8.ストレージボックス

「……え?」


「原型師、と、造形師、です」


「ぞ、造形師にお就きなのですか!?」


「え、ええ。まぁ、一応」


「あっ……す、すいません。大変珍しいジョブでしたので」


 と、受付嬢がもう一度頭を下げる。


「こほんっ」


 彼女は失礼しました、と呼吸を整え――


「造形師に就いておられるのでしたら、ストレージボックスを使うことができます」


「そうなんですか!?」


「はい。ストレージボックスはデスペナルティの影響は受けずに、たとえ教会送りになっても変化はありません」


「なんだかズルくないですか、それ?」


「その代わりという訳ではありませんが、ストレージボックスには『容量』が決められています」


「ははぁ……容量」


 まさかこんなにも長い説明になるとは。

 しかもまだ終わりそうもない。

 今ショウたちが居るのはギルドの出入り口に近いだ。

 本来なら建物の中で受けるであろう説明を立ち話で進めている。

 説明してくれる受付嬢に感謝の念はあるが、ショウはいかんせん居心地が悪かった。


「試しにインベントリを開いてもらえますか?」


 説明に夢中なのか周りが見えていないようで、受付嬢は説明を続ける。

 ショウは言われた通りにインベントリの画面を開く。

 8×5のマスがあり、左上から最初から持っていた素材、続いて回復薬が表示されていた。


「インベントリはひとつのアイテムをひとマスに収めることができます。素材などはまとめられて数字で表されていると思います」


 確かに、素材のマスには数字が書かれている。

 回復薬にも数字があったので、こちらもまとめて納められているのだろう。


「たとえどんなアイテムでも、インベントリではひとマスに収められます。ですがストレージボックスは――」


「その容量っていうのが決められている、と」


「はい。容量以上のモノを入れようとしても、たとえひとつのアイテムであっても入りません」


「それは、大きさとかですか?」


「いいえ。そのレアリティ、クオリティ、付与効果などを加味した総合的な価値、というのでしょうか。それが容量になります」


「レアリティ、か。じゃあそれをクリアできれば、何でも収納できる、ということですか?」


「はい。道端の小石から伝説の聖剣まで……もちろんペットも可能です」


 じゃあ、試しに。とショウは仔牛の頭に手を当てた。

 仔牛はくすぐったそうに少し頭を振って――


『モォー』


「その状態でストレージボックスを開けてみてください」


 インベントリを開いた感じで、ストレージボックス、と心の中で呟く。

 すると、空間の歪みのような、ワームホールの入り口のようなものが現れ、仔牛はその中へと消えていった。


『モォーー……』


「おぉ、すごい」


「ストレージボックスの中では時間経過がありません。収納したときと同じ状態で出されます。これもインベントリとは異なりますね」


「あの、ペットってレアと聞いたんですけど、容量的にまだ余裕がありそうなんですが……」


「それは造形師のスキル、『万能収納』の恩恵かと。それがあればストレージボックスの容量が何十倍にもなる、と聞いたことがあります」


「何十倍っ!?」


 そんなのが最初から使えるなんて、それこそズルじゃないか? と思ったショウだが、今の自分の装備を思い出し、冷静になった。

 あっ、そりゃ武器も防具も無いわけだ。


「……えっと、じゃあこれで中に入っていいですか? 討伐の依頼っていうのを見てみたいんですが」


「ええ、問題ありません。ですが、初めてギルドを利用する場合は登録が必要になります。お名前をお伺いしても良いですか?」


「ショウ・ラクーンです」


「ショウ様。では私、『リリィ』がご案内させていただきます。どうぞ中へ」


「よろしくお願いします」


 問題であった仔牛の件もどうにかなり、ショウはリリィに付いて行く形で、再び冒険者ギルドへと入っていくのであった。


――


「おいおい、あいつ戻ってきやがったぞ」


「うへぇマジかよ! 連れてた仔牛はどうしたんだ?」


「あれじゃね? 今頃ここの厨房にでもいるんじゃね?」


「マジでか!? ぎゃははっ」


「おーい、ねぇちゃん、こっちに仔牛の煮込みひとつ!」


「だははっ! 俺にもひとつくれ!」


 ショウがギルドに入るやいなや、中二階が騒がしくなる。

 どうやらここは仔牛の煮込みが人気メニューらしく、あちこちから注文が飛び交っていた。


「す、すいません。ショウ様」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


 カウンターへ向かいながら、リリィはショウに頭を下げる。

 別に彼女が謝る必要はまったくないのだが、どうやらここはらしい。

 カウンターに着いたリリィは脇の出入り口から中へ入り、他の受付嬢と合流した。


「リリィ、大丈夫だった?」


「はい、つつがなく」


「そう、なら良いのだけれど――」


 隣の受付嬢がリリィに訊き、彼女は笑みを浮かべて頷く。

 チラッと横目でショウを見た受付嬢はリリィから離れ、自分の仕事へ戻っていった。

 コホンッとリリィがひとつ咳払いをして――

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