11.初めての武器作成
『白紙のスクロール――魔法、スキルの各書をしたためる際に使用する消費アイテム。造形師の設計図を作る際にも使われる』
「これを使って設計図を作る? どうやるんだろ」
今回はヘルプウィンドウが表示されなかったので、ショウはステータス画面を開き、ジョブスキルの欄を見てみた。
「……これか? 原型師のスキル、『新規作成』ってあるけど」
ショウが首を傾げて言い終わると、持っていた白紙のスクロールが光の粒となって消費される。
同時にショウの前方に四方マスの立体空間が出現した。
底面の大きさとしては、オフィスデスクより少し大きい程で、そこに1/5ほどに縮尺された剣の3Dモデルが浮いている。
「なんかいきなり出てきたけど、どうなってるんだ、これ?」
と、右手の人差し指で剣のモデルを触ってみる。
すると指の動きに合わせてモデルが回転した。
両手でスマホでいうところのピンチアウトをすると、モデルが近づくように大きくなる。
「なるほどなるほど。これでドラッグしてモデルの大きさや形を変えていけばいいんだな」
加えて、この状態になってからショウの視界にはいくつかの情報タブが見えていた。
右側には実際のモデルの大きさや重さが書かれており、その下には使用する素材も表示されている。
そして上側には『剣』やら『ナイフ』と、恐らく作りたいモノのカテゴリーであろう名前が見える。
「今のこれは……ショートソード、か。七十センチくらいの小振りの剣だな」
と、続けて素材を確認すると――
「げ、鉄のインゴットを三つも使うのか! うーん、初めての練習台で数が少ない素材を使うのはなぁ……木でできた武器とか無いのか?」
ショウがそういうと、カテゴリーの中の『主用素材・木』で検索されたであろう武具の名前が箇条書きで表示された。
「おぉ、便利だな……えっと、クラブ、木刀、スタッフ、弓、棍に盾っと。分かるのはこれくらいか」
他にもトンファー、ジャダグナ、ブーメランなどがあったが、これらを見たことが無かったため今回は候補から外した。
「クラブや木刀は、リーチが短い。スタッフは魔法向けか? 攻撃力は上がらないな。弓は使ったことが無いし、矢には鉄を使うのか」
今の自分の戦闘スタイルを考えながら、候補を絞っていく。
そして残ったのが――
「棍と盾、か……棍は両手装備ってことは、同時に盾は装備できない……と」
武器ごとの説明を読みながら理解を深めようとしていくショウ。
ブツブツと独り言を発している彼を見るため頭を上げた仔牛は、チラッとその姿を見て、再び草を食べ始めた。
「ということは、棍か……防具やらは複雑そうだし、とりあえずこいつを作ってみよう」
カテゴリーを絞り、『棍』を選択すると、目の前の立体空間に長細い棒のシルエットが現れた。
悪く言えば棒切れ、良く言っても物干し竿としか表現できないそれの情報を確認してみる。
『棍:硬い木を削りだした棒。ある程度の太さがあるが耐久はあまり無い。振り回す際には味方に注意しよう』
「使用素材は、木材だけでいけるな。なるほど、使用する素材の数を増やして武器の強度を増すことができるのか」
初期状態で木材を二つ使うらしいが、横に上下の矢印があり、押すと使用素材の個数を変えることができた。
試しに二倍、とショウは数字を四つにした。
棒の太さはそのままにするとして、長さは少し伸ばし、一五〇センチにする。
そして、一通り確認した後、ショウは視界の中で一番大きく表示されている『保存』のボタンを押した。
ピロンッと電子音がどこからか鳴ったあと、ショウの目の前にあった立体空間が消えて、その場に図面が描かれたスクロールだけが残った。
紙面を確認するショウ。
書かれているものは棒のみで、作成時に見えていた基礎攻撃力といった情報は書かれていなかった。
「これが原型師の能力、『設計』か。これを作る以外は特に特徴無し……で、この後どうするんだ?」
開いたままのスクロールを眺めながら、ショウは再びジョブスキルの画面を見てみる。
先ほどの原型師の次に表示されている造形師のスキルを確認する。
サラが説明してくれた通りなら、この設計図を使って造形師で武器を作れるはず。
「えぇっと……『設計図』、素材を重ねて置き、それを万能の槌で一回叩く? これだけ?」
説明を見るがまま、設計図の上に木材を四つ置き、腰に下げていた『万能の槌』をそれに向かって振り下ろした。
『スキル『万能作成』――設計図を用いて作り出す創造スキルのひとつ。極上のアイテムを作り出すことが可能』
槌に当たった素材から派手な光のエフェクトが飛び散り、それらを包むように広がる。
光の粒で完全に包まれると、今度はそれが凝縮されるように小さくなり、続けて棒状に変化していく。
瞬間、光が弾け、現れた棍だけを残して空へ昇るように消えていった。
「……本当にできた。いや、できたのか? まぁ作ろうとしてたのはただの棒だし、感動できるものかというのも疑問だけど」
あっけなさすぎてあまり実感を持てないまま、ショウは立ち上がる。
槌を再び腰に掛けながら、できたばかりの棍へ近づいていく。
それを拾い上げ、手に馴染ませようと何度か握る動作を繰り返す。
足元を確認してみると使用した素材だけでなく、下に敷いていた設計図も無くなっていた。
その事は深く考えず、そういうものなのか、と納得したショウは棍を軽く振ってみる。
「はっ! ほっ! ……ん? ……うわっ!」
どうやって動けば良いのかイメージすら出来ていなかったショウは、足をもつれさせて尻もちをついた。
その音に気付いた仔牛は草を食べるのをやめて、ショウへ近づく。
『モォー』
「はは、説明文じゃ装備できない武器は無いジョブらしいから、扱えると思ったけど……それとはまた別の問題らしい」
顔を寄せてきた仔牛の頭を撫でて、ショウは苦笑いを浮かべる。
棍を杖代わりにして立ち上がると、なるほどこれは楽だと頷いた。
「しばらくはこれに慣れるように、常に持っているようにしよう」
『モォー』
棍を杖代わりに持ち、仔牛の手綱を持っているショウの姿は村人装備も手伝い、立派な『牛飼い』の風貌になってしまう。
が、それは本人が与り知るところでは無かった。
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