星の終わりにくちづけを
水島一輝
星の終わりにくちづけを
えんぴつを置いた俺は、背伸びをした。
「はぁ……」
吐いた息には、ため息もまじっている。執筆している小説をなかなか書き進められていないからだ。
気づくと、目の前の窓のずっと先に映る湖をながめてしまっていることが多い。
風がなく、天気のいい日には、空やこの周囲を囲む山が湖面にきれいに映ることもある。
もう誰もいないココに住みはじめて、そろそろ1年がたつ。いっこうに小説のしめくくりが思いつかない。
書きあげたところで、決して誰も読むことはない。
だからこそ、気軽に自由に書けばいいと思っていても、高望みした理想を落としこもうと書けなくなってしまっていた。
日はまだ高いが、おんぼろな時計は夕方の時刻を指していた。
「今日も書けなかったよ……」
俺はふたたび湖に視線をやった。窓に映った自分ではなく、湖畔にずっと立っている紫色の天使に向かって言ったのだ。
天使といっても、その立ち姿は人型で、頭にはウサギの耳のようなものをピンと立てている。天使の輪もある。
まるで俺の執筆を監視する編集者かのように、暗くなろうが一歩もそこから動かないでこちらを見つづけている。
目があるわけでもないが、こちらを見つづけているように見えてしかたない。
前後の区別もつかない得体の知れないその天使は、ここに住みはじめる以前から見知っていた。
しかし、俺がここに住みはじめるようになってから、天使はずっとでそこで立ち尽くしている。
最初は恐怖でおののいた。しばらくしてなにもしてこないとわかって、今では天使も風景のひとつとして認識するようになっていた。
俺は夕食の材料となるなにかを小屋に取りに出かけた。
なにがあったか頭をめぐらせながら、30秒もかからないところに建てた小屋に入ろうとした。
小道の先に人が倒れているのに気づいた。
「ん、えっ?」
その姿は二度見しても、視界から消えることはない。
――どうしてココに人が。
不安と緊張が同時に襲ってきて、心臓の動きが速くなった。
なにかの見間違いなのかと、自分を疑いながら俺は小道を進む。
「お、おい……きみ……」
倒れていたのは、中学生くらいの女の子だった。
どこから来たかは知らないが、服はきれいなままだった。隣町から歩いても数日。こんなところへやってくるまでに汚れないわけがない。
「んっ……」
彼女の閉じたまぶたがわずかに動いた。ケガをしている様子はない。
このまま放っておくこともできず、彼女を抱えて家に戻った。ソファに寝かせてしばらく様子を見ていたが、目を覚ます気配はなかった。
彼女をじっと見ていると、死んだ妻に似ている感じがした。
――まさかな。
俺はまた夕飯の材料を取りに行った。
妻は、1年半前に一人娘と一緒に死んだのだ。
――もしかして、どちらかの生まれ変わりとでもいうのか。
俺は首を振って、映画のような物語の可能性をかき消した。
彼女が目覚めたときに、口にしやすい野菜を煮こんだスープを作ることにした。
野菜は品祖なものばかりだが、量はあった。畑を広げる土地ならいくらでもあった。
少しばかり高地な場所ではあったが、気候変動のあおりを受けて、日中は暑いくらいだ。
生態系もそれに合わせて、変わりつつあるが、自然はどんどん順応していくことに驚いた。
どんなに荒れ果てようと、自然は自然であろうと元に戻ろうとする。唯一、元に戻ろうとしなかったのは、人間だろう。
俺は、隣の部屋で眠っている彼女の様子を見ながら、スープを作っていた。
匂いにさそわれたのか、彼女が目を覚ました。
「ここは……」
「俺の家だ。近くの道で倒れてたの見つけて、運んできたんだ。痛いところはないか?」
「……」
体を起こした彼女は、静かにうなずいた。まだ頭がぼーっとしているようだった。
「俺はヒンジス。見ればわかるけど、へんぴなところに一人で暮らしてる……」
彼女が俺から視線を外して、ゆっくりと部屋を見回すところを見て、言葉のやりとりはできそうだと思えた。
「お腹、すいてないかい?」
俺が聞くと、彼女はそっと自分のお腹に両手を重ねておさえた。
「スープ作ったから……今、よそってくるから待ってて」
俺はいつになく明るい声を出した自分に驚いた。ずっと一人でいたこともあり、つねに感情は平坦だった。
湯気をあげる鍋からスープをすくう俺の心は弾んでいた。彼女が目覚めたことの安堵もあったが、人と触れ合える懐かしさが思い出される。
彼女にスープを手渡すと、両手でかかえてそそっと口をつけた。
ひと口飲んでからは、スプーンで具材も口に運んであっという間に食べきった。
「おかわりする?」
彼女は静かにうなずいた。
俺はほとんど口にしていない自分のスープをテーブルに置いた。俺の作ったスープを飲みほす彼女を見つづけてしまっていた。
2杯のスープで体が温まったのか、顔色がよく見えた。
「名前、聞いていいかな?」
「あ……エリーです。助けていただき、ありがとうございます」
彼女は軽く頭を下げた。
彼女の名前を聞いて、俺の体は硬直した。
――同じ名前だ。死んだ妻の名前……エリー。
――どうしてココに……なんで年齢も若返って……。
「エリー。君はどうしてこんなところにいるんだい?」
焦り、不安、そして期待が俺の鼓動を強くする。
「ど、どうしてって……」
エリーはどこか焦点をあわさないまま記憶をたどった。
「……んーん、思い出せない……」
頭を押さえて左右に首を振った。
「あっ、無理に思い出さなくてもいいさ。ココには他に誰もいないし、ゆっくりしていればいい」
ゆっくりと言ったものの、それは永遠という意味ではない。しかし、目を覚ましたばかりの彼女に伝えるには酷だと思って、喉の奥で止めておいた。
「はい……」
「外はまだ少し明るいけど、時間は夜だ。このままゆっくり眠るといい」
エリーはうなずいて、また横になった。
「おやすみ……」
俺は台所で食器を洗い終えて、窓の外を眺めながらしばらく立ち尽くしていた。
エリーがどうして現れたのか、エリーがなぜ生き返ったのか。
もし、生き返ったのだとしたら、他の人たちは?
娘は?
それとも、エリーという同じ名前の他人の空似……。
なにをどう考えても、自分の頭を混乱させるだけだった。
翌日、やはりエリーは存在していた。俺は夢でも見ているのではないかと、寝ながら考えていた。
彼女は、まだ今までのことを思いだせずにいた。一緒に朝食をとり、普通の生活をすることくらいはできるようだった。どのくらいの期間、記憶を失っているのかはわからない。
そして、どこから来て、どこへ行くつもりだったのか……。
ココにはもう誰もおらず、誰かに会うにしても意味がわからない。
気晴らしに、エリーをさそって散歩に出た。エリーの歩調に合わせて、湖につながる林の道を進んだ。
エリーは左右に広がる林を眺めながら、俺に着いてきた。
林を抜けると、エメラルドグリーンの湖面が広がり、その向こうにある乾いた茶色の山がそこに反射していた。
「きれい……」
と、エリーは砂利の上を一歩進んで、すぐに止まった。
「ヒンジス、あれはなに?」
エリーは、波打ち際に立つ紫色の物体を指さしていた。
「あれは、天使だよ」
「てんし?」
「かつて、人類がそう呼んでいたモノだ。俺があの家に住みはじめたころから、ずっとあそこに立っている」
「でも、ずっとこっちを見てるみたい」
エリーは、二、三歩歩くと、手を胸に当てて硬直した。
「どこから天使を見ても、こちらを見ているように見えるんだよ。怖がる必要はない。もう動くことはなさそうだから。近づいてもただの銅像のようさ」
「そう……」
俺とエリーは、天使から離れるようにして水際を歩いた。
