4.お友達招待キャンペーン

『では最後に――』


 閉じられたステータス画面を確認して、サラが話しかける。


『招待キャンペーンのアイテムをお送りいたします』


「招待キャンペーン……あぁ、そういえばそうでした。されたほうも貰えるんですね」


『はい、もちろんです。ではこちらを回してください』


 と、サラはカウンターの下からよっこいしょと福引などで使われるガラガラを取り出した。


「……これは?」


『回転抽選機です。この中に景品となるアイテムが入っていますので、一回どうぞ』


 初めて見るモノに戸惑いつつも、このハンドルを回せばいいんですか?と聞きながら匠太はガラガラを回した。

 受け皿の面に小さな穴があり、そこから一つ、金色の玉が出てきた。


「お! なんか良さそうな――」


 カランッカランッ!!


『おめでとうございまーすっ!!』


「ふぁっ!?」


 いきなり耳元で鳴らされたベルとサラの渾身の大声で、匠太はその場で跳ねるように驚いた。

 ガラガラを見るのが初めてなのだ。

 特賞を引いた時の通例も知らなくて当たり前である。

 ドキドキッと激しく脈打っている鼓動を落ち着けようと、匠太は胸に手を当てて呼吸を整えようとした。


「な、なんですか、いきなり」


『えっ、特賞ですよ、大当たり! おめでとうございます!』


「は、はぁ」


 行為の理由を知りたかった匠太だったが、サラはその意図をくむことはしてくれなかった。


『では、こちらをどうぞ』


 と、サラが出てきた金の玉を匠太に差し出す。

 それを手の平に受け取った匠太。

 すると金の玉は光を放ちながら形を変え、うずらの卵のような姿に変わった。


「えっ、これはなん――」


 カランッカランッ!!


『おめでとうございまーすっ!!』


「ひゃっ!」


 それを見て、サラは再び匠太を驚かせる。

 故意としてやっているわけではなさそうだが、今回は別にやらなくてもいいのでは?

 次やったらログアウトしよう、と匠太は少なからず苛立ちを感じた。


『それは『ペットの卵』です』


「ペット?」


『冒険の中でも序盤ではなかなか手に入らないレアアイテムです。生まれたペットによってできることは違いますが、きっとお役に立ちますよ」


「パートナーってことかな。どういった種類が居るんです?」


『それこそ色々と。鳥であれば空を飛んで移動できたり、肉食系でしたら戦闘の補助、馬ですと騎兵なんていうのもできますね』


「へぇ、じゃあこいつは?」


『その子は――』


 サラが言い終わる前に、匠太の手の平の卵がグラグラと揺れる。

 卵にヒビが入り、中から光が漏れ、辺りを包んだ。

 眩しさに閉じていた目を、匠太はゆっくり開ける。

 そこに居たのは――


『モォーーーッ』


 白と黒の斑模様。申し訳程度に付いている頭の角。逞しいとは言い難い四肢。

 そこには日ごろからお世話になっている牛乳のパッケージにも書かれていることでお馴染み、ホルスタインの子供が産声を上げていた。

 このパターンは!と、サラの声に備えて耳を塞ぐ匠太だったが――


 ……。


 なにも無いことを確認して、サラの方へ視線を向ける。

 彼女はなんの起伏も感じさせない『笑顔』のまま――


『牛ですね』


 と言った。


「えっ、なんですかそのテンション。えっ、これ当たりじゃ?」


『ショウ様』


「はい」


『命に、当たりも外れもありません』


「は、はぁ……そうですね」


『はい。では、最初の登録はこれで全部になります』


「ちょっとちょっと」


『はい? なんでしょうか』


「いや、なんでそんな貼り付けたような笑顔のままなんですか。この仔はどういうことができるんですか?」


『この仔は……荷を運べます?』


「なんで疑問形? しかもそんな大したことないような雑務」


『ああ! いざとなったら非常しょ――』


「いのちは、だいじに!」


 笑顔で言おうとするサラを遮って、匠太は仔牛の前に立ちはだかった。


『モォーッ』


 と、仔牛は頭を匠太の背中に当て、脇腹にかけてゆっくりとこすりつけてきた。


「お、なんだ。随分人懐っこいじゃないか、お前」


『モォーッ』


『どうやらその仔はショウ様をパートナーと認めたようですね。良かった良かった』


 なにかしこりを残す言い方だったが、匠太はじっと自分を見てくる仔牛のつぶらな瞳に免じて受け流すことにした。


『ではすべての手続きが終わりましたのでこれより冒険の始まりの街『エーアシュタット』へ転送を行います』


「あ、はい。色々とありがとうございました」


『いえいえ。こちらこそ長い時間を取らせてしまいました。ご協力ありがとうございました』


「サラさん……」


『では、壮大な冒険をその仔牛ちゃんと一緒に頑張ってください。応援しております』


「やっぱりなんか引っかかる――」


『ではではー。お元気でー』


 と、サラが手を振る。

 それと同時に匠太と仔牛の足元が目映く光り、瞬間、身体に浮遊感を感じた。

 光に包まれるように、匠太たちはフリーダムバースの世界へ転送されていった。


『ショウ・ラクーン様、か』


 先ほどまで匠太たちが立っていた場所を感慨深そうに見るサラ。

 すると彼女は――


『今日の晩御飯、焼肉にしようっと』


 と一度大きく伸びをして、残りの仕事を片付けていくのであった。

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