第一章 戦えませんがゲームスタート

1.始まり

 二十二世紀の訪れがそろそろ現実味を帯びてきた未来。

 人類の技術は多岐にわたり飛躍的な発展を遂げていた。

 その中でもゲーム業界の進化もその内から漏れず、ある転換期をすでに越えていた。

 『VRMMORPG』が一大ブームとなって久しく、近年ではフルダイブ型がその主流となっている。


 『フリーダムバース』


 一年ほど前に発売されたこのタイトルは広大で進化し続ける無限の世界。

 その中で暮らすまるで自我をもったようなNPC。

 それらとの冒険や交流をしながら、自分の望む理想の生活を送れる――というコンセプトのゲームだ。

 特にアジア圏で人気を博し、若者から妙齢まで多くの人たちが理想の自分を目指してプレイをしている。


「それは知ってるよ。街中の広告でよく見かけるし、記事も読んだことある」


掃除を終えたばかりのマンションの自室で、耳につけた小さなインカムを抑えながら、男が独りで喋っていた。

 彼の名前は『萩村 匠太はぎむら しょうた』。

 広告デザインを専攻する、二十歳の大学生。


『じゃあ、問題は無いだろ? 今から招待コード送るから、頼むよ!』


 匠太はカーペットにコロコロをかけながら、苦笑いを浮かべた。

 インカム越しに通話をしている相手、同じ大学の『川上 健かわかみ たける』が頭を下げている『いつもの』姿が脳裏に浮かんだからだ。


「でもそのゲーム、戦闘とかあるんだろ? 俺がやるゲームとはジャンルが――」


『確かに戦闘をメインに置くところもあるが、それはプレイヤー次第さ。現に農場を買って農園を経営してる奴や、運送会社を始めた奴だっている』


「ゲームで?」


『そうさ。逆に言えば今の時代、ゲームじゃなきゃできないってことも多いしな』


 技術の発展を遂げている匠太たちの時代では機械によるオートメイション化が進み、健が述べた職はAIによる管理の元、人間が就く職業ではなくなっていた。

 匠太たちが生まれたときにはすでにそうだったため、なぜ自分たちで便利になったことをわざわざやるのか、ゲーマーではない一般人には理解されないところである。


「……まぁ、そうかもしれないけど」


 と、匠太は鼻の頭を掻く。

 彼が普段やるゲームはまさにそれだった。

 農場や工場、街、国や星を自分好みに発展させるSLGを好んでプレイしている。


『とりあえず今回は、招待コードでログインしてキャラクタークリエイトだけで良いから!』


「はぁ……そうすればお友達招待キャンペーンの特典がもらえるんだな。分かったよ」


『助かる! 俺の周りで新規を見つけるのは難しくてな、恩に着るぜ』


「そのまま続けるかは――」


『おう、気が向いたら是非ともやってくれ! その時は色々レクチャーするから任せておけ!』


 んじゃ、と言葉の後、通話が終了したことを知らせるホログラムが表示された。

 匠太はその知らせを、指だけで床に向かって滑らせて消した。

 同時に、ベッドの上に置かれていたヘルメット型のゲームデバイスからピコンッと通知音が鳴る。

 匠太はかけていたコロコロを切り上げ、ベッドへ向かう。

 デバイスを持ち上げ、そのままベッドに上る。頭に被って横になると、半透明のゴーグル部分に封筒のマークが点滅していた。

 差出人は『take_4』と書かれていて、開封するとゲームの起動を確認する画面となった。


「……最初だけやってみるか」


 『YES』を選択した匠太は、そのまま意識を『フリーダムバース』へと落としていった。

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