第145話 エルちゃんの必殺技炸裂! 【仲良し同盟】エルちゃんズVS【秘密結社】ロスモンティス

 




 ◆小野寺おのでら じん 視点





 ―――商店街のアーケード下―――





「おじーたん! こっちなの!」

「おお〜エルちゃんは元気一杯やのぉ♪」

「ふふ〜ん♪ おいちいものたべたもん!」



 本当エルちゃんは元気一杯やのぉ〜エルちゃんの年齢が幾つかは分からないが、恐らく4歳〜5歳くらいじゃろうな。エルちゃんは好奇心旺盛で、色々な店を見る度立ち寄ったりしては目をキラキラと輝かせてホンマ可愛ええのぉ♪



「おじーたん! はあく!」

「エルちゃん、走ると危ないぞい? 転んで痛い痛いしちゃうぞ?」



 きっかけはどうにせよ、今日やっと儂の夢が叶った様な気分じゃ♪ 孫と一緒にお出かけすると言うのはこんな感じに楽しいものなのじゃな♪ まあ、エルちゃんは本当の孫では無いが、不思議とエルちゃんには色々してあげたくなっちゃうのじゃ♪ もし、エルちゃんにお菓子欲しいと言われたりでもしたら......お店ごと買ってしまいそうじゃわい♪



「あらぁ! 仁さんじゃないかい!」

「おお! 的場まとばさん、おはようございまする♪」



 私に話し掛けて来たのは薬屋さんのご婦人だ。天狼会の神楽坂組は指定暴力団ではあるが、地域の皆さんとの交流を大事にしておるのじゃ。彩芽ちゃんはボランティアにも力を入れておるからのぉ〜そのお陰で地域の皆様にも神楽坂組は受け入れられて居る。そして互いに助け合う事、義を重んじるのが我等のモットーだ。



「おはようなの!」

「あらあら〜仁さんのお孫さんかえ? 元気の良いお嬢ちゃんだね♪ 私は的場貴美子まとばきみこって言うの♪ 宜しくね〜」

「ボクは、えりゅなの! よろしくなの!」

「的場さん、この子は訳あって儂が面倒を見てるのじゃよ。孫では無いぞい」

「あらぁ〜そうなんですか♪ しかし、可愛い子だねぇ〜」



 エルちゃんは商店街のアイドルじゃな♪ 何処へ行っても色々な方から声を掛けられる。エルちゃんが可愛いと言うのも勿論そうじゃが、エルちゃんの素直で心優しい人柄も好かれてるのじゃろうな。きっと親御さんはこの子に沢山の愛情を注いで、大切に育てて来たのだろうと伺える。




「今日も平和で何よりですねぇ〜これも神楽坂組のお陰ですじゃ」

「いえいえ、我々も街の人達に沢山助けられておる。持ちつ持たれつですよ」

「ふふ......昔は天狼会の【獅子堂ししどうぐみ組】がこの辺りを仕切ってた頃は、本当に治安が最悪でしたねぇ」

「あの組は潰れて当然。カタギに手を出すし、天狼会の中でも素行の悪い集まりじゃったからのぉ。極道は仁義を忘れてしもうたら終いじゃよ」

「極道と言っても仁さん達や彩芽ちゃんのような素敵な人達が居るとこちらも安心さね♪ 困った事があったら言ってくださいねぇ〜」

「いやいや、こちらこそ何かあったら儂らを頼って下され♪」



(何じゃ......? 先程から複数の殺気立った視線を感じる。何か嫌な予感がするのぉ......)



 周りには儂の部下が密かに護衛として付いて来ておる筈じゃが......例のエルちゃんを狙うと言う黒づくめの仲間やもしれぬ。



「あらやだ。もうこんな時間! そろそろ行かなくちゃねぇ......仁さん、エルちゃんまたね♪」

「ばいばーい!」

「ではまたの♪」



 ふむ......もう少し人が多い通りまで出るか......いや、万が一の事もあると皆様に迷惑が掛かる。いざ相手と戦うとなれば人が少ない場所が良き。念の為に彩芽ちゃんにも連絡して置いた方が良さそうじゃの。




