省みることができたんだ。
「郁人」
「なに?」
サッ
「また会える?」
「あぁ。必ず。」
せめてもの償いだ。今俺の腕の中にいるこの大切な存在をもう傷つけてはいけない。だから…俺はなおさら、明日へ進まねばならないんだ…
ループしたか…
今日の俺の目的は決まっている。俺の親に会いに行く。元はといえばあいつらが俺の心の余裕を削りに削ったのだ。必ず奴らの真意を聞いてやる。
ん?俺と親の間で何があったか知りたいって?
この前ちょっとばかし言ったと思うが、俺の親は自分らの考えを押し付けてくるような奴らでな。ガキの頃は門限は厳しいわ勉強勉強ってうるさいわ…自分たちの理想像に当てはまる人間にするため、俺を造形していたんだ。正直、何度も殺意が湧いたさ。
…だから俺は縁を切った。大学合格が決まったと同時に親には告げずに家を飛び出して、独り暮らしを始めた。それ以来親とは会ってない。結婚のことも知らないだろう。それくらい俺は親のことが嫌いなんだ。
着いたな。鍵は持ってるが…ドアが変わってやがる。参ったな…どっか窓が開いてたりはしないか見てみるk…
「はぁ、はぁ、年を取ると体力がなくなるねぇ」
「そうだな。俺らももう70過ぎだもんなぁ…」
危ねぇ、見つかるとこだった。話したいのはそうなんだが、急に来られると色々と飛んじまうからな。
インターホン?そんなん顔見られた途端切られちまうかもしれないから使えない。やっぱり窓しかないか。
見てみたが、全部駄目だった。割って入るか…ん?まずい、親が来やがった!
全く、俺は家に入っちゃいけないルールでもあんのか?…なんだ、何か話してる。
「そういえば、郁人、今頃どうしてるんだろうねぇ」
「朝の新聞にも書いとった通り、まだ逃亡してるらしい。全く、何をしとるんだか…」
ふざけるな。元はといえばお前らが!
「私達のところへ帰ってくればいいのにねぇ」
なんだと?
「そうだな。あいつがこんなことをしてしまったのは俺達のせいでもある…あいつにはいい大学へ行って、いい会社に就職して、幸せになってほしかった。だから色んなことを強要してしまった…」
「本当に悪いことをしてしまったものね…大学合格祝いに何かしてあげたかったけどそれもできなかった。」
「今戻ってきてくれたら…あぁ郁人、今どこにいるんだ…」
そうだったのかよ…俺のために色々考えてくれてたのか…ごめんよ…父さんや母さんの気持ちなんて考えずに俺、ここまで来ちまったよ…本当にごめんな…
うっ…くっ…ごめんなさい…優美…父さん…母さん…それと、命を奪ってしまった皆様…俺の思い込みで…こんなに大勢の人の人生を狂わせてしまった…真実に気づけずにこんなことを…本当は俺は孤独なんかじゃなかったし、居場所だってあった…俺は…
もし願いが叶うなら、俺を明日へ進ませてください…しっかり…みんなに謝りたい。今までの愚行を…償わせてください…
うぅ…うっ…朝だ…ここは?…いつもの路地裏か…どうすれば抜け出せるんだよ…
「続いてのニュースです。6月24日に〇〇駅前で起きた殺傷事件から2週間が経ちました。原園郁人容疑者の足取りは未だつかめておらず、警察は捜査網の拡大を決定しました。」
…二週間?今2週間って言ったのか!?てことは、俺はループから抜け出せたのか!?
「おじいさん、あの…すみません、今日って何日ですか?」
「今日は…7/8じゃな」
「ありがとうございます」
抜け出せたんだ!俺はループから抜け出せたのだ!ならばしっかり謝らなくては…優美、そして親に…そのあと警察へ行こう。償わなくてはならない。罪を…全て…
「おぉおい、てめぇ、なに楽しげな顔、して、やがるんだぁ?こ、このやろ、う!ムカつくんだよ!」
「な」
グサッ
「なに…を…」
「俺より、しあわせなや、つは、ぶ、っころしてや、る、俺は、こんな、人生あゆ、んでる、のに」
「お前も…同じ…」
ドサッ
刺されてしまった…
俺のやった罪は重い…神は、死を持って償えと言うのか…
意識が…遠のく…
優美…父さん…母さん…殺してしまった方々…謝ることができなくてごめんなさい…でも、これは運命だったのかもしれない…俺を…真実へ導くための神からの恵みだったのかもしれない…
今俺を刺したあの男も…俺と同じなのだろうか…そして…俺みたいに…ループにとらわれる…
「回人」になるのだろうか…
回人 マスターキー @walker1001
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