第13話 デート?①
モーニングコール。
経験した方も多いだろう。ホテルや旅館などで電話で起こしてもらうサービスである。
決してドアをガンガン鳴らして起こすものじゃない。
自分が起床する時間の少し前に鳴らしてもらうように依頼しておき気持ちよく目覚めるものでもある。
まず俺の休日の起床時間の確認だ。
正午。
時計の針がどちらとも真上を向く時間である。なぜなら金曜の夜はロードショーを視聴し、その後編集をまとめて行うからだ。
さらに言えば金曜日はアニメやオンラインゲームも白熱する曜日である。次の日は土曜日でお休みだからな。
つまり。結論を言うと―――
ピンポンピンポンピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ―———!!!
「うっせええええぇぇぇぇぇ!!」
♪♪♪
「アンタがこの時間に起きていないからいけないのよ」
「まだ八時だが」
ドアを開けると仁王立ちしていた月見里の姿がそこにあった。やはり学校の雰囲気とは異なるとげとげしい感じ全開で。
俺、家の部屋番号教えていないはずなんだが、それは聞かないのが得策というものだろう。俺は口からでかけた「ストーカー」という言葉をグッと飲み込む。
月見里の服装は春先コーデというやつなのだろうか。白を基調としたゆったりしたブラウスを着ている。クラスの男子どもからしたら見れてラッキーなものかもしれない。
だが出しているオーラが服装とミスマッチッ!
外面良くすれば映えるだろうな、なんて思っているとキッと睨まれた。俺の卒業論文には「女子が心の中を読むこと」をテーマに決まりッ!
ボリボリ腹をかいているといると月見里は以外にも顔を背けて早口で言った。
「さっさと着替えてきなさい。外で待ってるから」
「え? 中に入んねえの?」
「襲うつもり? 警察呼ぶわよ」
「外だと変な目で見られると思ったから言ってるんだよ」
主に俺がな! ご近所づきあい大変なんだぞ!
普段と変わらない口調だが月見里は決してこちらを見ようとしない。
目を背けたままの月見里を見て俺は一つひらめいた。ありえないとは思いながらもその言葉を口にする。
「もしかして、・・・・・・男の部屋に入るの初めてで恥ずかしいのか?」
「なっ!」
顔を薄紅に染め「違うわ」とギャンギャン騒ぎだす月見里。俺は耳を塞ぎながら高揚感を覚えていた。
これがサディストの感覚。俺はマゾヒストだと思っていたがどうやら違ったらしい。
ニヤッと笑うと続けて言葉を発した。
「―――だから全然違うわよ!」
「ああそうか。じゃあそれとも……俺のちらちら見える腹が気になる?」
その言葉を口にしたとき冬に戻ったかと思わせるくらい空気が凍った。それを受け、嫌でも言葉の選択を間違えたことに気づく。
月見里はひどく冷めた目で俺のことを見ていた。紅潮していた頬も元に戻っている。・・・・・・なにかに目覚めそうだ。
「は? 割れてもいない腹見せられて恥ずかしくなるわけないじゃない。そこまで自分のこと格好良く見せたいの? さすがに引くわよ」
そしてすぐに否定された。
「す、すいませんでした。調子乗りすぎました」
「そね」
俺が冷や汗を流しながら謝ると「じゃあそうさせてもらうわ」と中に入って行ってしまった。その時ちょうど隣のおばちゃんが出てきたようで俺のことをみて優しく諭してくる。
「女の子はね、素直じゃないの。そう悲観しなくてもいいわ」
「……」
いえ、違うんです。……すいませんでした。
♪♪♪
俺が適当に準備すること十分強。その間月見里は意外にも借りてきた猫のようにクッションの上でじっとしていた。服がダサいだのなんだの言うことは言っていたがそれは許容範囲だろう。
俺が鍵を閉めると月見里はため息をついた。
「ほら、さっさと行くわよ」
「…… ?どこにだ?」
ため息は俺の返答を予想してのものだったらしい。だったら先回りする感じで答えを言っていてほしいのだが。
「活動実績よ。別にコンクールだけじゃないでしょ?」
「はぁ」
「つまり――」
月見里は口角をわざとらしく上げ笑みを作った。不覚にもその表情にドキッとさせられている俺に腹立つ。
「――遊園地よ」
♪♪♪
夢と希望の国!
