10.失敗作
一度状況を整理するため、ルナールに了承を取ってから林の入り口まで戻って来た三人。
フォレストウルフを一撃で倒せなかったことを不思議に思ったセラスが、改めて棍のステータスを見る。
するとそれは、今まで使っていた棍とは比べ物にならないほど能力が劣っているモノだった。
「やっぱり違います。全然違います……しかも名前が――」
「お、俺にも見せてくれ」
悲しみなのか怒りなのか判断がつかない身体の震えを抑えて、セラスはショウへ棍を渡す。
『失敗作12
――使用素材・木材2 作成依頼・東街工房 × ←最悪。二度と頼まない!』
棍に触れるとそのアイテムのステータスが表示され、ショウはその内容に顔をしかめる。
武器の名前も編集されており、説明欄にはその制作に関わったメモ書きが残されていた。
フリーダムバースでは物作りを少しかじった程度のショウも、この棍の持ち主が武具に無頓着な奴だということを察する。
こだわりを感じず、製作者にも敬意を示さない文面の雰囲気に、ショウはため息を吐く。
できれば関わり合いになりたくない種類のプレイヤーだ、と直感が告げた。
「……」
「セラス……やっぱり街でなにかあったのか?」
肩を落として俯いたままのセラスに、ショウが訊いた。
昨日までは確かにモンスターを一撃で倒していたし、ログイン後の合流した時点でも問題は無かったと思われる。
考えられるとすればセラスがひとりで行動していた時、つまり街へ行った時に何かあった可能性が高かった。
セラスは俯いたまま手で顔を覆い、深いため息を吐く。
そのまま――
「……多分、あの時です。信じられない」
「心当たりがあるんだな? 話してくれないか?」
「……実は、街で――」
セラスは自分の口で街での一部始終を報告した。
ギルドでの一件、その後ひとりの冒険者が素材屋へ案内してくれたこと、素材屋での出来事、買い物が終わりその冒険者とは店先で別れたこと、その後ショウへ連絡してそのまま彼と合流したということ。
「ということは、素材屋でその冒険者がセラスの棍とこれを入れ替えたかもってことか」
「はい。私が棍を手放したのはその時だけですから……」
「んー、でも他人の装備をそう簡単に
「できるよ」
腕を組んで考えていたショウに、ルナールはさも当然のように答える。
「その人専用というか、ロック? 機能を付けない限り、プレイヤーでもシムでも所有者からモノを盗ることはできる」
「言われてみれば、セラスに棍を渡した時や回復薬をルナールに渡した時も特に何も無かったもんな」
「これはクエスト中に神殿送りになったプレイヤー用というか、パーティー用の救済処置らしいんだけどね」
「というと?」
「神殿送りになった人が持ってた武器や素材なんかを残ったパーティーで活用できるようにっていう事らしいよ。鞄みたいなのが残って、その中にインベントリの中身が入っているって」
「クエスト遂行に支障が出ないための処置ってことか……でも、それだと追い剥ぎや野盗の被害に遭うんじゃないか?」
「まあね。そういうこともあるらしいけど。でもそれはあたいたちシムも一緒だし」
「……シムも神殿送りになったりするのか?」
ふっと頭に浮かんだ疑問をショウが訊く。
その瞬間、ルナールの顔から表情が消えて――
「そんなわけ無いじゃん。あたいたちは死んだらそのまま。蘇生でもされない限り、それっきりだよ」
「……」
「同情されるような事じゃないよ。それを承知で冒険者になってるし、この世界のシムはそうやって生きてるんだから」
「……そうか」
表情を戻した彼女はあっけらかんとした口調で話を締め括り、ショウは頷いた。
強引に理解へと考えを持っていき、居た堪れない気持ちのまま頭を無理矢理切り替える。
今は現状の問題をどうにかしなければ。
「セラス、その冒険者の名前は分かる?」
俯いたままだったセラスが顔を上げ、こめかみに指を当てた。
記憶を辿る様に目を閉じて集中する。
「確か……ア、アッシュ……えっと、アシュト……ラ、ラ……ンナー?」
「まさか、アシュトン・ライアー!?」
セラスが思い出そうと口にしていた言葉を、ルナールが言い当てた。
その顔は驚きからすぐに怒りの形相に変わり、尻尾が一回り大きくなる。
「そう、確かそう名乗っていたわ」
「なるほど……確かにあいつならそんなことも平気でやるだろうさ」
「ルナール、知ってるのか?」
「あぁ、知ってる。忘れたくても一生忘れられない名前だよ」
「……まさか」
「アシュトン・ライヤー……クラン『スケアクロウ』のマスターだ!」
息を荒げたルナールが地面を力任せに蹴る。
怒りを少しでも発散させるように、その場で地団太を踏んだ。
「あたいを貶めて、さらにはアネゴまで騙して! ふざけやがって! 絶対に許さねぇ!」
「……そう。あの人が、私だけじゃなくてルナールも……ふふっ、確かに許されないわね」
「セ、セラス?」
口は笑っているが深い闇を落とした目をどこかへ向けているセラスに、ショウは背筋が凍るのを感じた。
どうやら彼女は、本気でキレると静かに怒りを爆発させるタイプのようだ。
どうにかしてこの場を収めようと、ショウは必死に考えを巡らせるのだった。
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