第1話 事後
そして、今に至る。
「それは、その、何だろう。流石に擁護できないかなぁ」
幼馴染みの山吹志穂は完全に引きつった笑顔を見せる。それは見事に僕の心にクリティカルヒットした。
「うん。それは僕が一番感じてる」
僕は氷が溶けて水とジュースに分離した飲み物をストローで混ぜながら答える。
色々な感情が混ざってしまって、山吹の顔が見れなかった。それこそ、自分のダサさとか色々なものに嫌悪感を感じたせいだった。
「それにしても、なんで振ったの? 椎名さんのこと前から可愛いとか言ってたじゃんか」
カランとコップのなかで氷が弾けたような音が聞こえたように感じた。
図星だった。可愛いし普通に好きな人ではあった。だからこそ、振る理由なんぞ無かったのである。結局、理由はしょうもない劣等感や僻みに近かった。
「それはそうだけど。言い訳していい?」
「もう何言っても言い訳にしかならないと思うけど、いいよ」
僕が言いづらそうなことを察してか、彼女はストローに口をつけて、あくまでも興味無さそうに、耳を傾けてくれていた。
「その、椎名さんってやっぱり可愛いじゃん。それに人気だし。だから僕とは釣り合わないし、みんなからヘイトを買う気がするから。もし、そうなったら椎名さんを傷つける気がする」
山吹は呆れたように「はぁ」と大きな溜め息をつく。黒のストローを人差し指でくるくると回す。
「そっか」
山吹は何かを察したのか、さらに優しそうな声で話を続ける
「まあ河野がそういうなら否定はしないけど、それで河野自身は後悔してないの?」
「後悔しかないよ。折角のチャンス逃しちゃったんだから」
山吹は一気にコップの中のコーヒーを飲みきって、ズズッと大きな音を立てた。僕にはその音が警告のように聞こえた。
「そっか。じゃあね、今の河野に後悔なんかしてる暇なんてないよ? 椎名さんって河野が言ってた通りの人気者だから。傷心してる女の子が他の男子に優しくされたら、多分ころっといっちゃうよ?」
僕はそんなの言われなくても分かっていると逆ギレしそうになるのを抑えて、冷静になろうとした。
「まあ、そうだろうね。仕方ないよ」
しかし、振ってしまった罪悪感や図星を突かれたことによって気が動転してしまい冷たく当たってしまう。まさしく逆ギレである。
山吹はそれでも優しくなだめるように話してくれる。でも、最初のときとは違って真剣な目をしていた。
「そのね、私が言ってるのはそういうことじゃなくてね。たまには諦めずに女々しくなっても良いんじゃないって話」
「いや、そ──」
僕が否定するよりも早く彼女は続けて話した。
「じゃあ私は帰るから。またね。余ったお金は私からの応援料だから。あと私はもう言い訳聞かないからね。ま、頑張れ!」
そういうと山吹は机の上に500円玉を叩き付けて帰っていった。
「ちょっと、待って……」
僕の制止はかなわず、彼女はそのままファミレスを出ていった。突然の静寂と周りの好奇の眼差しがグサグサと僕の心に刺さっていく。
僕は全てを背中で受け止めながら、コップに入ったジュースを一気飲みしてから、僕はスマホを取り出して山吹にメッセージを送った。
『お釣りは明日返す。あと、もうちょっとだけやってみるよ』
僕はメッセージを送ってから、恐くなってそのまま携帯の電源を落とした。
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