9.登録&初クエスト

「ではショウ様。冒険者ギルドの登録の前に当ギルドの簡単な説明をさせていただきます」


「よろしくどうぞ」


「まず、当ギルドで冒険者の皆様に提供しているのは『身分の証明』と『仕事の斡旋』、そしてそれらの『保障』になります」


 こちらを、とリリィは自分の首からドッグタグを外し、ショウに見せる。


「これが冒険者であることを証明するギルド証になります。依頼を受ける場合、こちらが必要になりますのでご了承ください」


 なるほど、とリリィの『銅』でできたドッグタグを見るショウ。


「ステータスなどの個人情報も記録されているので、無くさないようにお願いしますね」


「なんでそんなところまで?」


「ギルドが冒険者個人の能力を把握し、それぞれにあった依頼を振り分けるためです。それによって『ランク』が決められています」


「ランク?」


「登録したばかりの初心者の方は銅、『Fランク』からスタートとなり、達成した依頼によってランクを上げることができます」


「へぇ、どれくらいまであるんですか?」


「現在の最高ランクはSSです。伝説級の冒険者を指しますね」


「伝説級……いったいどんな依頼をクリアすればなれるのか」


「まずは地道にできる依頼からやっていくことが大切です」


 と、リリィは掲示板の方へショウの視線を促す。


「あちらにギルドが受けた依頼をお知らせしています。Fランクなどの下級は入り口から見て右側、高ランクは左側に張り出しています」


「……結構、数がありますね」


「採取から護衛、研究補助や討伐まで、それこそ千差万別に種類がありますからね」


 では、とリリィの言葉にショウは彼女と向き直る。


「以上のことをギルドが保証し、冒険者の方々の活動をサポートさせていただく、というのが当ギルドの役割になります」


 よろしいでしょうか、という言葉に頷くショウ。


「では登録に移させてもらいます」


 と、リリィはカウンターに先ほど道具屋で見た物と同じような小さな石板を置いた。


「こちらに手を置いて頂ければ登録は完了します……が――」


 言われた通りに石板に手を伸ばしていたショウの手が止まる。


「『登録料』に500Jmを頂くのですが、大丈夫でしょうか?」


「……ちょっと待ってください」


 手を引っ込めて、ショウはインベントリを開き、所持金を確認した。

 残り、500Jm。

 これを払ってしまったら所持金はゼロ。

 これから冒険をしていくにあたって、心許なさすぎる。

 しかし、ショウは始めたばかりで、他に稼ぐ手段を知らない。

 これを払わなければ食い扶持すらつなぐことができない、と思っている。

 どちらにしても、神殿送りになればデスペナで所持金は減ってしまう。

 なら払えるうちに払っておこう。ここはゲーム。なんてことは無いだろう。


「はい、大丈夫です」


 少し考えたショウは決意し、石板に手を置いた。

 淡い光が彼の手を包み、そして収まる。

 それを確認して、リリィは石板の横に置かれていた銅のギルド証を手に取り、確認する。


「はい、結構です。こちらがショウ様のギルド証となります。お持ちください」


「どうも」


 これで所持金はゼロ、という少しばかりの後悔を隠し、ショウは受け取った。

 まぁ大丈夫だろう、これから稼げばいいのだから。


「じゃあ、さっそく何か依頼を受けたいと思うんですが、俺にもできそうな討伐依頼? っていうのはありますか?」


「……ちょっと難しいですね」


「え?」


「ショウ様おひとりですと、戦闘のジョブでもありませんから。パーティーを組んでどなたかと一緒でしたら――」


 リリィは他の冒険者が集まっている中二階へ目をやり、ひとつため息をついた。

 その後、ショウにも分かるように首を横に振る。

 ……えっ、話違くない?仕事が無いんじゃ稼げないじゃん、とショウは自分の背中に汗が流れるのを感じた。


「討伐ではなく、採取の依頼でしたら……多分、大丈夫だと思われますが」


「採取?」


「はい、依頼主の代わりにフィールドへ出てアイテムや素材を集めてくる依頼です。ちょうどここに――」


 カウンターの下から紙の束を出し、何かを探し始めたリリィを、ショウはすがる思いで見つめた。


「あ、ありました。こちらです」


「『薬草十五個の納品』……この薬草っていうのを集めてくればいいんですね」


「そうです。報酬は150Jmですがその分失敗したときの違約金も少ないので、初心者の方にも安心かと」


「い、違約金!? そ、そんなのあるんですか!?」


「あっ……は、はい。受けた依頼が達成困難となってしまいますと、違約金が発生してしまいます。すいません」


 リリィは申し訳なさそうに肩をすぼめる。

 明らかに説明を忘れていた態度に、ショウは文句も言えず、苦笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。

 もしその前情報があったなら、ショウはギルド登録をもう少し慎重に考えていたかもしれない。

 なにせ彼は現在、所持金ゼロなのだから。

 これは失敗しないように慎重にやらないとな、と一気にプレッシャーを感じ、ショウは気持ちを引き締めた。


「じゃ、じゃあ、その依頼を受けます」


「よろしいのですか?」


「え、えぇ。どちらにしても、他に道は無いように思えるんで」


「わ、分かりました。ではこちらにギルド証を当ててください」


 指示通りに石板へギルド証を当てると、ピロンッと音がして――


「依頼の受諾を確認しました。あ、あの……が、頑張って下さい!」


「が、頑張ります」


 会話の直後、クエスト画面が開かれて新しい項目が現れた。


 『クエスト【初心者用】:回復薬の材料

  目標:薬草十五個の納品

  依頼主:アレッグ

  回復薬の材料となる薬草を集めてきてほしい、ぴょん

  街の若者でも頑張ればできる仕事だぴょん。冒険者なら朝飯前だろ、ぴょん』


「ここからクエストスタートってことか……よし」


 クエスト画面を閉じたショウは、リリィに顔を向けて――


「ところで、薬草ってどこで集めればいいんですか?」


「え、えっと。城壁を出て、そのまま南へ――」


 リリィが指差して説明をしてくれた。


「少し行くと小高い丘と林が見えてくるので、そこなら比較的安全に薬草が取れると思います」


「なるほど。分かりました、ありがとうございます」


「あの……」


 はい? と首をかしげるショウにリリィが小声で――


「本当はそういった情報も他の冒険者の方たちから教えてもらった方が良いです」


「そうなんですか?」


「あまり私どもが冒険者の方に介入するのは、ちょっと……」


「他の冒険者……リリィさんもじゃないんですか?」


「へ?」


「だって、冒険者の証を持っていたから……あれ、違うんですか?」


「い、いえ。違くは……無い、ですけど」


 と、リリィは目を伏せて、暗い表情を浮かべた。

 これ以上は立ち入った話になると思ったショウは、ぎこちなく踵を返した。


「と、とにかく、今回はそこへ向かってみます。色々とありがとございました」


「あ、はい。どうかお気をつけて」


 ショウの背中を見送った後、リリィは自分のギルド証を一回握りしめ、再び首にかけて服の中へしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る