12.少女との出会い
休憩がてらの初めての武器作成を終えて、ショウは再び道を歩いていた。
目的地を目指す中、他のところから街へ向かっているであろうすれ違う人たちが「こんにちわ」とショウに挨拶をしてくる。
障害物などがない平野の道だ。遠目から歩いてくるのが見えていたのだろう。
ショウと仔牛を交互に見てから皆笑みを浮かべて頭を下げるので、ショウも不思議に思ったが、それを返していた。
「なんでこんなに挨拶されるんだ? いや、それは良いんだけど……あの人たちって、皆シムだろ。そういうものなのか」
現に数人の冒険者風な者たちともすれ違ったが、それらとは挨拶の交わし合いは全く無かった。
ショウと挨拶を交わしたシムがその冒険者たちとは目も合わせなかったところを見て、少し違和感を覚えたショウ。
しかし考えても分からなかったので、とりあえずその事は保留にしておくことにする。
機嫌が良さそうに歩く仔牛を横目で見たショウは、歩みを止めることなく道を行く。
さらにしばらく歩いていると、左手に険しい山々が連なる山岳地帯がはるか遠くに見えてきた。
その麓から森が広がっていて、山の裾野が見えなかった。
ショウたちが居る草原に近づくにつれて、森は林へと姿を変えていく。
『モォー』
「あぁ、どうやらあそこみたいだな。結構な距離だと感じたけど、帰りもまた歩くのか……」
まだ目標を達成していない内から、ショウは帰りを想像して、ため息をひとつ吐いた。
道から外れ、林との間に見えた小高い丘へ歩みを進めていた時――
「きゃぁああぁーっ!」
越えれば林が見えるであろう丘を迂回しながら歩いていたショウの上、丘の頂上辺りから、少女の悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴、と呼ぶには些か間延びした緊迫感を感じさせない声色であったが、『彼女』は大真面目に悲痛な叫びを上げていた。
「な、なんだ? ……うわっ!こっちに来る!?」
「きゃぁあーっ!ど、どいてくださーい!!」
「あっぶねっ!」
声の方へ目を向けたショウは、まるで土手を段ボール滑りするかのようにこちらへ向かってくる、少女の姿を見た。
空から女の子が降りてきたのでは無く、丘から女の子が猛スピードで突っ込んできたのだ。
涙目になりながら叫ぶ少女を受け止めようという考えを微塵にも持たなかったショウは、咄嗟に横へ跳ぶ。
が――
「ああぁあっ!――ぎゃふっ!」
『モォー』
仔牛に咄嗟に避けろという方が無理だ。
少女は勢いそのままで仔牛の横腹へ突っ込み、強制的に停止した。
「うっわ……だ、大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい……だいふぉうb――」
『モォー』
「そうか。どこもケガしてないようで良かった。念のために回復薬、飲むか?」
『モォー』
「もったいない? はは、そうかそうか」
「……」
『モォー』
「え? あぁ、そうだった。――君、大丈夫?」
「……」
突っ込んだ瞬間は衝撃を感じたが、激突したのがお腹であったため目を回すということは無かった少女が、ショウに答えるために立ち上がる。
が、仔牛を心配するショウ自身に遮られ、言葉を発するタイミングを失っていた。
やっと興味が自分に向いたところで、少女は複雑な心境で頭を下げる。
「い、いきなりすいませんでした。私もなんとかケガも無く、大丈夫です」
「それは良かった……君、冒険者かな?」
「は、はい。最近始めたばかりで、ギルドに登録したばかりの初心者です」
「そうなんだ。俺も今日始めたばかりのド素人なんだ。よろしく」
「こちらこそ――えっ、あなたも冒険者なんですか? 牛飼いのシムじゃなくて?」
そこでもう一度お互いがそれぞれの身なりに目をやる。
ぶつかってきた少女の方は、教会に通う巡礼者のような恰好をしていた。
腰ひもを結び動きやすいようにしたローブに、外套。
手首にはロザリオに付けられた鎖が巻かれていた。
控えめに言っても決して上等とは言えないが、それでも聖職者の見習いぐらいには見える幼い外見をした少女。
一方、ショウはというと……控えめに言っても牛飼いだった。
村人装備に仔牛、手に持っているのは棒。
武具という武具を装備していないショウ。
キャラメイクの恩恵があってやっと、小奇麗な牛飼いと言われるのが精一杯だろう。
「……こう見えて冒険者なんだ。最初に就いたジョブが戦闘系じゃなかったからかな。防具、持って無くて」
「そうなんですね。『プリースト』の私でもあったのに……」
「ははは、まったくね」
哀れみの目でショウを見てきた少女に、彼は苦笑いを浮かべる。
その視線に耐え切れなかったショウは、話題を変えることにした。
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