No.3 「pan in the pan」

 


 パンが消えた翌日も、テレビは昨日と同じようにパンが消えたことについて叫んでいた。

 それは、一隻の小舟も見えない海原に向かって必死に助けを請い叫ぶ一人の遭難者のようにも思えた。

 おそらく、もはや自分たちが何を言っているのかすら、頭の中で単語の一粒一粒が溶けてしまっていて分かっていないのではないのかと感じるほど、全く同じことの繰り返しだった。

 パンが消えました。パンが消えました。だから何なのだろう。

 パンが消えたところで、僕は昨日と同じように食卓に座って朝食のトーストとサラダを摂っているし、これから学校にも行く。

 学校の教室ではいつも通りの顔が並んで座っているだろう。

 そうして、天気が良ければ校庭で風呂敷を広げるし、悪ければ教室で風呂敷を広げる。

 学校が終わればいつものように家に帰って、いつものように夕食を摂って、いつものように風呂にはいり、いつものように眠る。

 パンが消えました。

 だから何だというのだろう。

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