 ―――仁は携帯で彩芽に連絡しようと試みる




「あ、もしもし彩芽ちゃんかのぉ?」

「おう、爺そっちはどうや?」

「あぁ、こっち何じゃが......むっ!?」



 突如右手で持ってた仁の携帯が何かに当たって吹き飛ばされたのである。携帯には風穴が空いてしまい、彩芽との連絡も強制的に遮断されるのであった。




「エルちゃん! 儂の後ろに隠れるのじゃ!」

「ふぇ!? な、なぁに!?」



 仁は周辺に潜む部下に密かに合図を送った。しかし、どんなに合図を送っても部下達は姿を現す事は無かった。



「Да... ♪ Мне жаль это слышать... ♪(は〜い♪ 残念でしたね♪)



 黒いスーツにサングラスを掛けた集団が気配を消して現れた。銀髪のポニーテールに八重歯が特徴の女性を筆頭にその数おおよそ50人。



「貴方が小野寺ね! 私はフィーネ♪ 宜しくね......そして、

「ぬん!?」



 仁はフィーネの突然の奇襲に刀を真剣白刃取りで止めた。仁の額には冷や汗が吹き出ている。



「わーお! 私の剣を受け止めるとはパーフェクト♪」

「物騒なお嬢さんだな......何が狙いじゃ?」

「うふふ......貴方の後ろに居る幼い女の子が欲しいの♪」

「やはりか......主らは何者じゃ?」



 例の海外マフィアの連中か。しかし、こんな若い女の子がこうも強いとはのぉ。剣使いとは......分が悪い相手じゃ。



「通りすがりの美少女デス♪ まあ、その子を渡さないって言うなら〜その辺で寝てる人達と同じ末路を辿るこ事になりマスヨ!!!」



 フィーネは凄まじい速さで、仁の間合いに詰め寄り上段からの袈裟斬りを繰り出した。仁は武術を使いフィーネの剣を横へと受け流す。




小野拳王流おのけんおうりゅう刀篭流しとうろうながし




 これはあかん......想像以上にこの子強いのぉ。このままでは儂の方が押されてしまうわい! 先程から部下達の気配が無いと思えば、この嬢ちゃん達が気絶させたようじゃのぉ。儂の部下も中々の手練な筈なのに......



「わーお! アメイジング! このお爺ちゃんお強いの! エレナの方に剣龍会は任せといてぇ〜私はこのお爺ちゃんと遊ぼうかな♡ 貴方達はあの幼女ちゃんを捕まえなさい」



 フィーネが指示を出すと黒づくめの男達が一斉にエルちゃん目掛けて動き出す。



「エルちゃん! 走るのじゃ!!! ここは儂が何とか食い止める!!」

「ふぇ!? ど、どうちよ......ぐすん」



 エルちゃんは突然のこの状況に口に手を当てて慌てて居たのであった。







 ◆エルちゃん視点






 この状況一体どういう事なのぉ......!? ええ、僕このやばそうな人達に狙われているの!?



「エルちゃん! 逃げるのじゃ!!!」

「お、おじーたん!」

「儂なら大丈夫! 早く!」




 も、もう......良く分からないよ! いや、落ち着くんだ僕。ここで焦っていても仕方が無い。そうか......この黒づくめの人達は、最初に出会ったあの2人組の仲間に違い無い。だとすると......この人達の狙いは、クマさんのお財布の中に入ってる5千円札!? ぐぬぬ......やはり大金を持つべきでは無かったか。



「エルちゃん!」

「ううっ......分かったの!」



 僕は全速力で走り出すが、所詮は幼子のこの身体。大人相手に直ぐに追い付かれちゃう......



「エルちゃん! ここは私達に任せとき!」

「仁さん、エルちゃん大丈夫か!? 俺達も加勢するぜ!」

「はわわ!? やまだのおばしゃん! かとーのおにいしゃん!」



 魚屋さんの山田のおばさんに八百屋さんの加藤のお兄さん! その他にも僕の知ってる商店街の人達が続々と集まって来てる!



「駄目だ......皆んな逃げるのじゃ!」

「何言ってたんだ仁さん......俺達は持ちつ持たれつの関係じゃないか。それに......商店街のアイドルのエルちゃんに手を出すと言うのなら、この商店街を敵に回したも同然!」

「大の大人が1人の幼い女の子を追いかける何て......恥を知りなさい!」



 何と頼もしい援軍だ......いや、でも相手は相当な手練。ここは大人しく5千円札を出して見逃して貰えないか相手と交渉すべきだろう。商店街のみんなを巻き込む訳には行かない......



「Что это за ребята?(何だこいつらは?)」


「Проклятье, мастер Хазуки сказал мне, что убивать запрещено. Значит, придется его вырубить. ......(くそ、葉月様から殺しは禁止と言われている。ならば、気絶させる他無いか......)」


「Эй! Этот светловолосый парень уходит!(おい! あの金髪の子供が逃げるぞ!)


「エルちゃん早く行きな!」

「ここは大人の俺達に任せとけ!」

「さあ! 逃げろエルちゃん!」



 こ、ここはお言葉に甘えるしか無さそうです。早い所さっさと買い物をして、この5千円札を全部使ってしまうのだ!



「Вырубите всех, кроме маленькой девочки цели!(目標の幼女以外全員気絶させろ!)」


「あんた達が何言ってるか分からんが、エルちゃんに何かあれば楓ちゃん達が悲しんでしまう! 皆んなやるぞ!! エルちゃんを守るんだ!!」

「おう! 八百屋! おもちゃ屋! 中華料理屋! 俺達、白い三連星のジェットスプリームアタックを決めるぞ!!!」

「「おうよ!!!」」



 エルちゃんは後ろを振り返らず一生懸命に走った。



「ふぇぇ......」



 みんな......ごめんなさい! 必ずやこの波乱に満ちたおつかいを成功させて見せるぞ!



 《エル! こっち!》

 《エルちゃん、俺の背中に乗りな!》


「あ! タマちゃん! ゴンちゃん!」



 路地裏から出て来たのは、白猫のタマちゃんと明智商店に住んでるシベリアンハスキーのゴンちゃん達だったのだ。



「Не дайте им сбежать! Поймайте эту девочку!(逃がすな! あの幼女を捕まえろ!)」


 《エル! 早く!》



 エルちゃんは大急ぎで、ゴンちゃんの背中の上に跨り、路地裏へと逃げ込んだのである。しかし、相手の人数も多く、仁や商店街の人達で押さえる事は厳しかった。



「タマちゃん、ゴンちゃん! あいあと!」


 《状況が良く分からないけど、何で普通におつかい行くだけなのにあんなやばそうな連中に追われるのよ! まあ良いわ......ここからは私達がホモネコバリューまでサポートするわ!》


「あ! タマちゃん、ゴンちゃん! おいかけてきたの!」



 僕はまだ天に見放されては無かったのだ! 【仲良し同盟】の頼もしい援軍が来てくれれば、この難しい局面を乗り切ることが出来る筈! 


 早い所買い物をしてお家に帰ろう。この争いの元になる5千円と言う大金は僕には荷が重かったんだ......僕のお財布の中には多くても500円くらいにして持ち歩くのがベストなのかもしれない。この大金を早い所使ってしまえば、あのやばい人達も流石に諦めてくれる筈!



「Мы собираемся зажать вас в клещи!(挟み撃ちにするぞ!)」


「はわわ!? まえから、へんなちとがきたの!」 


 《エル、大丈夫! ピーちゃん!!! ムカデの姉御ぉぉぉぉおおおお!!! 頼むわよ!!!》



 白猫のタマちゃんが大声で空に向かって声を張り上げた。そして、少しすると上空からエルちゃんのお友達の小鳥のピーちゃん率いる小鳥の群れ「おおよそ30羽」とムカデの姉御達が、小鳥の足に掴まれながら上空を飛んでいたのだ。



「ぴーちゃん! ジョパンナ(ムカデの姉御)!」


 《エルちゃん! 他の【仲良し同盟】の面々も助っ人に来たよ!》

 《エル坊! あたいらが来たからには、指一本ダチには触れさせねーよ!》



 仲良し同盟のみんなと力を合わせれば、どんな敵もきっと倒せる! それに、僕だって仲良し同盟のリーダーなのだ! この伝説の杖を毎日自宅で、お手入れを欠かさずに磨いたり色々して来たのは、全てこの日の為だったのかもしれぬ!



 《ムカデの姉御! 黒づくめの人間の上に投下するよ!》


 《おうよ! 何処の馬の骨か知らねーけどよ! あたいのダチに手を出すやつは許さねぇ! おい! てめぇら! 日本のムカデの怖さをあいつらに刻み込んでやんぞ! あたいに続けぇぇえええええええええ!!》


 



 そして、小鳥達が黒づくめの男達の上空に近付きムカデ達を投下した。ムカデの姉御率いるムカデ達が黒づくめの男達の上に着地すると服の隙間から入って縦横無尽に喰らい尽くす。



「Что, что это? Это сороконожка из Японии!(な、何だ!? これはジャパンのムカデ!?)