ふり返れば、しっかり天使に見られている。
以前、試しに湖の反対側から天使を見たことがあった。それでも、天使は俺を見ていた。
どうあがいても、天使からの視線から逃れることはできなかった。それ以来、俺は天使の視線を気にすることをやめた。
エリーがうちに来てから3日がたった日の深夜。
自分の部屋で寝ていた俺は、小さな声が聞こえて目を覚ました。
ベッドに横になったまま、耳だけをすます。薄明るい窓の外や家の中に人の気配はない。
別の部屋で寝ているエリーかと思ったが違った。
「た す け て」
小さな声だったが、今度ははっきりそう聞こえた。
変な声を聞いてしまったのかと、俺は驚いて体を起こした。部屋を見回しても誰もいない。
「た す け て……たすけて……」
声の前後に、ザザッと電波が乱れるような音も混じっていた。
――まさか。
俺はベッドから飛び出て、本棚の前に立った。もう読まれずにほこりをかぶった棚と本。その中に、オブジェがあった。
そのオブジェは、導線が筒に巻かれていて、ダイアルがあり、枠に小さな石がはめこまれている。その石の表面をなぞれるように、細い金属棒が支柱に支えられていた。
不気味な声は、それにつなげられたイヤホンから聞こえていた。
俺はそれを耳に当てた。
ザザーッ たすけて――
今度こそ、はっきりと女性の声が聞きとれた。
――このオブジェは電波を受信するような仕組みなのだろう。
これがいままで一度も電波を受信したことはなかった。
――いったい、どこから発信されたのか?
俺はなんども思った。ココには、もう誰もいないのだ。
――いや、エリーと同じようにまだ誰かがココにいる?
俺は、エリーの部屋のドアをそっと開けてのぞきこんだ。静かに寝ている彼女を確認して、すぐにドアを閉めた。
ダイニングのテーブルに、すぐに戻ってくると置き手紙を残して、俺は家を出た。
薄明るい夜中の林道を進んだ。
湖に沿うように右へ四分の一ほど行く。そこに戦闘機が一機、放置されていた。
ここに来てから、一度も乗っていないため、枝葉に覆われてしまっていた。
操縦席に座り、スタートボタンを押す。電子パネルが光りだし、戦闘機が作動した。
――問題なさそうだ。燃料も行って帰ってくる分はある。
俺は操縦桿を握った。この地に降り立ってからは一度も乗っていなかったが、座席に座ったことで、体の中から感覚が目を覚ます。
戦闘機は、当たりの木々を揺らして、ゆっくりと浮上する。そして、いっきに空へと飛行した。
戦闘機の騒音で、エリーが目を覚まさなければいいなと思っているうちに、いびつに欠けた地平線が見えはじめた。
「もうこんなところまで、来ていたか……」
この星は、黒い月に食われいる。
2年前、突然、黒い月が東方に落下した。そして、その月から天使が3体現れた。
湖に立っている天使とは比べものにならないほど、巨大な天使。巨人と言っても過言ではない。
1体は湖に立つ両耳の立った天使。そして、右耳が立ち、左耳が折れた天使と、右耳が折れて、左耳が立っている天使3体が、人類を破壊しはじめた。
天使と人類の全面戦争がはじまった。
俺は、戦闘機乗りの一人だった。どんな武器も兵器も天使には効き目がなかった。
人類がなにもできないまま、多くの人たちがその犠牲になっていった。
妻と娘だけではない。世界中で逃げ惑う人類は、天使の光を浴びてオレンジ色の液体に変えられていった。
俺は反対側の窓に顔を向けた。天使が大地を
月の進行速度が、自分の死とこの星の終わりを意味している。
――もうそんなところまで……。
俺は操縦桿を握り直して、捜索を再開した。しかし、地上に人の動く影はない。
俺はさらに高度を上げて、宇宙へと出た。
地球を取り囲むように、金属の破片が無惨に散っていた。その破片はどう見ても人工物だった。
