第3話 拗ねる結衣の秘密

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「結衣、少しは勉強でもしたら」

 あくる日の昼飯時、ゆず子がそう言う。

「もう意味ないじゃん」

 結衣はそう返す。

「そんなこと言うモンじゃありません、子供は勉強するものよ。博人、ちょっと見てあげて」

 結衣は「ハイハイ」と言いながら、机に向かう。

「あーあ、私、ファリス女学院に行きたかったのに」

 結衣は机に突っ伏して、綺麗なお姫様カットの髪をばらまいている。

 博人はその髪をまとめてから、首をつまんで姿勢を正す。

「ほら、因数分解ってそんなに難しくないって」

「因数分解って言葉だけで難しいモン、出来の良いお兄ちゃんとは違うモン」

 ぷくーっと頬を膨らませている。

「私とお兄ちゃん・・・やっぱりほんとの兄妹じゃないんじゃない? 全然出来が違うもん」

と結衣は「ね?」と博人に目配せする。

 ゆず子はバシンと机を叩いた。

「変なこと言うんじゃありません! 二人とも私の子供よ!」

 結衣の目にじわりと雫が溢れる。

「そんなに怒らなくても・・・」

「怒るのが当然よ」

「……もうお昼はいい」

 結衣は、拗ねて部屋へと行ってしまった。

「もう、結衣は我がままねえ・・・! 怒りすぎたかしら?」

「ちょっと様子を見てくるよ」

「ごめんね、博人」

 博人は結衣の部屋へと向かった。

 ピンクと白の兎のぬいぐるみがあちこちに置かれている。

「入るよ」

「お兄ちゃん、別に平気・・・じゃないな、やっぱり今はお兄ちゃんが必要だな、こりゃ」とつぶやいてから、見上げてくる。

「母さんにあんなことを言って、どうしたんだ?」

「だって、世界がこんななのに勉強しなきゃいけないんだよ?」

 結衣はぷくっと頬を膨らませる。

「血が繋がって無い方が私にはいいモン」

 にんまりと結衣は笑う。

「ね? お兄ちゃん・・・だ、誰もいないんだしさ。あの日の続きをしようよ?」

 それは、あまりにも魅力的な誘いだった。


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