第4夜 志士霊

 「ファ~、歴史の授業はマジでヤダなぁ~。源頼朝とか源義経とかどこで

使うんだよぉ~」。

歴史嫌いの小学6年生、石橋菜々花は、こう愚痴る。特に、鎌倉時代が嫌いだ。

「本当に菜々花の歴史嫌いは相変わらずだなぁ。源氏将軍くらいは、覚えたら?」

同じく、小6で、菜々花の幼なじみ、工藤沙耶奈は、語りかける。

「菜々花、吉田松陰って知ってる?」

「あのぉ~、沙耶奈さぁ~ん、知ってるわけないでしょ~」。

「吉田松陰は、長州藩・・・今の山口県出身の幕末の志士で、色々活動をして、

木戸孝允や高杉晋作、伊藤博文、山形有朋などを送り出した人だよ。でも、

井伊直弼の安政の大獄で処刑されてしまった。その場所が武蔵野なの・・・」

「あのさ、結構分からなかった。ひとまず、吉田なんとかって人が、木戸孝允や

伊藤博文を送り出したけど、武蔵野で処刑されたってことね」。

「それがね、松陰の霊が今でも怒っていてね。たまに霊が見えるらしいの・・・」

菜々花は、背中に冷たいものを感じた。だんだん体が固まってゆく。

「でさ、今度行ってみない?!ね?!ね?!」

「ええ~!!私怖いの苦手なのにぃ・・・」。

菜々花のクラスでは、学級新聞を作っている。だがなかなか見てもらえなかった。

なので、盛り上げるために、これを撮ろうということだ。

 その週の日曜日———2人は、吉田松陰を祀る、松陰神社の近くへ来た。

松陰の霊は、夕方、誰もいないときに、神社ではなく、その周辺で現れるそうだ。

そして、道に誰もいないところを2人は狙っていた。

 午後4時——半透明でフワフワと浮かぶものがあった。沙耶奈は、カメラを

構えた。

「吉田松陰、撮ったどー!!」

だが、よく見るとそれは松陰の顔ではなかった。その顔は大久保利通に似ていた。

「あれ、なんでだろ?出るにしても長州人じゃないのかな?」

 午後4時30分——そこにいたのは、大久保、そして、西郷隆盛だった。

そこには、たくさんの人が歩いている。なのに例は現れる。他の人は何も

気づいていない。そして、10分後、2代目総理大臣、黒田清隆が。みんな

薩摩藩(鹿児島県)出身だった―—―。

 午後5時——そこにいたのは、半透明の大隈重信、そして江藤新平であった。

2人とも肥前藩出身であった。さらに、後ろには、肥前藩出身の副島種臣も。

「ねえねえ、沙耶奈、なんか怖いよぉ・・・」

「だいじょ~ぶ!別にうろついているだけで、襲ってきたりしないから!」

 午後5時30分——土佐藩士が出現した。板垣退助と後藤象二郎だった。

あたりはだんだん暗くなってくる。夏だからか、まだまだ明るい。

気づけば、辺りには、先程の薩摩、肥前、そして土佐の藩士が囲んでいた。

 そして午後6時——長州藩の出身が出てきた。木戸孝允、高杉晋作、伊藤博文、

山形有朋、井上馨、大村益次郎などが出現。

「ウヒョ~!!ついに長州藩だぁ~!てことは、もうすぐ松陰出るよ!」

「ねえねえ、沙耶奈ぁ・・・。だんだん近づいてきていない?」

「ん?いわれてみれば確かに、さっきより、近づいてきたような?」

 数分後、一斉に、霊が斬りかかってきた――!沙耶奈は、カメラを連写する。

その近くに、ノートを持ち、何かを探している、新聞記者がいた。

「あそこだ・・・。これは厄介だな。ムサシさまを都市伝説界の巨砲にするために――!!ん?俺は一体何のために?ムサシさま?」

新聞記者は、頭を抱えている。

「なんだ?頭が痛いぃぃ・・・いや、行かなければ!」

新聞記者は、そちらを見たが、そこにあったのは、菜々花、沙耶奈の衣類と

霊の写真が写ったカメラだけだった。そこには怒った顔の吉田松陰がいた。そして、新聞記者は、神社近くの壁に何かを書いた。霊は消えていった。なぜ人を

襲うのかなど詳細は不明。ただ、それから、街で、霊を見た人はいなかった―—―

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