「Aa-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a-a.(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!)


「Вам нужно успокоиться! Аон! Эта большая сороконожка укусила меня за ногу! Хмф!(お前ら落ち着け! お"お"ん"!? このでかいムカデ野郎! 俺のア〇ルを噛みやがった! ふぁっきん!)



 おお! 流石は仲良し同盟の切り込み隊長のムカデの姉御......恐るべし。敵は激しく取り乱しているぞ! 小鳥のピーちゃん達のお陰でこの窮地を何とか乗り切れそうだ!



 《エルちゃん! 加速するぞ! 俺の背中にしっかりと掴まれ!》


 《皆んな! エルの後ろに続くわよ!》



 黒づくめの男達が慌てふためいている間にゴンちゃん達は加速して、男達の間をすり抜けて行く。ゴンちゃんの後ろには白猫のタマちゃんを筆頭に20匹の野良猫も追従している。



「Что вы делаете? Быстро бегите за ними!(何やってんだよ! 早く追うんだ!)」



 ふぇ......まだあんなにも敵が居るの!? 一体相手は何人居るんだ!? もし、このまま捕まりでもしたら......はわわ!?



 ―――エルちゃん達は路地裏へと入り、狭い道を通ってホモネコバリューへ向かおうとするが、黒づくめの男達の人数の多さに内心エルちゃんはビビっていた。



 《エル、大丈夫。この先にカラスのサスケ君、モグラのヘイゾー君、タランチュラのエリザベスも罠を張って待機しているわ!》



「おお! たのもちいの!」



 なるほど、あの人達を誘い出して奇襲をすると言うの作戦か! 良し、僕もいざとなればこの伝説の杖で応戦するぞ!



 《エル殿! 我等、精鋭20。微力ながら援軍に参りましたぞ!》


「ゴキオくんまで!?」



 一ノ瀬家に潜む影の番人。ゴキブリのゴキオを筆頭に屈強なゴキブリ達がエルちゃんの窮地に駆け付けたのであった。



 《我等、エル殿と一ノ瀬家のご恩に報いる為......この命惜しくも無い!》


「ゴキオくん......だめなの!」



 僕が初めてこの地に来て戦った魔物......危険指定難易度A級はあるであろう【漆黒のG】、最初は死闘を繰り広げていた強敵であったけど、いつしか僕と友達になって今日まで手を取り合い助け合って来た僕の大切な仲間だ!



 《エル殿、タマ殿......妹のゴキ子の事をどうか頼みます!》


 《ゴキオ! 待ちなさい! 早まっては駄目よ!》


 《タマ殿、止めないでくれ......男にはやらねば行けない時があるのだ!!!》


 《ゴキオ......命を無駄にするな! 妹のゴキ子ちゃんが悲しむでしょうが! このバカチン! 必ず生きて戻って来るのよ!》


 《タマ殿......わ、分かりもうした。必ずや生還至そう! 同族達よ! 我に続け!》



 何と言う事だ......しかし、ゴキオくんの男としての覚悟を無下にする訳には行かない。ここはゴキオ君を信じよう! 



 ―――エルちゃん達は断腸の思いで、振り向く事無く前へと突き進む。黒づくめの男達はゴキオ君達の足止めにより追い掛けて来る人数は減っては居るが、敵のリーダー格らしきスキンヘッドの筋骨隆々の男とその部下10人がエルちゃんを捕まえようとしつこく追い掛けて来ているのだ。



「ぐぬぬ......しちゅこいの!」


 《埒が明かないわね......》


 《タマの姉御、我々が敵を撹乱させます。お任せあれ!》


 《カゴメ......分かったわ。ただし無茶はしちゃ駄目よ?》


 《御意》



 黒猫のカゴメを筆頭に野良猫達が黒づくめの男達の足周りを縦横無尽に駆け巡った。



「Черт, какая унылая кошка!(クソ! 鬱陶しい猫だ!)」


「Эй! Учитель Хазуки - большой любитель кошек! Если вы будете возиться с кошками, о нас позаботятся!(おい! 葉月様は大の猫愛好家だ! 猫に手を出したら、俺達が消されるぞ!?)


「О нет! Почему все не может идти так, как идет!(あーもう! 何でこうも上手く行かないのだ!)」



 ありゃ? 何故だか黒づくめの男達は見事に猫ちゃん達を避けているぞ。もしや、黒づくめの連中の弱点は猫なのか!?



