崩壊迫る洞窟、潜る腐れ剣客
暴水鬼との激戦を制し、遂にレベッカが囚われた【
これでようやく彼女を救うことができる。
だがボスの討伐に成功したのを皮切りにそこかしこで嫌な音や振動が感じられるようになってきた。
この兆候――洞窟が崩れようとしているのか!
「
早くここから脱出しなければ、しかしいざレベッカを解放しようとしたところで彼らの前にある問題が立ち塞がったのだった。
「――で? どうすりゃレベッカが出てくるんじゃ?」
ボロボロの体を支えられながらなんとか結晶のところにまで来た鴎垓が地面に座り込みながらそう言う。
これに関しては自分に出来るものはないと二人に任せ経過を見守っていたのだが、いかんせん結晶を調べる二人の表情が芳しくない。
緊迫感に強張る顔で結晶を覗き込み、汗の滴が幾つも浮かび筋となって滴り落ちている。
「これは……」
「不味いですわね……」
「おい、二人して何をやっとるんだ!
確か壊せば仕舞いっちゅう話じゃったろ、さっさとぶっ壊してしまえばええのではないか!?
大分天井に罅が入って何時崩落してもおかしくないぞ!?」
地面の振動もどんどんと強くなってきている。
いつまでもこんなところに居られないというのに何時まで経っても行動に移さない二人に苛立ち混じりで急かす鴎垓だったが、振り向くフィーゴからは思いもよらない言葉が飛び出してきた。
「……それは出来ない」
「何?」
その言葉に疑問の声をあげる鴎垓。
出来ないとはどういうことなのかと聞き返そうとしたのをフィーゴの続く言葉が遮る。
「……自分は最初守護者さえ倒してしまえばレベッカ君は自然と解放されるものだ思っていた。核にとって異物でしかないものをいつまでも取り込んだままでいられるわけがないと」
相容れない存在が共存できるわけがない。
この世界の常識からすれば当たり前の話。
だがしかし、何事にも例外はある。
「核というのは通常、
それは守護者がいなくなったことで核の活動が大人しくなるからだ……これもその状態にはなっている。
だが! それなのにこいつは――レベッカ君を手放す様子が全くない!」
――そしてその例外がまさにこの核なのであった。
「ど、どういうことじゃ……」
「……二つに一つだ」
理解を越える展開に声が震える鴎垓。
最悪の未来を予想し顔を青くするフランネル。
固唾を飲んで固まる二人へ。この異常事態を前に考えに考えた末に出した結論をフィーゴは語る。
「彼女を助けるにはこのまま核を壊し、一か八かレベッカ君が解放されるのに賭けるか。それとも核をこのままこの場に残し、後で中に囚われた彼女を取り出す方法を見つけるか。
今の自分たちには……そのどちらかしか残されていない」
「そんな!」
「だがそれしかない!」
悲鳴をあげるフランネルに断言するように叫ぶフィーゴ。
彼の声にもまた、溢れんばかりの悲壮感がある。
「確証がなにもないんだ!
こんな事態は自分も経験したことがない!
どうやれば彼女をこの中から取り出すことができるのか全く分からないんだ!
例え破壊したとしても、核ごと彼女が死んでしまうかもしれない! 確実に助かる見込みなんてどこにもないんだ!」
ここまできて。
ここまできて諦めるしかない。
目の前にいるというのに、そこから助けるための手段がない。
その変えようもない事実を前に図らずも声を荒げてしまうフィーゴ。その様子のフランネルも押し黙ってしまう。
その間にも振動は続き、遂に天井の一角が崩れ地面に大きな音を立ててぶち当たる。
今、三人は究極の選択を迫られていた。
可能性に賭けるか、それとも現状維持で未来に託すか。
そのどちらを選んで確実にレベッカを助け出す保証はどこにもない。それどころかこのままでは生き埋めになってしまう、決断の時はすぐ側まで差し迫っていた。
しかし――
「……つまりはだ、こいつを壊さずにどうにかして中におるレベッカを連れ出す必要があるんじゃな?」
――その中で鴎垓だけは違った。
「……できるものか、こうして触れることは出来るがそれだけだ……彼女に届くことはない、決して……」
「レベッカさん……」
これ以上何が分かるものかと投げやりになるフィーゴと友を救えない自らの力不足を嘆き、悲嘆に暮れるフランネル。
二人がそうして鴎垓から目を逸らしている間に、鴎垓と結晶の間にとんでもないことが起きていた。
「――あー、それなんじゃが、何とかなりそうじゃぞ」
思いもよらないというような声を出す鴎垓へ二人が視線を向けるとそこには――
「オウガイ、くん……腕が」
「そんな、どうして……!」
――突き出した腕が核の外壁を透過し、中に入り込んでいる光景があった。
「理由は分からんが、どうやら儂は歓迎されとるようじゃな。
折角のお招き断る道理もない、じゃあちょいと――行ってくるわい」
二人の驚愕をさらりと無視し。
制止の声も振り切って。
鴎垓は進むに任せ結晶の中へと身を踊らせた。
「今行くぞレベッカ――」
その言葉を最後に鴎垓の意識は薄れていき、そして――
* * * * * *
――そして鴎垓が目を開けたとき、現れたその光景の美しさに思わずため息を漏らした。
「ほう、こいつは中々……情緒溢れる住み処だこと」
先程までいた洞窟などとは似ても似つかない――一面に蒼い湖が視界の先どこまでも広がる果てしない空間。
上は雲一つない蒼空
透き通る湖面にはまるで鏡のように自分の姿が写り込み、傷だらけの姿がはっきりと見てとれる。
これがあの青黒い結晶の中にあるとは到底思えない場所だ。
驚嘆に暫し景色を見回す鴎垓。
そして――
「それで――貴様が首魁か」
その一角に、
この美しい空間において唯一の異物。
鳴き声をあげるでもなく、ボコボコと蠢くだけの
まるで家屋のように巨大な、ドス黒い粘体の塊。
その中央に――
「……」
――意識を失い力なく項垂れる、レベッカの姿があった。
両手を吊り上げるように拘束された彼女の周りで形を変えながら蠢動を続ける黒塊、核の中にレベッカを引き留めて離さない原因はどうやらあれにあるらしい。
「目覚めておらんか……はてさて来たはいいもののどうしたもんか。
おいそこの、いい加減その娘を放さんか!」
ひとまず話し掛けてみるものの、当然の如く反応はなし。
無理矢理にでも引き剥がす必要があるかと近づこうと足を動かしたとき、それは
「――っと!?」
背後から容赦なく首を狙ってきたその一撃を辛くも避け、地面を転がって距離を取る鴎垓。
「何奴――っ馬鹿な……っ!」
離れた位置で体勢を立て直した鴎垓が襲撃者の姿を目にしたその瞬間、これまでにない衝撃が彼の心を大きく揺さぶった。
「こいつは……はっは、やってくれたもんじゃ」
警戒を露に立ち上がる鴎垓を静かに見下ろすその人物。
その手に構えているのは――鋭利な輝きを放つ
切っ先を前に構え立ち塞がるその人物。
白髪を結い上げ髭を伸ばしたその相貌、黒に近い紺色の着流しを身に付けたその姿。
この威圧感。
忘れるわけもない。
この人は――
「死んで以来ですか、久しいですのう――
――お師匠様」
――かつて鴎垓の剣の師であり、そして彼の首を断ち
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