11.作り直す
ふっとまだ手に持っていた『失敗作』と名付けられた棍へ視線を落とす。
「……ルナール、ひとつ訊きたいんだけど」
「ふー、ふーっ、……なに?」
「他人の物を持ってると、盗んだ扱いにならないか?」
「……あー、確かに。ギルドへ被害届を出されると出頭が命じられて、有罪になると罪人の称号を強制的に付けられるね」
「今はあっちが持ってる棍の方が良いモノだから、すり替えた棍じゃそういうことにはならないだろうね」
「? まぁ、事実が明るみに出ても最悪交換したって言われれば押し問答になってあやふやで終わるケースもあるみたいだし。わざわざ自分からリスクは冒さない、かな」
「交換……交換、か」
考えるように棍を見ていたショウが不敵な笑みを浮かべると、それに気付いたセラスも彼の元へ寄ってくる。
「ショウさん、どうしたんですか?」
「セラス、上手くいけばそのアッシュって奴に一泡吹かせることができるかもしれない」
「え? ほ、本当ですか?」
「いったい、なにをする気? 相手は悪党に片足入れたプレイヤーだよ? 下手したらもっと痛い目見るかも」
「んー、まずは……この棍を『作り直す』ところからだな」
「作り……そんなことできるの? スキル? でもそんなの聞いたことが無いけど」
「試しにやってみよう」
言い終わる前にショウはストレージボックスからスクロールをひとつ取り出し、使用する。
立体空間に作業台が現れ、彼はカテゴリで『制作履歴』を選ぶ。
するとその項目には『盾』と『棍』が書かれていた。
『棍』を選ぶと、セラスへ送ったあの木の棒の設計図が3Dで表示される。
「生産系のジョブって言ってたけど、これって……『原型師』?」
「そうだよ。まずは前に作った棍の設計に変更を加える。長さや形は変えずに、使用素材だけを――」
喋りながら素材の変更を進めるショウ。
木材の他に、『失敗作12』と名付けられた棍を追加する。
ショウの予想通り、手に持っていたりインベントリに入っていれば作成するときの材料として認識されるようだ。
棍を追加して、変動したステータスの数値を見る。
前回のモノと比べると若干だが数字が上がっていた。
「あと何か一押し欲しいな」
「木材を足してみますか?」
「んー、そうだな。他に何かないかな?」
そう言ってショウがストレージボックスへ手を入れて適当に取り出してみた。
ショウの手に握られていたもの、それは――
「これは、『端切れ』か……ん? 名前が変わってる。『癒しの布』?」
手にしたアイテムを見てみると、確かに名称が変わっていた。
『癒しの布 癒しの力を宿した布。これを用いて作られた武具には微量ながらその力を付与させることが可能 与)HP自動回復・小』
「なんだ? こんなのいつの間に手に入れたんだ?」
「癒しの力? 端切れ……あっ! もしかしてそれ、ルナールを治癒する時に回復薬を拭き取った端切れじゃないですか?」
「へ? あたい?」
「そうか、多分そうだな。そうやってアイテムの合成みたいなこともできるのか」
「……いやいや、できないよ。普通」
納得したショウの言葉に、ルナールが呆れ顔で首を横に振る。
「アイテムの合成にはジョブの合成師が持ってるスキルが必要だよ。あんたのもうひとつのジョブなんだろ?」
「いや、違うけど……あれ、じゃあなんでだ?」
その答えは開いた造形師のジョブスキルの画面に書かれていた。
『合成素材入手率アップ【特大】 アイテムが一定条件を満たした時、合成された素材を入手する確率がアップ』
「んー、合成したんじゃなくて、条件が合ったから合成されたアイテムを手に入れたということか? 多分」
アイテム同士を掛け合わせるのが合成で、ショウのスキルの場合は条件さえ合えば合成素材を入手することができる。
絶対では無く確率、それを差し引いても反則的なスキルであるのだが、その凄さをショウが理解するのは今では無かった。
考えてもよく分からなかったショウはこれを一旦保留にすることとして、棍の追加素材にこの端切れを使うことを決める。
「杖の様にしたときに手で持つ部分へ巻くような感じで……こう」
「確かに、攻撃する時には邪魔にならないかもです。上下の区別もできて、良いかもしれません」
「よし、じゃあこれで完成だな」
使用者であるセラスの了承も取れたので、ショウはこの棍の設計図を保存した。
立体空間が消え、製図が描かれたスクロールが現れる。
「でもさ、ここで設計図を作ったってどうしようもないじゃん。街に戻って武器職人に制作依頼するのもタダじゃ無いし」
結局泣き寝入りしかない、と舌打ちしたルナールを余所目にショウは必要素材をスクロールの上へ並べた。
そのまま腰に携えていた槌を持ち、一回、打ち付ける。
すると素材が光になり、それが弾けて布が巻かれた『棍』へと姿を変えた。
「よし、できた。セラス、使い心地を試してみてくれ」
「は、はい!」
棍を受け取ったセラスが少し離れ、まず杖のように布の巻かれた部分を持って、地面を突く。
ふっ、と短く息を吐いて、今日ショウたちに見せた演舞をもう一度披露する。
最後に端を持ち、地面へ叩きつける型になってそれは終了した。
ゆっくりと最初の姿勢になり、もう一度地面を突く。
ショウの方へ振り返り――
「全然大丈夫です! とても手に馴染む感じがして。さすがショウさんです!」
「ははっ、それは良かった。あとは実戦でテストだな。なにか違和感があったら修正するから言ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
さっきまでの深い怒りが嘘のように、ショウの手で生まれ変わった棍を手にしたセラスは感激で打ち震えていた。
「そいつの名前はあとで変えるから、少し我慢しててくれ。必ず良い名前をつける」
「……わかりました。期待しておきますね」
「あははっ、あまりハードルを上げられるのも心苦しいところではあるけど……」
「――って、なんじゃそりゃぁああ!?」
それまで開けた口を塞ぐこともしないで目を見開いていたルナールが、弾かれた様に絶叫を上げるのだった。
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