第11話 御手洗寧々
さて。
目の前で
名前は寧々。御手洗寧々。俺の知り合いにして人気Youtuber。
身長はだいたい150センチ(詳しくは知らん。俺はストーカーじゃねぇ)。体重はシークレット。
悲しいことに幼児体型。これは本人に言うとガチでキレるから注意が必要。以前口を滑らせたときは俺の腰が死んだ。
そして寧々の学校。
寧々は俺の学校に隣接している女子高に通っている。そこは学力はうちとタメ張っていて人気が高い。
それに――
なによりも顔面偏差値がたけぇんだよ!
さらに言えばそこで寧々はかわいいほうに分類されている。
それにボクっ娘。これ、ポイント高い。ボクっ娘でかわいいは正義。ゼロ○ーとか神だろ。
つまり何が言いたいのかというと―――、
「なにあれ、まじかわいいじゃん」
「それな。紅い髪で目も、独特だけどそれがいいっていうか」
「ていうかアレ、NenEじゃね?」
「それに比べてなにあの陰キャ」
「お似合いって・・・・・・お世辞でも言えないわ~」
――超目立ってるんだよな~。胃が、胃が痛い・・・・・・。
「………なぁ、帰っていいか?」
「だから話してって言ってんじゃん」
どうやら譲る気はないらしい。
証拠に財布等のほかに俺の足も踏んで抵抗している。窃盗に暴力。前科三犯まであと少しだな!
俺は覚悟を決め、まぁ、特に隠すようなことじゃないけど、話すことにした。特定されて入ったこと。いや、入らされたこと。脅迫みたいに――実際に脅迫――され強制的に入らされたこと。
入 ら さ れ た こ と。
いや、話せば話すほど理不尽の極みだわ。
話し終え新しく頼んだコーヒーをすすり息をつく。カップを置き顔を上げると目をキラキラさせた寧々がいた。胸の前で両手をギュッと握っている。あ。これ・・・・・・
「なにそれ! ボクもやりたい!」
ですよねー。やっぱりそう来るよね。だけどね――
「そもそもうちの学校の部活、他校との共同活動してないから」
「そんなの知ってるよ。だからこっそり――」
「アホか」
お前ほどのルックスでこっそりもくそもあるか。考えてモノを言えバカ。それともなんですか? 顔面偏差値低めの俺への挑発行為ですか? え?
机の下で足をブラブラさせ俺のスネを的確に蹴ってくる寧々はブクブクと呪文に息をストローを経由して入れていく。行儀悪い。
だがその姿も庇護欲というものを刺激するのか近くにいた男子は悶絶していた。俺に対する殺気がエグいことになってる。俺、後で殺されないかな? 心配になってきた。
俺は「他のことなら聞いてやるから諦めろ」と言ってコーヒーを口に含む。すると寧々は目をキラリと光らせた。
「なんでも? なんでもって言ったよね?」
「は? なんでもなんて言ってねぇよ。耳鼻科いって来い。アホ」
「いや、確かに言ったよ!」
ベーと赤い舌を出して挑発してくる寧々。くそっ、かわいい。周囲の男どもの熱も上がったようだ。
付き合っていられないと思い席を立る。寧々は「ちょっと待ってよ」とかなんとか言っているが無視。この際もう、お金いいや。別に。
「帰ってすることとかいろいろあるからもう帰るわ。お前もさっさと帰れ」
「ちょっ、帰って何すんの? あ~、男の子がするっていうアレ?」
「そんなの女子もするだろうが。編集だよ編集。動画撮り貯めしているけど編集はまだなんだ」
「あ、じゃあボクも一緒にやr―――」
僕っ娘といっても性別が女のやつが夜にい男の家に入るなんて非常識だ。しかも後輩。犯罪者にはなりたくない。
俺は急いで改札を抜け発車すれすれの電車に滑り込んだ
♪♪♪
一杯目に飲んだ甘ったるい呪文のおかげか、夕飯を早く食ったわりに腹は空いていなかったので動画をアップした後、すぐに編集に入った。ちなみに今日アップしたのはJ・POPの流行っている曲だ。なかなかうまく耳コピ出来た自信作である。
どうやら皆も感じ取ってくれたようで普段の数倍再生回数の伸びが速い。いけいけ! もっと伸びろ!
動画編集のソフトを立ち上げながら今日のうるさい奴の動画を視聴することにした。「NenE」というチャンネルをクリックする。最新の動画は――これか。俺もよく行く駅のピアノで弾いている動画だった。
客が一人もいない状態から一曲でどれほど増やせるかというありふれた企画。だが企画倒れになることもたまにあるちょっと危険なものだ。人が集まらなかったらそもそもだしな。
短いCMが終わりNenEチャンネルとかわいい声が聞こえてくる。駅の紹介が終わりさっそく演奏に入った。
髪の赤い女の子は雑踏の中ピアノに手を置き鍵盤を力強く押した。ポーンと高くも低くもない、ただ少しだけ調律の狂った音が駅に響く。
まだ、誰も足を止めない。
だが彼女はそんなこと気にせずにその右隣の鍵盤を続けて押した。そのまま二音続けて、そして同じ要領で落ちていく。
誰でも知っている曲。これは、そう。
『かえるのうた。』
まずそれを聞いた道行く男の子が母親の手を引き二人止まる。それを横目で彼女は見ると左手をうまくハモるようにあわせていった。男の子は音楽に素直なのか体を揺らし始める。
「フフッ」
彼女はノッている男の子を見て小さく微笑むと一旦手を鍵盤から離す。そして―――
「わあっ!」
右手が
男の子がそれを聞いて歓声を上げる。駅のホームから出てきた帰りの学生や社会人も立ち止まり人が彼女を囲んでいく。
「すごいな」
俺もこの企画をしてみたがここまで人は集まらなかった。着ぐるみで話題を引けると思ったんだけど・・・・・・。ま、まぁ? 寧々はルックスがいいし? く、悔しくないんだからねッ。
・・・・・・まぁ、実際悔しい気分ではある。
複雑な気分で見ているとそんな俺に挑発するように左手もオクターブに変化して、そこから階段のように音を崩していく。
そして――
「「「ワアァァァァァアッ!!」」」
駅に歓声が上がった。すさまじい拍手が聞こえてくる。撮っていたカメラが回るとそこにはたくさんの人が集まっていた。最後に寧々のピースで終わる。コメントには『最後かわいい』とも書かれてもいた。演奏じゃないのかよ・・・・・・。
だが、すごいな。ほんとにすごい。
三十人以上は集まっていたんじゃないだろうか。たった五分弱の演奏に。俺がこの企画をやった時は十五人(ちゃんと数えた)だけだったというのにその倍以上って。・・・・・・時間帯がよかったんだろう、うん、そうに違いない。それに―――、
――楽しそうに、自分自身が楽しんで弾いていた。
これが一番いい。
「うちの学校にマジで侵入してきそうだな」
あいつが音楽部にいても違和感は感じないと思う。むしろ歓迎できるのではないだろうか。なんなら月見里が校則変えそう。
そんなことを考えているとヴヴッとスマホが振動した。ラインを開くとアイコンがピアノだったので寧々からだとわかる。文はシンプルに一つだった。
『勝った\(^o^)/』
その日俺の部屋で悔しさの慟哭が響いたのは言うまでもない。
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