第2話 クラスでの出来事

「まじ憂鬱なんだが」

 

 結局誰なのかわからずじまいのまま水曜日が来てしまった。だって女ってこと以外まじでわかんないんだもん。アイコンの写真は盛りすぎていて判別できないしあの後ラインで聞いても既読スルー。どんな人格者だ。

 うちのクラスにあんな無礼な言葉遣いをするのはカーストトップの連中だろう。

 

「おかげで眠れなかったじゃねぇか」


 いつもだったら午前二時までゲームして寝るのに今日は気にしすぎてオールナイトになっちまったぜ、ったく。

 ファーとあくびを噛み殺しながら教室の扉を開ける。入ると先に来ていた連中の視線が突き刺さった。

 だがすぐに「なんだこいつか」という感じでそらされ談笑に戻られる。

 こういうのが嫌なんだよ。人を見下すような行動。自分が世界の中心です~みたいなさ。イラッとしたので息を吸い――

 

「俺はお前らより数十倍稼いでんだぞ!」


 ・・・・・・って言えたらかっこいいんだろうな~。

 そんな度胸が俺にあるはず無く吸った息を吐き、せこせこと自分の席に座る。そして当然のようにそのまま寝る体勢に入った。幸いなことに俺の席は廊下側の最後列ということあって平和だ。窓側だったら俺不登校になってたぜ。

 意識を手放そうとしたその時窓側から明るい声が響いてきた。

 

「なぁなぁ~、こないだのアレ見た? スライムかぶっている変態のよ~。マジで笑ったわ~」

「変態とか言うなよ、あれで飯食ってる人なんだからよ。ナイスガッツだとオレは思うぞ」

「いやお前はバスケ部だからだよ~。俺なんか卓球部だからこう現実的に見ちゃうのかもな~。そこんとこどう思う~? 康太さん」

「さん付けはやめろって言ってるだろ? 呼び捨てでいいって」


 うっせーな。ここでadoの曲弾いてやろうか?

 髪を茶色に染めた陽キャを横目で眺める。三人がたむろして昨日見た動画の話をしているらしい。暇人め。学生の本分はなんだ。勉強だろうが(盛大なブーメラン)。

 だがこういう奴に限って頭がいいのだ。なぜなのかはわからない。解明希望。 


「俺は昨日はピアノの動画を見てたよ。昨日は好きな曲だったから何度か聞いていてさ。他の動画を見る時間なかったんだ」

「はぁ~。やっぱレベル違うわ。オレみたいにバカな動画しか見ない奴とは違うわ~」

「バカとか言うなよ。・・・・・・別に人それぞれだからいいと思うけどな」


 康太と呼ばれたイケメンがむっとした感じで言い返す。それを語尾を妙に延ばす男が笑って謝っていた。


 全くだ。人の動画を馬鹿だとかアホだとかクソだとか言うんじゃねぇ。あれで飯食ってるやつバカにしてんのか。

 寝る気がすっかり失せてしまった俺はスマホとイヤホンを取り出しアプリを開く。作曲アプリだ。そろそろ自分の曲を作り上げないととマネに怒られるし、なにより暇だし。

 口に出すとうるさい陽キャグループにからまれるので心で歌いながらキーを打ち込んでいく。有料アプリだけあって俺が使っているものは操作しやすい。

 まずは音階を設定し簡単に置いていく。そこからリズムを横棒の長さで決めていくのだ。本当はパソコンでやったほうが効率がいいのだが、リア充に注目されると以下略。

 ちょうど併設している中学校のチャイム音が聞こえてきたので最初の音をそこからとることに決める。最初は――【シ♭】だな。集中して一音一音に神経をめぐらせていく。

 集中するとほかの事に気をとられないというのは本当のことらしい。

 八小節ほど打ち込み伴奏をつけていこうとしたその時だった。


「なにそれ~。なにこのバー、打ち込んでんの?」

「なになに? 新しいゲーム?」

「これよ~」


 やらかした。普段は背後に気をつけているのに曲構成がうまくいき過ぎたせいで興奮していた。

 クラスの中心グループの奴らか。名前は………。ま、まぁ陰キャの俺には縁ないと思っていたのに面倒だな。

 時計を見る。

 こういうときに限って時間が有り余っているのだ。ちらりと後ろを見るが開放してくれる気配も微塵も無く詰みを悟るしかない。


「何か?」

「何かってひどくない? 話しかけてあげているのに」

「話しかけてあげているってそれ、ほんとそれな」

「言い方ウケる」

「え~? なになに~? 何してんの~?」


 二度あることは三度ある。先人はよく言ったものだ。………ボブギャラリーの乏しい俺にはこれしか出てこないのマジウケル。

 周りで騒ぎ出す陽キャの連中に嫌気が刺すが言い返す度胸もクソもないのでおとなしく傍観を決め込む。

 ち、近い近い近いいい匂いする。俺が息を大きく吸い込もうとしたその時だった。


「おっはよー!」


 青みがかった黒髪の少女が入ってくる。顔立ちは非常に整っていて可愛らしいたいうより美人に近いだろうか。長い髪は動きに合わせるように揺れていて汗をかいているのにそれを全く感じさせない。俺も周りも自然と目を奪われた。


「あははー。ちょっと遅れそうだったから走ってきたんだけどそんな事無かったねー。恥ずかしいかも」


 月見里有希やまなしゆき。クラスの核と言っても過言じゃない人物。俺でも知ってるくらいだから相当有名だろう。俺は何様だって話だけどな。

 彼女が入ってくるだけでクラスの空気が変化する。注目の的が俺から月見里に変わった。も、もしかして俺を助けに来てくれたとか・・・・・・。

 彼女とはいうとタタッっと軽やかにこちらに来ると周りと同じように俺を覗き込んでくる。そうですよね。違いますよね・・・・・・。


「これ、音ゲー?」

「さぁ、分からないんよ。教えてくれなくてさ」

「ふーん。それよりもさ、今日の課題見せてくれない? 私忘れちゃって、てへへ」

「いいよいいよー。ユキいつも見せてくれるしそのくらい」

「あははー、ありがとー」


 そのまま集まった奴らは彼女を中心に彼らの縄張りである窓際に行ってしまう。すごい影響力だ。というか俺に謝罪の一言も無いのかよ。

 

「ごめんね、うるさくて。

「え?」

 

 月見里が振り向きざまにニコッと笑ってそう言ってくる。その瞳はあまりにもくすみがなく問う隙はなかった。

 そのまま窓際に小走りで行ってしまう。俺はチャイムがなるまで集中できなかった。


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 本作品はとある賞に応募しようと書いたものです。期日に間に合わなかったのでこうして出すことになりました。

 どんどん改稿していい作品に仕上げられたらと思います。

 毎日更新を続けていくので応援よろしくお願いします。

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