第143話 モモネちゃんを愛するファン
◆
◇商店街・大通り◇
「居たぞ! あそこだ! 逃がすな!」
「捕らえて姐さんの前に連れてくんや!」
「俺たちの島で、好き勝手にはさせないぜ!」
もう! 一体何なのよ!? エルちゃんのおつかいを見守っていただけなのに、何故か怖いお兄さん達に追いかけられて、挙句の果てに愛しのエルちゃんを赤髪の女性達に連れてかれてしまったわ!
「葵ちゃん! こっちよ!」
「はぁ......はぁ......お姉ちゃん待って」
「ここは耐えれば......明美が頼もしい味方を連れてやって来る! 今の私達の力では、エルちゃんを助ける事は悔しいけど難しいわ......だけど、それでも!」
まさかお使いを見守るだけのつもりが、何故かヤ〇ザらしきお兄さん達と事を構える事になるとは......私達はただ黒づくめのコスプレをした一般人何だけど......それよりもエルちゃんが心配だわ! おつかいは中止! エルちゃん救出作戦を決行するわよ!
「まずは帽子とマスクにサングラスを外してもらおうか!」
「くっ......」
「お姉ちゃん!?」
楓に魔の手が忍び寄る。楓達が追い詰められ、窮地に陥っているとウエイトレス姿に着替えた姫島のお兄さんが楓達の前に姿を現したのである。
「誰だ貴様は!?」
「ふふ......私は姫を守る孤高の
「いやいや!? 頭にパンツ被った変態に変態と言われたくねぇーよ!」
「ふっ......私に変態と言う言葉は褒め言葉ですねぇ!! これは妹から借りて来た(内緒で)、純白のTバック! これを被った時の私は戦闘力が通常の2倍に跳ね上がるのだよ! 覚悟するが良い!!!」
姫島さん......助っ人は嬉しいのですが、何故頭に白いパンツを被ってるの......姫島さんの妹の佳奈さんに怒られる未来が視えてしまうわね。いや、それは今は良いわ。姫島さんはああ見えて、総合格闘技を習っていた強者。変態だけど今は頼もしい助っ人です!
「そこを退け! 変態野郎め!」
「貴方達こそ! 我が愛しのお姫様を連れて行ったそうですね? エルお嬢様を返して貰いましょうか!」
「事情は知らんが、これは姐さんの命令だ。姐さんの命令なら俺は何でもする男......神楽坂組の剛田ちゅうもんや!」
す、凄い気迫......それにガタイも大きくて喧嘩も凄く強そうな男ですね。その他の取り巻き達もただならぬオーラを身にまとっています。流石に姫島さん1人では......
「貴方達......そこを退きなさい」
「はぁ? なっ!? お、お前は......【剣龍会】の氷剣姫!」
「聞こえなかったのですか? このゴミ虫共が」
楓達の前に現れたのは、日本刀を片手に持つ美しい青髪の女性であった。清潔感溢れるメイド服を華麗に着こなす切れ目でジト目が似合う女性......綾辻美玲の右腕、
「おやおや? 美しいお姫様の登場ですか〜ですが、私は美しい女性には絶対に手を出さな......かはっ!?」
「峰打ちです。早々にこの場から消えなさい」
「姫島さん!?」
「そ、そんな......」
氷華は剣の柄頭で姫島の鳩尾を狙い一瞬で意識を刈り取り気絶させた。音も無く忍び寄り、それに気付いた時にはもう既に手遅れである。
「抵抗しない事をオススメしますよ」
只者では無いわね......身に纏う雰囲気やオーラが普通の人とは全然違う。悔しいけど、同性として一瞬だけ胸が少しだけときめいてしまったわ。ジト目の美女、クールで無表情......私のまだ見ぬ新しいジャンルだわ......
「お、お姉ちゃん待って......このメイドさん良く見てよ!」
「ん? あ、あれは......」
良く見るとこのメイドさん......至る所にモモネちゃんのグッズやシルエットらしき絵が剣の柄やカチューシャに刻まれているわね。もしやモモネちゃんが好きなのでしょうか?
「何をジロジロ見ているのですか?」
「早いっ......!?」
「遅すぎますね......顔を見せなさい」
「んん!?」
な、こんな白くて細い指からこんな化け物みたいな力。何をしたらこんな馬鹿力なパワー系乙女になれると言うの!?