 《エルちゃん! 大丈夫か!?》


「あ! さすけくん!」


 《ここは俺らに任せてくれ! 我等、仲良し同盟の特攻部隊【漆黒の軍団】に倒せぬ敵は居ねぇよい!!!》



 電柱の上に待機していたカラスの大群が、一斉に降下し黒づくめの男達を無慈悲にも襲う。その様子はまるで黒い霧に呑み込まれるかのようであった。



「Что это, черт возьми, за !?(何だよあれは!?)」


「Толпы ворон! О! Почему здесь яма?(カラスの群れだ! おおっ!? 何でこんな所に落とし穴があるんだ!?)」


「Ой. ...... Кажется, я подвернул ногу.(痛え......足を捻ったかもしれん)


「Домашние животные. ......! Что это за мощная паучья нить! (ぺっ! 何だこの強力な蜘蛛の糸は!)



 皆んな凄いの......【仲良し同盟】の面々が力を合わせればこうも大きな戦力となるのか。だけど、1つ問題があるな......あれだけの攻撃を喰らっても尚、1人だけ僕を追い掛けて来るスキンヘッドの大男が居るぞ。



 《Hey! エルの元へと行かせるかよ! 俺っちが掘った穴で転倒しちまえ!》


 《オーッホッホッホ!!! ワタクシの毒が練り込まれた糸は強力でしてよ!》


「へいぞーくん! エリたん! たすかったの!」



 路地裏での戦いは熾烈を極めている。しかし、リーダー格のスキンヘッドの男だけは、【仲良し同盟】の猛攻を潜り抜けてエルちゃんに狭ろうとしていた。



「もう......にげるのは、やめるの」


 《おい!? どうしたんだエルちゃん!》


「ゴンちゃん......むかえうちゅの! あれやるの!」


 《おいおい、マジかよ......》



 エルちゃんは懐から伝説の杖(おもちゃ)を取り出してスイッチを押した。伝説の杖はエルちゃんの覚悟に応えたかのように光り輝き始める。



 《くそ! エル坊はよ逃げな! この禿げ男、どんだけ噛んでもあたいの攻撃が効かねぇ!》


 《ムカデの姉御! エルちゃんが......》


 《まさかエル坊......ふっ。あれをやるって言うんだな。良いぜ、隙はあたいらが作ってやんよ!》



 スキンヘッドの大男の頭の上に乗っかっているムカデの姉御は、自分の大きな身体を使って大男の目を覆うように隠した。



「Дерьмо! Ты депрессивная сороконожка!(クソ! 鬱陶しいムカデや!)


 《喰らえ! 嘴攻撃だぁああ!!!》



 小鳥のピーちゃんとカラスの群れがスキンヘッドの大男を嘴で強襲する。その隙にモグラのヘイゾーは大男の足を押さえ、タランチュラのエリザベスが蜘蛛の糸で身体をグルグル巻にしようと糸を吐く。



 《Hey! やっちまいな!》


 《オーッホッホッホ!!! タランチュラお手製の強靭な蜘蛛の糸【スパイダーポイズンネット】ですわ!》



 エルちゃんを乗せたシベリアンハスキーのゴンちゃんが、スキンヘッドの大男目掛けて全速力で走り出す。エルちゃんは真剣な面持ちで、伝説の杖を両手で握りしめ

 必殺技を解き放とうとしている。



 《加速するぜ!》


「いくの......」



 ごくりっ......この必殺技は言わば諸刃の剣。失敗すれば僕は間違い無くあのスキンヘッドの大男に捕まってしまうだろう。だけど、ここで仕留め無ければこの大男は必ずや僕を捕まえて、かえでねーたんから預かっている大切な5千円札を奪う筈だ。そんな横暴は断じて許しては行けない!



「ゴンちゃん!!!」


 《あいよぉぉおおおおお!!!!》



 ゴンちゃんがどんどんと加速して行き敵との距離を詰め、タイミングを見計らってエルちゃんは全体重を掛けた必殺技を解き放った。



「くらえ! いんふぃニートぉ............ぶらちゅと(物理)!!!」



 ゴンちゃんの加速とエルちゃんの全体重を掛けた渾身の一撃が、スキンヘッドの大男の股間に見事炸裂したのであった。



「Аххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххххх!!!!!!!!!Боже мой!?(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!! オーマイガーッ!?)




【仲良し同盟】エルちゃんズの勝利である。

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