第2話
何事もなく授業は終わり、和佐たちは帰る支度をしていた。
鞄に教科書をしまっていると
「今日、掃除当番か?」
と前の笠田が聞いてくる。
掃除当番は四週間に一回。つまり、一ヶ月に一回くる。窓拭きや床掃除、机拭きなどをやってから帰らなければならないというめんどくさいもの。
「いや、違うよ。俺は来週。」
「そっかー。なら今日、一緒に帰らね?」
笠田がそう聞いてくる。
いつもだったら一緒に帰っているのだが、今日は予定がある。
なので、
「いや、無理。」
と即答する。
「なんで?」
笠田はいつもと違う返事に首を傾げる。
「昼休みに先生に少し頼まれごとをしたから、それをこなしてからじゃなきゃ帰れないんだよ。時間かかるかもしれないし待たせるのも悪いから今日は先に帰ってくれ。」
と適当なことを言っておく。
佐倉さんに呼ばれたなんて言ったら何を言われるかわからないし、ついて来られるとめんどくさい。
「先生からの頼まれごとか。それくらいなら別に俺は待っててもいいけど。ってか、俺も手伝おうか?」
えっ、なんで待ってくれるの?
いつもは長くなりそうだと帰るとか言うよね?
なんで今日に限って手伝うとか言うんだよ。めんどくさいな。
「いや、いいよ。教室に残ってた中で俺だけに頼んだってことは俺だけにやって欲しいことがあるんだろうし。」
ちょっと強引だがこれで諦めてくれ。
「それなら、しょうがないかー。」
「悪いけど、俺を気にせず帰ってくれ。」
「わかった。」
やっと、折れてくれた。
佐倉さんは他の人に聞かれたくないような内容を話すと言っていた。笠田を連れて行ったら話せない可能性がある。
「じゃあ、先帰るわ。」
笠田は鞄を持つと、
「また明日。」
そう言うと笠田は駆け足で教室から出て行く。
「さて、俺も行くか。」
笠田がいなくなったので、鞄を持って空き教室に向かう。
和佐たち二年生は三階に教室がある。三階の空き教室は一階にある学食から一番近い階段を登ってすぐ近くにある教室。
今から、この教室から三階で一番遠い教室に向かう。
大体、十クラス分くらいの距離。
別に遠いとか気にしてないけど、もっと近い所なかったのかな?
空き教室にプリントの山とか置いてあるのかな。
そう思いながら、廊下を歩く。
期待してない訳じゃない。授業中も少し考えていた。でもよく考えると惚れられる要素などどこにもないので考えれば考えるだけ告白はないなと思ってしまう。
まあ、手伝うことで好感度が少しでも上がるのならそれはそれでいいかななんて思っている部分もある。
空き教室の前に着くと扉の前に佐倉さんがいる。
「あっ、来た来た。」
「待った?」
帰りのホームルームが終わってからあまり時間がかかっていないはずだけど、笠田と話しすぎたかもしれないので念のために聞いておく。
「大丈夫。私も今来たところだから。」
「そっか。なら、よかった。」
「さぁさぁ、廊下で話すのもなんだし、教室に入ろっか。」
そう言われて教室に入る。
教室の中には勿論誰もいなく...。って誰かいる。
少し背の小さめの少女が空き教室の端っこの席に座っていた。
「えっと、俺たちより先に他の人が使っていたのか。佐倉さん、どうする。」
「大丈夫だよ。今日、呼んだのはあの子。私の妹が伊崎くんに話があるみたいだから。」
えっ、まじ?
予想していなかったので驚いてしまう。
「じゃあ、あとは二人でよろしくね。私、教室の前で待ってるから。」
そう言うと佐倉さんは出て行ってしまう。
状況が読み込めない。ってか、佐倉さんに妹いたんだ。
とりあえず、俺に話があるであろう佐倉さんの妹の近くまで歩く。
少女は俺が近づいても席から離れることはなかった。っていうか何かに集中しているのかこちらに気づいていない。
「話って何かな?」
話しかけると佐倉さんの妹は、ピクッと身体を震わせて驚く。そして、こちらを見ると
「あっ、えっと、ちょっと待ってください。」
とその場で立ち、
「あの、私のこと、覚えてますか?」
そう聞いてくる。
どこか見たことのような顔だが、どこかで会ったかわからない。今わかるのは佐倉さんの妹ということだけ。
「ごめん。わからない。」
「そう...ですよね。」
佐倉さんの妹は俯き落ち込む。空気が重くなりそうだったので話を逸らす。
「君、名前は?」
そう聞くと顔を上げて、
「わ、私のですか?」
と逆に聞き返してくる。
「そうだよ。」
「えっと、私は佐倉奈那です。」
「佐倉奈那か。俺は伊崎和佐だ。知ってるとは思うけど君のお姉さんのクラスメイト。伊崎でも和佐でも好きなように呼んでくれ。」
「わかりました。伊崎先輩。」
お互いの名前を教え合ったことで緊張がほぐれたのか、少し表情が柔らかくなっている気がする。
「それで佐倉さんは俺に何の用があったんだ?」
さっきからしつこいかもしれないけど、これを聞かなければ話は進まない。
「えっと、あの。それはですね。」
と佐倉奈那はまた俯く。
また、何かを考えているようだった。
和佐が「どうかしたの?」と聞こうとした瞬間、佐倉奈那は何かを決心したのか、
「よし。」
と呟いて前を向き和佐の目をしっかりと見て、
「あの、先輩のこと好きです。付き合ってください。」
と頭を下げた。
突然、告白された。殆ど知らない相手に。
一瞬戸惑ったが、答えはすぐに出た。
俺は佐倉奈那よりも佐倉玲奈の方が好きだ。この気持ちは変えられない。
だから、
「その気持ちは嬉しいけど、ごめん。無理だ。」
と告白を断った。
「なんでか聞いてもいいですか?」
目に涙を浮かべて今にも泣きそうになるのを堪えてそう聞いてくる。
「俺にも好きな人がいるから。それじゃ、駄目かな?」
「駄目じゃないですよ。充分すぎる理由ですよ。充分...。」
そう言って左目からポツリと涙を流す。
「本当にごめん。」
謝る必要はないのかもしれないがその言葉しか出てこない。
「私の方こそ。ごめんなさい。」
「話はこれで終わりでもいいかな? 俺はもう帰るよ。」
そう言って扉に向かって振り返ると佐倉奈那を見ることなく、部屋から出て行く。
少し冷たいのかもしれないが、佐倉奈那からの好意をなくすには丁度いいのかもしれない。
扉を開けてすぐのところに佐倉玲奈がいた。
「ごめん。多分、君の妹を泣かせた。」
和佐はそれだけ言って佐倉さんの前を通り過ぎる。
佐倉さんはその一言を聞くと和佐に何も言わずに空き教室に入って行く。
最悪だ。彼女に佐倉玲奈に嫌われた。
「なんか。嫌だな。」
そう言って廊下を歩いた。
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