第4話

昼休みになった。


いつもだったら学食になんて行きたくないが今日はそうでもない。


「じゃあ、食べてくる。」


笠田にそう告げて、学食に向かう。


珍しく笠田が何も聞いてこなかったので楽に教室から抜けられた。


いつもなら少し長いと感じる廊下もあまり気にならなかった。


学食に着くと多くの人で賑わっていた。


「席取るの大変だな。」


辺りを見渡しても空いている席はなく、教室に戻る人よりも席を待つ人の方が多い。


和佐は空いている席を確認しながら、佐倉さんを探す。


前の授業が違った佐倉さんと教室で合流してから学食に行っても良かったが、前にも言った通り教室から距離が遠いので待っていたら席を取るのが困難になる。


待ってない今でも探すのに手間取っているのだから、待っていたら休み時間が終わるまでかかってしまうかもしれない。


学食の半分くらいを周ったところで、


「伊崎くん、こっちこっち。」


と声をかけられる。見ると佐倉さんが手招きをしていた。


和佐が歩いてそこに向かうと席に佐倉さんの妹が座っていた。


「待たせたか?」


席取りをしたと言うことはそれなりに早く来たということなのでそう聞くと、佐倉さんは首を横に振って、


「私も今、来たところだよ。」


と答える。


「良く席取れたな。俺が探したところは全部空いてなかったよ。」


「奈那が先に取っておいてくれたんだよ。」


若干、佐倉さんの妹には気まずさがあったが何も言わないのは変だったので、


「そっか。ありがとな。」


と佐倉さんの妹の方を見てお礼を言う。佐倉さんの妹は和佐がお礼をすると、和佐から視線を外すように俯いた。


「伊崎くん。私たち先にご飯買ってくるからここでお待っててね。」


佐倉さんはそう言って、


「ささ、奈那行こ。」


と佐倉さんの妹を急かして連れて行った。


椅子に座り、佐倉さん達が帰ってくるの待つ。


ぼーっとしていると、


「お待たせ。」


と佐倉さん達がご飯を持って帰ってくる。


「じゃあ、次は俺が行くか。」


そう言って立ち上がりご飯を買いに行く。


考えている時間が勿体無いので笠田が学食で良く食べていると言っていた醤油ラーメンを頼みすぐに戻る。


「買ってきた。」


そう言って机にラーメンを置く。机を見ると佐倉さん達のご飯は減っておらず待っててくれたことがわかる。


時間かけなくてよかった。


和佐が座るのを見て、


「じゃあ、食べよっか。」


と佐倉さんは両手を合わせる。


和佐と佐倉さんの妹はそんな佐倉さんを見て両手を合わせると、


「いただきます。」


と挨拶をして食べ始めた。


食べ始めてすぐ、佐倉さんが話しかけてくる。


「伊崎くんってどこに住んでるの?」


「俺は学校から自転車で30分くらいのところに住んでる。ここからそんなに遠くはないよ。」


「自転車で30分ということは、隣の駅の周辺ってこと?」


「そこら辺かな。」


「なら、私たちの家と近いのかな。伊崎くんってどこ中だったっけ。」


高校一年生の時に自己紹介でどこの中学校出身か話したが、中学校の名前だけ言われても、殆どわからないので誰がどの中学か記憶できず覚えていない。


なので佐倉さんの中学校がどこなのか覚えていない。佐倉さんも同じような感じだ。


「俺は第一中学校だけど、佐倉さんは?」


「えっ、第一。私たちは新中央中学校だよ。」


第一と新中央はかなり近くで、和佐の小学校は卒業するとどちらに入学するか決めることができるくらい近くにある中学校だ。


もしかしたら、同じ中学だったかもしれない。


「まじか。新中央か。かなり近いな。」


今まで何で気づかなかったのか驚きだ。


「うん。驚いたよー。奈那も驚いたよね。」 


佐倉さんは佐倉さんの妹の方を見てそう聞くと、小さく首を縦に振る。


喋ってないけどちゃんと驚いたっていうのが聞こえてくる。


「あっ、そうそう、今、話してて思ったんだけど、私のこと佐倉さんじゃなくて、玲奈って呼んでよ。」


えっ、なんで、恥ずかしくて呼べるわけないだろ。


とは言えない。


「奈那と二人でいる時に佐倉さんだとわかりづらいでしょ。だから、私のことは玲奈。奈那のことは奈那って呼んでよ。」


「えーっと、無理。」


「なんでよー。私も伊崎くんのこと和佐くんって呼ぶからさー。」


それは悪くない。それなら、呼んでもいいかもしれない。


佐倉さんの方を見て、


「れ、玲奈...さん。」


と呼ぶ。


「うんうん。それでいいよ。じゃあ、奈那を呼んであげて。」


そう言われて佐倉さんの妹の方を見て、


「奈那。」


と呼ぶ。


「良くできました。和佐くん」


そう言われるとなんか恥ずかしい。


多分、今の顔かなり赤くなっていると思ったので、佐倉さんに顔を見られないように横を向く。


それを見て奈那が少し笑った気がした。

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