地球を脱出した宇宙船、もしくは、人類の新たな住み処、宇宙居住区コロニーを形成していたもののように俺は思えた。
天使との戦争に人類は、すぐに攻撃を放棄。地球を破棄して宇宙に逃げることを選択していた。
コロニーへの移民が、以前からはじまっていたため、それが加速して移民完了はたったの半年しかかからなかった。遅くなれば、犠牲者が増えるだけだった。
しかし、地球に俺以外の人がいなくなった途端、巨大な天使は消えてしまった。住み処を見つけたあの湖のほとりにいる天使以外は。
破片は暗闇の向こうから永遠と漂ってきていた。
――天使があと追って、宇宙船やコロニーを破壊したのか。
――だったら、あの救助を求める声はそこからのものだったのか。
戦闘機の燃料を見ると、残り少なくなっていた。
宇宙の先が見えないのと同じように、永遠に答えの出ない思考を止めて、舵を地上に向けた。
しかし、戦闘機がまったく前に進んでいないとわかったのは、1分くらいたってからのことだった。
戦闘機に異常は確認されていない。
冷や汗をかきながら、俺は辺りを見回した。そして、背後を見たときだった。
白い大きな渦が迫ってきていた。
いや、戦闘機がその渦に吸いこまれていたのだ。
――まずい。このままじゃ。
俺は戦闘機の出力を最大にした。しかし、渦から離れることはできず、しだいに渦が近づいてくる。
戦闘機の背後からガガガッと、機体が壊れていく音と振動が伝わってきた。
――くそっ。こんなところで、わけもわからず死ぬのか。
俺は、白い渦に飲みこまれた機体が光に刻まれていくのを見ているほかなかった。
「ここは……」
次に目を覚ましたときは、自分の部屋の天井だった。
「ヒンジス?」
エリーが自身なさげに問いかけるように聞いてきた。
「エリー……俺は……」
「あなたは、ヒンジスよね」
「あっ、あぁ。そうだけど……」
エリーは一度部屋を出ていき、ダイニングの隅に片づけた姿見を運んできた。鏡を向けられる。
「えっ、そんな……ど、どうして……こ、子どもの姿になってる……」
中学生くらいの頃の自分だった。パッと手の平を見つめた。大人になる前の手だった。
しかし、俺の記憶はここに住んでいることを知っている。すぐに、宇宙に出た戦闘機の中で白い渦に飲みこまれたことも思い出せた。
「エリー、俺はどのくらい寝ていた?」
「一週間くらい……」
「一週間? あっ、それじゃあ……」
ベッドから起きあがって、窓の外を見た。
「ヒンジス……あれって……」
「あぁ、この星を食ってる月だ。もうそこまで……」
黒い月が湖の先の山向こうに堂々見えていた。
――もう時間の問題か……あ、俺があの渦に飲まれて子どもの姿にもどったってことは、エリーも。
――も、もし、エリーが死んでおらず、移民した先であの渦に飲まれて、時流から出てきたのがココだったら。
「エ、エリー。記憶は?」
俺の問いに、エリーは静かに首を左右に振った。
「そうか。つらいよな。なにも思い出せないまま……」
「ヒンジス。これ、読んだ……」
エリーは数枚の紙を持って見せてきた。ベッド脇に置かれたイスの上に、俺が書いていた小説の原稿があった。
エリーは、俺が眠っている間、俺の様子を見ながら読んでいたのだろう。
「このお話って……」
「うん、この星で起きたことだよ。もし、人類が天使を倒して、地球を守って、そのあとのことを書くつもりだった」
「そうだったんだ。私、ぜんぜん思い出せない。SF小説かと思ってた。でも、私はこのあと、どうなるのか気になる」
「ははっ……。恥ずかしながら、そこから全然、筆が進まなくて……自分でもどうしたらいいのかわからなくて……」
「これに出てくるエリーって人、ヒンジスの奥さん?」
「そうさ。自分を主人公にして、天使を倒して地球を救う。そして、家族と再会する話にするつもりだった。もういないエリーを思い出すと、ぜんぜん書けなくてさ」
