3.ジョブを決めよう
『では続きまして、ショウ様の『初期ジョブ』を二つ、お決めいただきます』
「初期……ジョブ?」
『はい。こちらを――』
「うおっ!」
サラが自分の後ろへ視線を促すと、大画面のホログラムが、匠太の視界を埋め尽くした。
『こちらの中からお好きなものを選んでいただきます』
「こ、こんなにあるんですか?」
『はい。お客様が望む冒険をしていただくため、ありとあらゆるジョブをご用意しております』
「いや、しかしこれは……」
現れたジョブは五十を優に超えていて、名前だけでは分からないものである。
ましてや匠太はこういったゲームに疎いため、泡を食ってしまった。
『それでしたら――』
それを見て、サラは匠太とを隔てているカウンターに一冊の本を置いた。
『こちらをお使いください』
「これは?」
『設問形式で進めていただき、ショウ様に合ったジョブを自動で選んでくれる補助アイテムです』
「な、なるほど。これなら――」
多少時間がかかるのがネックなのだろうが、いつまでもこうしている訳にもいかないと思い、匠太はその本を開いた。
『あなたは今までフルダイブ型のMMORPGを遊んだことがありますか?』
開かれたページの設問に、ほとんど直感で答えていく匠太。
そんな彼に向って、サラが閃いたように手を叩いた。
『あっ、なるほど!』
「へ?」
『お名前! ショウタ様からタを抜いたから、ショウ・
「え、ええ、そうです。思い付きですが……」
『なるほどなるほど。おもしろいですね!』
まさか作業中にNPCから茶々を入れられると思わなかった匠太は面食らってしまう。
しかし、スッキリした顔のサラを見て文句も消えてしまった。
気を取り直して、本の設問を進めていく匠太。
「――これで最後っと」
最後の設問を終え、本を閉じる。
すると目の前に何個かのジョブが羅列で現れ、漂うように浮かんだ。
『お疲れさまでした。こちらがショウ様へのおススメジョブとなります。最初のうちはこちらから選んでいただいた方が良いと思います』
「最初っていうのは? あとからでも変えられるんですか?」
『はい。こちらで選んでなれるジョブの他に、これらが進化したもの、熟練度が一定になると選べる上位のジョブなどがありますが、そちらも含めて冒険中でもジョブの変更は可能です』
「へぇ、じゃあ今回はそんなに畏まらなくても大丈夫ってことですか」
『ジョブ変更にはそれぞれ条件が設定されています。ですので、すぐにできるという訳では無いのですが、絶対にできないっということも無いので』
サラの説明を聞いて、いくらか気持ちが軽くなった匠太は、改めて浮かんでいるジョブの名前を確認した。
「これは……なんでこんなに大きく書かれているんですか?」
匠太が指をさしたのは他のジョブより二回りほど大きく書かれている『原型師』という文字であった。
『こちらが最もおススメしたいジョブ、ということになります』
「原型師って、どういったジョブなんですか?」
『あらゆるモノを好きなように設計することができるジョブですね』
「設計……CADみたいな?」
『3Dになりますが、そのイメージで大体合っています。武器や防具、日用品から建造物まで、作り出せるものは無限大です』
「なるほど。それは確かに面白そうだ。じゃあひとつ目はこれにしてっと」
『その次におススメなのが……あら?』
『原型師』を選ぶと、浮かんでいた他のいくつかのジョブも同時に消えた。
おそらく組み合わせの相性などがあるのだろう。
その残った中で再び一つのジョブが大きくなり、主張を強めた。
「『造形師』ってありますけど、これは?」
『それは原型師が考えた設計を形にする職業です』
「え、原型師ってこのジョブだけだとモノが作れないんですか?」
『ええ、あくまで原型、設計図を作れるところまでです。最初のうちはその設計図を街などにいる職人に渡して作ってもらうんですが……』
「な、なにか問題が?」
『ええ、問題というほどでは無いのですが――』
そう言ってサラは自分が感じた違和感を匠太に伝える。
『この造形師は、それぞれの生産系のジョブの熟練度がある程度高くないと選択できない、珍しいジョブなんです』
「つまりは始めたばかりだと就けないジョブってことですか」
『はい。ですがもしかすると、ショウ様自身にもうすでに条件をクリアできる何か、があるのだろうと思われます』
「俺自身って……そういうのも関係してくるんですか?」
『
「そ、そんなのどうやって?」
『ショウ様は『トロフィー』を集めていらっしゃいますか?』
「トロフィー? ゲームでっていうことは、『実績集め』をしてるかってことですか?」
『そうです。コンソール内に集められたトロフィーがその判断基準となり、フリーダムバースではそれが反映されることがあります』
「確かに、今まで道具をクラフトしたり店を運営したり街を作ったりしてましたが……」
ハマったゲームはそれこそ睡眠時間を削ってやり込んでいたな、と匠太は思い返した。
『そういったことを含めて考えますと、造形師が出てくるのは考えられなくもないのですが――』
顎に指を当て、考えるような素振りをするサラを見て、どう見ても人間のように振舞うNPCに匠太は違和感が拭いきれなかった。
今『実はNPCではなくて運営会社の社員でーす』なんてドッキリ! の看板を出されても納得する心境だ。
むしろそっちのほうがしっくりくるし、違和感がない。
その違和感込みで、AIの進歩に匠太は驚きを隠せないでいたのだった。
『二つとも非戦闘のジョブを選ばれた場合、モンスターとの闘いが難しくなりますが、いかがいたしましょう』
「そうですねぇ」
『私としましてはまず原型師で設計をしつつ『戦士』や『騎士』といったジョブで素材を集め、ある程度になったら造形師に就き生産、といった流れが良いかと』
「なるほど」
『ショウ様の場合ですと、すでに造形師の資格がありますので他の生産系ジョブを取らなくて良い、というのは強いアドバンテージになると思います』
「んー、そうですねぇ」
アドバイスをくれるサラの言葉を聞きながら、匠太は造形師の文字をじっと見ていた。
彼にとってモンスターとの戦いというのはあまり重視されたものではなかった。
戦いたくてこのゲームを始めたわけではない。
確かに色々と不便があるだろうが、それよりも匠太を突き動かしたのは好奇心だった。
一から自分でモノを作る。
現実では到底できないことができる、という想像力を掻き立てられる衝動。
それを我慢できるほど、匠太はVRMMOに慣れ親しんではいなかった。
「でもせっかくですから、この造形師にします。後のことは追々考えていこうかと」
『そうですか。かしこまりました。では、そのように登録をいたします』
ピコンッと音が鳴り、目の前にステータスの画面がホログラムで表示された。
そこには名前、ジョブ、スキルが表示されており、最終確認のボタンが点滅している。
匠太はそれを確認し、『OK』ボタンを押した。
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