第4話 真実
優美と知り合ったのは5年前のことだ。
出会ったときは、名前の通り優しくて、美しくて、とても魅力的だった。
1年の交際を終えて、俺達は結婚した。その後しばらくは幸せな生活が続いていたな…だが、1年前辺りからいきなり出張が多くなった。今までは出張なんて3ヶ月に1.2回だったのに、1ヶ月に2.3回に増えたんだ。しかも1回1回が長期なんだぜ?連絡をしても返ってくるのは夜遅く。それに、珍しく家に帰ってきたときも、俺に対する態度は素っ気ないものだった。浮気でもしてない限りこんなことにはならないはずだ。
親との関わりもほとんどなく、唯一の心の拠り所であった優美まで離れてしまった俺にはもう生気なんてものはなく、あるのは街を楽しそうに歩く家族やカップル、友達同士であろう学生達…そういう連中に対する憎悪だけだった。
俺は誰からも見放されたのにと。誰よりも酷な人生を送ってるのにと。だから俺は約2週間前に…人を殺っちまったんだ。快感だったさ、目障りなものを消すのはな。
…着いた。さて、洗いざらい喋ってもらうかな。その後どうするかは、返答次第だ。
人の気配がない…優美は家にいないのか?それとも自分の部屋にいるのか?
部屋にもいない…ん?何だこれ。日記か?あいつ、日記なんてつけてたのか。なら話さずとも何をしていたかわかるな…どれ、読んでみるか。
『9/3 水』
今日はなんと、プロジェクトリーダーに任命されちゃいました!だからこれを記念して、今日から日記を書こうと思います!自分しか読まないのになんで誰かに話すときの口調なんだ?wいやぁ、それにしても本当に嬉しいな。早く教えたいけど、今日郁人残業か…また今度サプライズで教えちゃおっ。
『9/4 木』
うげぇ、この役職こんなに大変なんだ…これから出張のオンパレードじゃん。しかも1回1回が長いのよね。ほんっと、少しはいたわってほしいものよ。ま、仕方ないか。明日から頑張っちゃおう。てか郁人今日も帰り遅くなるのか…明日早いし、報告はまた今度かな。
『9/5 金』
今日はとにかく疲れた…移動も大変だったし、休む時間が少なすぎる!せめて郁人がいてくれたらなぁ…なんて。はぁ、日記書く余裕もあんまないな…今日はこれくらいにしておこう。
優美ってプロジェクトリーダーやってたのか?こんなの初耳だ…って、そんなことはどうでもいいんだ。んん、しばらく出張のことしか書かれてないな…よし、ここらへんからまた読んでみるか…
『12/24 土』
今日はクリスマス・イヴ。今日から三賀日までは仕事ないのが嬉しい(流石にあったらブラックかな?)久しぶりに郁人と家で過ごせるし、これは私へのクリスマスプレゼントかな?でも疲れがまだ取れてなくて話しててもすごい素っ気なくなっちゃうのが自分でもわかる。テンション上げなきゃ!なんか日記書いてる時間もったいないから一旦休止しまーす!
『1/5 木』
出張と日記再開!昨日から一応仕事だったんだけど、日記書くのサボっちゃった。今日も久々の出張だから疲れちゃって日記どうしようか迷ったけどなんか書いとこ、って思ってなんか書きました。それじゃ、また。
今のところ目立ったものはないな…思い切ってもっと飛ばしてみるか…ん?これは…
『5/14 日』
今日、郁人と喧嘩をした。今まで喧嘩なんてしたことなかったのに…喧嘩の内容は浮気したかどうか。たしかにプロジェクトリーダーになってからすごい出張は増えたし、郁人と話せる機会も随分と減っちゃった。でも私は浮気なんてしない。今日は郁人かなり怒ってるからまた今度じっくり話し合わないと…
『5/20 土』
忙しくて1週間くらい日記かけなかった。それに郁人からのメッセージの返信も追いついてない。この前喧嘩しちゃったばっかだし…郁人…私のこと信じてくれてるかな…
優美…
『6/1 木』
私、どうしたらいいんだろう…今日やっとまとまった時間取れたから話し合おうと思ったのに、朝家に戻ったら玄関が閉められてた。鍵使っても開けられないように。
連絡もとれない。私…浮気なんてしてない。私は郁人以外の人とプライベートな連絡も取り合ってないし、男の人と影で会ったりもしてない。なのにどうして…なんで…
『6/14 水』
郁人はもう、私のことを信じてくれないのだろうか。昔みたいに楽しい生活を送ることはできないのだろうか。もう何もわからない。
『6/24 土』
嘘だ。郁人が人を殺すわけがない。あんなに優しかった郁人がそんなことするはずない。みんなが信じなくても、私は信じる。それが私にできることだから。神様…どうか…どうか…
『6/25 日』
今日、会社をクビになった。殺人犯の家族だから、って。郁人は本当に人を殺めてしまったらしい。正直信じることはできない。でも信じざるを得ない…こうなってしまったのも元はといえば私のせい。ちゃんと郁人と話し合えなかったし、伝えきれてないことが多すぎた。だから郁人は悪くない…私が悪いんだ。もしやり直せるのだったら、また郁人と一緒に楽しい毎日を送りたいな…
郁人は今どこにいるのだろう。もう一度だけでいい…会ってちゃんと話し合いたい。ただそれだけ…
優美…そうだ。俺は優美のことを何もわかっていなかった。優美は俺のことを見放してなんかいなかった…全部俺の思い込みだったんだ。俺が勝手に浮気してるって思い込んで、勝手に優美を恨んで、勝手に不幸だと思い込んで…勝手に居場所を捨てたんだ。
それに俺は優美の人生も壊してしまった。俺のせいで…優美を深く傷つけてしまった。何度謝っても足りない過ちを犯してしまったんだ!あぁ…
「郁…人…?」
はっ…この声は
「優美!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます