殺人事件を起こした、元有名小説家の贖罪 ~第七章~

第七章


 良く晴れた朝、藤田はすっきりと目を覚ます。

 このところ良い気分で日々を送れている。それは、女将やお幸のおかげである。


 過去の苦さがだんだんと薄れるのと同時に、犯した罪についても、逃げずに正しく向き合う必要性があることにおのずと気付いてきた。


 何かしら、自分が出来る罪滅ぼしはないか、しばらく考えているところだ。


 生まれてから、小説の事しか考えないで生きてきた。他に何が出来るのであろうか。頭をひねってみるが、一向に思い付かない。


 今更、また小説を書こうとは思えなかった。

 以前は、すらすらとアイデアが浮かび上がり

 それをそのまま描写すれば、世間から絶賛される小説が書けていた。


 だが、今は自分の奥底に眠る本能が書くことを拒否している。



 この状況を打ち破るには、どうすれば良いだろうか?


 部屋で考え込む藤田に、お幸が声を掛けてきた。


「どうしたのですか?」


「いえ……自分の未来について、少々考えていました。

お幸さんは……未来について何か考えていることはありますか?」


「未来ですか……私はずっと先の未来を見るより、

目の前にある1日1日を、大切に生きるように心がけています」


 お幸の言うことはもっともだが、藤田は自分の為だけに人生を生きるのは許されないと考えていた。


「私には、人生を懸けて果たさなければならない責務があるんです。

そのためにも……」


「そんなに、過去を背負い込まなくてもよいのではないですか?

私は、藤田さんがそこまで深く考える理由は存じ上げませんが、もっと

今の自分のことを大切にしてみてもよいかと思います」


 優しくお幸が語りかける。



 もう一度、筆を持つべきか……


 藤田は、なかなか答えが出せないまま

 一日中、思い悩むのであった。




<次章へ続く>

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