「こ、これわ!?」
「え?」
「貴方、このスマホのストラップ......何処で手に入れました?」
「あぁ......これは貰ったものですけど」
「嘘、それはモモネちゃんグッズの中でも超が3つは付く程の超激レアグッズ......応募倍率が数百倍と言う、異次元の倍率で10名様限定の入手困難の代物。私ですら手に入れる事が叶わなかった【ステンレス製、ロリ萌えきゅん♡バージョンの西園寺モモネラバーストラップ】!!」
「へぇ〜これそんなに凄い物だったんだ......」
「そんな国宝級の物をタダでくれるような聖人がこの世に居るはずがありません......それは80万はする代物。貴方、モモネちゃんのファンなの?」
「そうですよ。私は誰よりもモモネちゃんの事を近くで見て来たファンですよ♪」
「ほほう?」
先程の殺気が嘘のように霧散して、今では氷華さん目をキラキラと輝かせている推しに恋する乙女ですね。最初は口数の少ない女性だと思ってましたが、案外喋る方のようです。
「ごほんっ。モモネちゃんのスリーサイズは? 好きな食べ物に苦手な食べ物、身体は何処から洗うのか、お気に入りの色と座右の銘、モモネちゃんの家族構成、モモネちゃんは何期生か、モモネちゃんの名曲の1つ、【WiFiダンスホール】のPVに出て来る場所(聖地)は何処か、西園寺モモネちゃんの名前の由来は?―――さあ、黒づくめのマフィアよ。モモネちゃんのファンを名乗るくらいならこれくらいは朝飯前ですよね?」
「ん? 黒づくめのマフィア? ふふ......勿論よ♪ モモネちゃんは―――」
―――30分後―――
「はぁ......はぁ......貴方、相当なモモネオタクですね。このモモネ検定神級をクリアした私をここまで追い詰めるその知識とモモネ愛......敵ながらこれは素直に認めざるを得ません。貴方名前は?」
「はぁ......はぁ......私の名は、一ノ瀬 楓。私は敵ではありませんよ。氷華さんこそ、モモネちゃんの情報にお詳しいですね」
「当然です! 色の無かった私の世界に......美しく鮮やかな色をくれたのがモモネちゃんですから! 推しについて調べる事は最早義務ですよ? 真のモモネファンを名乗るなら朝食を食べるのと同じ事です!」
やっぱり、葵ちゃんは凄いなぁ。姉として誇らしくも思う。だけど、ここで葵ちゃんがモモネちゃん本人だと打ち明ける訳にはいかないわね。こう言った過度のモモネちゃんファンは何をするか分からない。少しでも危険が伴う以上、モモネちゃんに関する秘密は言わない方が良さそうね。
「名残り惜しいですが、これも仕事。同じモモネちゃんファンとして、命までは取らないであげます」
「氷華さん、貴方達は何故私達を追い掛けるのですか?」
「理由は詳しくは知りません......上からの命令は絶対です」
くっ......情報を引き出す事は難しそうね。ならば! 葵ちゃんには悪いけど、最終奥義を出さざる終えません。
「お、お姉ちゃんから離れてよ!!」
「あ、葵ちゃん!?」
「なっ......そ、その声は!? モ、モモネちゃん!?」
―――葵は涙浮かべながら、楓を守るようにして前と出る。
葵ちゃん、余程この状況に焦っていたのか素の声が出ちゃっているわね。葵ちゃんは普段身バレ防止の為にわざと声を作って話しているのです。葵ちゃんの素の声が西園寺モモネちゃんだから。
「............」
「な、何でしょうか?」
「ごほんっ......た、試しに私の事を【お姉ちゃん♡】と呼びなさい!!!」
氷華は鼻息を少し荒らげながら、剣先を葵の顔へと近付ける。
「ヒィッ......!? お、お姉ちゃん!!!」
「ちょっと氷華さん! 私の妹に手を出すのは許しませんよ?」
「あ、あぁ......ご、ごめんなさい。や、やっぱりこの声は......」
え、これどう言う展開なのかしら? 氷華さんが日本刀を地面に落として、顔を手で覆っていますね。肩をプルプルと震わせて何処か具合が悪いの?
