9.戦闘の違和感
今回の依頼場所は、今までスライムやらアーマーラビットやらと戦っていた林とそんな様変わりを感じさせない雰囲気だった。
ショウは先頭に立って主に前方や、進行方向の木の影を警戒する。
「フォレストウルフはどういったモンスターなんだろう?」
「えっと、集団で狩りをする習性があるみたいで、数匹の群れで襲ってくるようです」
「攻撃は噛み付きと爪による切り裂き。どちらも強力でそれなりに俊敏だよ」
「なるほど……ちなみにこれも――」
「ビギナーズガイドに載ってました」
「あっ……はい」
「大丈夫かな、本当に」
「んっ! とりあえずはいつも通りの作戦で行こうと思うんだけど……」
「分かりました。先にルナールのクエストを終わらせるので、とどめは彼女に」
「あんたが引き付けてあたいが攻撃すれば良いんだな。すぐにやられないでくれよ?」
「私は周囲の警戒をして邪魔が入らないようにします」
「よし、それで行こう……っと、さっそくお出ましみたいだぞ」
ショウが歩みを止めて、盾を構える。
それに倣うようにセラスが棍を構え、ルナールは腰から短剣を逆手に抜く。
林の木々から三匹の狼型のモンスター『フォレストウルフ』がゆっくりと姿を見せた。
ショウたちを値踏みするように、こちらへ歩調を合わせて近づいて来る。
威嚇の意を込めた唸り声がショウの耳に入るほどの距離になった瞬間――
『グワウッ!』
中心の一匹を皮切りに、左右へ展開していた他の二匹もやや遅れて、ショウ目掛けて駆け出した。
「セラス、左を!」
「はい!」
そう短く指示を飛ばすと、ショウは最初に噛み付きを仕掛けてきた中心の攻撃に集中する。
軽く跳躍をして迫ってくる狼の鼻先に当てるように、盾を前へ突き出す。
シールドバッシュに近い動作だったが、残念ながらショウはその『スキル』を持っていない。
が――
『ギャヒンッ!』
見事に盾にヒットした狼が予想以上の衝撃を身体に受け、数メートル跳ね返されて倒れた。
すぐさまショウは、右方向から爪を立てて飛んできたもう一匹へ盾を振り払うようにして迎え撃つ。
爪がインパクトの瞬間に盾で弾かれ、丁度パリィのような動きを見せた。
もちろん、戦闘のジョブではないショウはその『スキル』も持っていない。
ただそれっぽく見えるだけである。
しかし盾の性能がそれを許して、弾かれた二匹は見事に目を回していた。
「……は?」
その光景をやや後方から見ていたルナールは、状況の理解に頭が追い付かないでいた。
生産系のジョブにしか就いてないはずのショウが、一瞬でフォレストウルフをノックダウンさせたのだ。
レベルだって自分とそんなに変わらない。
しかも村人装備の彼がなんでこんなに頼りになる背中を見せるのか、この時のルナールには理解することができなかった。
「ルナール、とどめを!」
「!? ――は、はいっ!」
ショウの指示で我に返ったルナールは気絶している二匹に近づき、短剣を急所に突き刺した。
討伐された狼たちが光の粒となって消えるのを確認しながら、ショウはセラスの方へ視線を流す。
『ウゥウ……ガウッ!』
「はっ! ……あ、あれ? おかしいな」
『ブルルッ……ガアッ!』
「きゃあっ!」
「セラス!?」
狼と対峙していたセラスが、攻撃を受け流してカウンターで棍を打ち込んだにも関わらず、相手は倒れなかった。
下顎から首にかけて当たった衝撃など軽く頭を振って回復させたかのように、再び狼がセラスを襲う。
「――っんのやろう!」
焦ったショウは盾を構えたまま駆け出し、飛び掛かった狼の側頭部へ突っ込んだ。
それはまるでシールドアタックのようにも見えたが、彼は(ry
そのまま盾と木に頭を挟まれるような恰好になり、狼は『キャンッ』と声を上げて気絶した。
「ハァハァ……あ、危なかった。セラス、無事か?」
「……」
「セラス?」
「――っ! は、はい。大丈夫です。すいません、ありがとうございました」
「アネゴ、大丈夫ですか?」
「えぇ、私は大丈夫。少しダメージを負っただけだから。それよりルナール、とどめを」
「あっ、はい」
三匹目のとどめを刺すルナールを見ながら、ショウは周囲を警戒する。
どうやら増援は無いようだと確認したショウはセラスに向き直る。
「わざわざ敵を弱らせるようなことをしなくても、いつも通りに倒してくれて良いんだぞ? 少なくてもダメージを喰らう方が危険だ」
「……」
「? セラス、どうした――」
「……じゃない」
「え?」
「この棍、ショウさんが作ってくれた棍じゃないっ!?」
「え、えぇええっ!?」
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