第3話 屋上で(ここまでがプロローグかもね)

 その後は特に絡まれることも無く時間は過ぎ。地獄となるであろう放課後を迎えてしまった。え? その間俺は何をしていたって? 主に授業内容と動画の編集の構想かな。予想通り? ・・・・・・ほっとけ。

 

「行かないとばらすって・・・・・・。ほんと陽キャって怖いな」

 

 あの文面を送ってきた奴って誰なんだ? さっき絡んできた誰かなのは違いないと思っているが全く分からん。とりあえず語尾を馬鹿みたいに延ばす雄雅っていうやつは除外だな。

 なら康太というイケメンか? ピアノの動画見ていたって言っていたし。

 それとも作曲アプリで絡んできた三人の誰かか?

 考えてはきりが無い。悩ます頭がもったいないと思い席を立った。ぺちゃくちゃしゃべっている陽キャに目を向けるも変化は全く無い。思い違いか?

 誰からも挨拶されること無く俺はクラスを出た。


◇◆◇


「遅い・・・・・・」

 

 屋上に足を踏み入れて一時間。人がいる気配も無ければ屋上の扉が開く気配も無い。

 これはアレかな? 告白しようとした男子を期待させといて捨てる系の。・・・・・・あれ? 俺告白しようとしていたんだっけ? 違うよな、違うな。

 完全下校時間の三十分前になっても現れる気配が無い。いや、そこまで待っている俺がすごいんだけれども。ほら、なんていうの? 何か用事があって遅くなっているのかもしれないし。もし俺が帰った後に来ちゃったりしたら可哀想じゃん。ボッチなりの気遣いってやつですよ。

 だがここまで来ないとなると、・・・・・・そうなるよな。

 俺は花壇にもたれ掛けていたかばんを手に取りベンチから立ち上がり、ずっと座っていたせいで凝り固まってしまった背中を伸ばす。ゴキゴキとジジ臭い音がなり同時に背中が軽くなった。気持ちがいい。ピアノの前でずっと座っていたときと似ている。

 少し錆びた金属製の扉に手をかけたそんなときだった。


「なに帰ろうとしてんのよ」

「――ッ?!」


 息を荒くした高い声が扉の隙間から聞こえてくる。慌てて手を離すとキィっと音をたてて少し手前に開く。二三歩後ずさりすると扉の前にいなくなったことを察知したのかゆっくりと扉が開かれた。


「誰・・・・・・って、おまっ、・・・・・・え?」

「何か? 文句でもあるの? チャンネル登録者数四十五万人のYoutuberさん」


 春特有の暖かい風が吹く。その風でそいつの青みがかった美しい黒髪が宙を泳いだ。


「月見里、・・・・・・有希・・・・・・?」

「は? だからなに?」


 月見里有希やまなしゆきがそこにいた。だが纏っていた雰囲気は教室のものではなく目も鋭い。同一人物なのか、と疑ってしまうレベルだ。

 だがそれでも目をひきつけるのは何故だろうか。風で頬についた髪を払う動作も様になっていてなんというかスゴイ。(語彙力欠損)

 彼女は動揺している俺をまるっきり無視するとスマホをいじり始めた。数十秒ほどいじると突然俺のほうに向けてくる。すると昨日投稿した動画の音声が流れてきた。ギガ、大丈夫なのか? まだ月末じゃないぞ。

 いつの間にか風も止み誰もいない屋上にルパンのメインテーマが流れる。あ、Bメロミスしてる。まさかそのことを気づかせるために? 絶対に違うよな。

 俺は不審に思いながらも普段上げもしない口角を精一杯上げ尋ねた。


「えっと・・・・・・。これが何かしたの? それと月見里やまなしさんがあの『ヤユぴょん』さんでいいのかな」

「キモイから教室での雰囲気でいいわ。キモイから」


 二度言わなくていいんだが。

 俺の返答を聞く前に月見里はスマホを掲げる。


「昨日も言ったけど、これ、アンタでしょ? 臥龍岡ながおか

「呼び捨て・・・・・・」


 教室の雰囲気はどこへ? 「~くん(ハート+キュンキュン!)」はいずこに? 女は興味の無い人にはやさしいって聞いていたんだけど? 漫画って嘘ばっかなの?

 彼女の目は「答えないと○す」と言っている。獲物を逃がさない狩人の目のそれと同じだった。

 俺は両手を上げる。


「そうだが? 何か問題でもあるのか?」

 

 こいつには関係ないことだろう。そう返答すると月見里は驚くべきことを言ってきた。


「・・・・・・


 文字だけにしてみれば責めるように取れるその言葉。だが責めるのとは違う、いやどういう意図か分からない、つかめないそんな声音。俺には何なのか分からなかった。

 彼女もこの言葉は言わないはずだったのだろう。彼女自身も口から飛び出たその言葉を転がすように意図を読み取っている。


「え?」

「――ッ! ちがっ、いまのは・・・・・・。臥龍岡アンタ・・・・・・・・・・・なんでもないわ!」


 気まずそうに顔を背けた月見里は苦虫を噛み潰したような表情をするとこちらを睨みゆらりと右手を宙に上げた。そのままビシッと指を俺に向かって指す。


「バラされたくなかったら一つ言う事を聞きなさい!」

「いや、命令形って」


 俺のつぶやきは聞こえませんかそうですか。

 月見里は顔を羞恥か怒りか、赤く染め言う。


「あなた、音楽部に入りなさい」

「………は?」

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