「お、親の声より聞いた声......この甘くて麻薬以上の中毒性を誇る天然癒しロリ系VOICE......」
「あ、あの......」
「わ、私は何て事を......危うく推しを斬る所だったわ。これは大変失礼致しました。わ、私は九条氷華と申します! モモ......モモネちゃん......いえ、モモネ様の大ファンです! あ、あの! す、すみません......サイン下さい!!!」
「ええええぇぇ!?」
先程とは一変して、青髪のメイドさんは頬を赤らめてまるで恋する乙女の様な表情を浮かべています。葵ちゃんの素の声を1回聞いて、直ぐにモモネちゃんに辿り着くとは......
「あの、ご尊顔を拝見しても宜しいでしょうか?」
「え、はい......お姉ちゃんどうしよう?」
「葵ちゃん、大丈夫。この人私と似た匂いがするわ。悪い人では無さそうよ」
楓と葵は変装具を解いて、氷華にその素顔を見せたのである。氷華は口に手を当てながら動揺をしていた。
「な、何と......お美しい。え? という事はこちらのお姉さんは......モモネちゃんのお姉様!? 西園寺エリカ様!?」
「はい、そうです♪ 私達の事は内緒にして下さいね♪」
「も、もももも勿論でございます!! はわわ!? へええ!? 嘘......夢みたい。あ、あの握手を......」
「はい♪ モモネちゃんをいつも応援してくれてありがとうございます♪」
「じゃあ私も! いつも応援してくれてありがとう!
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!! 我が人生......一片の悔い無し」
何だか微笑ましいわね♪ 氷華さん、本当にモモネちゃんの事が大好きなんですね♪
「おい! 九条氷華! さっさとそいつらを捕まえろ!」
「はぁ?
「お、おい......何だよ? お前まさか!? 神楽坂組を裏切るのかよ!?」
「この命......モモネちゃんに救われたも同然」
氷華は静かに剣を抜刀し、楓達を守るようにして前へと出る。剛田達は冷や汗を掻きつつ後ろへと下がった。
―――【雪華流 奥義 終ノ型
氷華の周囲の温度が下がったと同時に刹那の速さで組員達を斬り捨てる。
「がはっ!?」
「お、ぉまえ......」
「峰打ちです。それにモモネちゃんは私に光をくれた命の恩人......例え、モモネちゃんが闇と繋がりがあろうとも、私には関係無い。モモネちゃんは永遠の推しなのですから!」
ん? 闇の繋がり? 何か氷華さん何か勘違いしてないかしら? 何だか他の人達とも話しが微妙に噛み合ってない様な気がするわ。
「氷華さん、あの......」
「楓さん......何も仰らずともお察し致します。人間表に出せない事は2つや3つあります。この事は全て私の胸に秘めて墓場まで持って参ります」
「いや、そうじゃなくて......私達、妹のエルちゃんのおつかいを見守る為に変装してコスプレしてるだけですよ?」
「なるほど、妹のエルちゃん......へ? エルちゃんって......あの例の護衛対象の女の子?」
「護衛対象? 良く話しは分かりませんが、エルちゃんは私達の妹ですよ♪ それはそれはとっ〜ても! 可愛くて良い子で素敵な女の子ですよ♪」
「んん? こ、これはどういう事なのかしら......」
楓は氷華に事の顛末を一から説明するのであった。
―――――――――
「な、なるほど......そういう事でしたか」
「何だか勘違いさせてしまい申し訳ないですね」
「いえいえ! ボスの勘違いだったなら、それはそれで良かったですよ......ウチのお嬢様もボスも根は良い人なのですが、基本的にアホなのですよ......とほほ」
「氷華さん、苦労が多そうですね」
「そうなのですよ! いえ、ですがこうして葵様と楓様に出逢えたのです! 今回ばかりは、アホなお嬢様にも感謝ですね」
まさか、エルちゃんのおつかいを見守るにあたって、【天狼会】の神楽坂組と言う大物のヤ〇ザさん達がエルちゃんの為に動いてるとは......人生何が起こるか本当に分からないものですね。
「そこの2人動かないで!」
「楓ちゅわん!? 大丈夫かしらぁん!?」
「楓! 兄貴達を連れて来たよ!!」
「氷華ちゃん〜! おまたぁ♡」
「でかしたぞ! 氷華!」
「楓さん!!」
「援軍に参りました!」
丁度タイミング良く、婦警や彩芽にキララと言った濃い面子が一同に介するのであった。
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