「そう。机の家族の写真を見て、なんとなくわかった……ごめんなさい。私、ヒンジスのことぜんぜん思い出せなくて……今までなにをしてきて、どうして私がここにいるのかも」
「エリー、君が謝ることじゃない。俺は好きでココにいて、最後を迎えたかったんだ」
「それじゃあ、あの黒い月は……」
「それに出てくる星を食う黒い月。まさに、あれだよ」
俺は山頂の向こうに見える黒い月を指さした。
エリーはじっと窓の向こうを見てから、俺にふり返った。
「私、あの山の向こうを見たい」
「えっ、山の向こうって……もう月があんなに迫ってて、見えるものなんてそんなに」
「だって、私、この家の周辺しかわからないし、記憶も命もそんなに長くない。最後に向こう側がどうなっているか知りたいの」
エリーは強く俺を見つめてきた。
――戦闘機があれば、山の向こう側だけでなく、月に食われる星全体も見せられたのに。
「わかった。行こう」
――この家にいようが、山に行こうが、月に食われるタイミングが少し早いか遅いかだ。
湖を半周した先に、山へつづく道があることだけは知っていた。今まで山に登ろうとは思ったことはなかった。
二人で息をきらしながら、山道を歩いた。
どのくらい歩いたかはわからない。二時間くらいだろうか。どのくらい時間が経とうが、のどが渇こうが、もうなにも気にする必要はなかった。
山の尾根に出ると、反対側を見渡すことができた。
見上げるほどの大きな黒い月は、ふもとの手前まで迫っていた。
バリバリと大地を食べ進んできていた。
「もうなにもないね」
エリーは、すっきりとした声で言った。
「この辺は、向こう側もこっちもあまり変わらないさ。湖はなかったけど」
「でも、上から湖を見れて良かった。きれい」
エリーは月に背を向けて、今までいた家のほうを見た。
「まさか、湖を上から見ながらが、最後になるとは思わなかったな」
目を凝らして、天使の存在を確認する。わずかに小さな紫色の点が見えた。
やはり自分たちを見ているように感じられた。
――もうこれで、視線を感じられなくなるのか。
「ねぇ、あの小説の続き、エリーと再会したヒンジスはどうするの?」
「えっ、どうするって……」
もう背後には月が迫っている。なにをどう答えたって、状況が変わるはずもない。
なぜ、エリーがそんなことを聞いてきたのか俺にはわからなかった。
「抱きあって、キスするんじゃないかな……」
俺は恥ずかしくなった。もとの大人の姿であれば、それを感じるはずもないと思った。
「じゃあ、キスしよ」
同い年ほどのエリーが俺に向き直って言った。
「えっ――」
「私はヒンジスの奥さんなんでしょ?」
「た、たぶん。エリーの幼少期はあまり見たことがないから」
「大人になったあの写真は、私だと思うよ。ね、ほら、早く……もう月が……」
エリーはちらっと横を見た。
俺も見る。黒い壁がついにそこまで迫り、月に吸い寄せる風が強くなっていく。
「ヒンジス。もし、来世があったら、また私の魂を見つけてくれる?」
「エリー。もちろんだよ」
俺はエリーと唇を重ねた。まだ幼き少女の妻の唇は、柔らかかった。
そして、強く彼女を抱きしめた。
もし、このまま月に食われるなら、エリーと一緒に同時にが良かった。
月に強く吸い寄せられて、体が浮いた。
そのとき光に包まれたように思えて、まぶたを少し開けた。
目の前には紫色の光が放たれているがわかった。片耳の折れたそれのように思えた。
俺の魂は天使に補完され、魂の座は消滅した。
月はあとかたもなくすべてを食いつくした。
のぼっていく魂の中で、俺は別れを告げた。
この星に、ありがとう、と。
星の終わりにくちづけを 水島一輝 @kazuki_mizuc
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