たくさんのアニメ映画を模したアトラクション、全30種! 有名料理店が提供するオリジナルの食事はここでしか食べられません! 日本最大級のテーマパーク! その名も―――
「あーわかったわかったから。再生やめろ」
「事前予習は大事よ」
電車の中で音量出すなって言いたいんだよ。頭いいんだろ、そのくらい気づけよ。いくら人が居ないとはいえマナーはマナー。守らにゃあかん。
月見里はまた冷めた表情で俺を見ると長くため息をついた。今まで流していた動画よりも大きかったのでビビる。
「私と一緒に遊園地だなんて、クラスの全員が垂涎モノよ?」
「だったらもっと愛想よくしろよ」
動画の再生音量よりも強くため息を吐く女のどこがいいんだ。
俺も負けじと長くため息をつき月見里が持つチケットを指差す。
「で? どうして俺なんだ?」
「チケットの有効期限が明日まで。それでいてかつ暇人に心当たりがあなたしかなかったから」
「齒にもの着せぬ物言いありがとう。もうすこし他人のこと考えような?」
俺は本日ゆっくりとした休養を取るつもりだったのですが? 睡眠大事よ?
「本当は明日美と一緒に行く予定だったんだけど、明日美ちょっと用事が入ったみたいで。……だから仕方なくよ」
「……仕方なくの前に間を開けるな。傷つくだろ」
「用事に負ける程度の存在乙」と言おうとするもその前に鋭い眼光で黙らされてしまう。
俺は黒い手袋をした手を二度ほど握り口を開いた。
「で、俺に来たはいいけどさ―――」
「嬉しいのね、気持ち悪い」
「……いいけどさ、それと何が活動実績に結び付くわけなんだ?」
ちょくちょく挟んでくる面倒くさい悪口を華麗にスルー。月見里はムッとした表情になるもスマホをいじり、画面を俺に向けてきた。
「今、限定でストリートピアノが置いてあるらしいのよ。この変に絵の具が塗りたくられた黄色いアプライトピアノ」
「変にって言うな。そういうピアノなんだよ」
「もう動画上げている人もいるわよ。グラサンがトレードマークの彼とか」
どうやら本当らしい。公式ホームページにもアップされているしな。
だけど遊園地と言ったらうるさいテーマソングが延々流れているイメージが強く残っている。それにピアノを掛け合わせてどうなるのか。不協和音で逆にうるさくならないのか?
「別に和音だかなんだかを気にするんだったらあなたがそれを巻き込んで演奏すればいいじゃない。ピアニスト、なんでしょ?」
「心を読むな心を」
合わせるって……。どんだけ大変なのかわかってんだろう―――分かっているんだろうな。それでいての無茶ぶり。さすが女王。
俺は抗議するのも諦めどうしようかなーと考えていると駅に到着する音楽が鳴った。それが鳴ると同時に月見里は立ち上がる。
「さ、行くわよ」
―――なかがき
アプライトピアノとは縦長のピアノです。駅ピアノは大体アプライトピアノですね。
違いとしてはアプライトピアノの価格平均は150万円くらいで、グランドピアノは600万円くらいということでしょうか。
ちなみに音楽室にある『B-211』は1200万円以上する最高級のピアノです。
作中で月見里が黄色いピアノのことを変なと言っていますが、作者はそんなことは微塵も思っていないのでご了承ください。
読んでくださりありがとうございます。応援よろしくお願いします。
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