第140話 それぞれの視点、神楽坂組若頭補佐
◆
「るり姉......あれって」
「な、何で......こんな所に天狼会の大幹部が居るのよ!?」
エルちゃんが寄ったおでん屋台に私達の宿敵とも言える女が居たのです! あの燃えるような深紅の赤髪......美人で勝気な雰囲気のあの女は、間違い無い!
「あれはやばいって......何で【天狼会の狂犬】が居るの!?」
「あれは警察でもおいそれと手を出す事の出来ない要注意人物。日本の極道組織の中で、神楽坂組の名前を聞いて知らない奴は居ない程......るり姉、これはおつかい所の騒ぎでは無くなって来ちゃったね」
天狼会の大幹部の1人......神楽坂彩芽は数年前に関西連合が攻めて来た際に、たった数人の部下と共に敵を蹂躙したと言う人間をやめた様な女だ。他にも数多くの伝説を残しており【天狼会の狂犬】と言う名前は、海外マフィアにも名が轟く程に有名で、その名は極道の世界で畏怖される象徴でもある。
「るり姉どうする? 上に連絡する?」
「魅音落ち着きなさい。ここは状況を一旦見極めるわよ」
天狼会の武闘派として名高い神楽坂彩芽には、数多くの部下がいる。その中でも若頭と若頭補佐の3人は、神楽坂彩芽に忠誠を誓う恐ろしい強者達であり、警察の方でも危険指定人物としてマークされている。
警察の方でも手を出す事は容易ではない......天狼会を刺激すれば警察と極道の一般市民を巻き込んだ悍ましい抗争に発展する恐れがある為、上も天狼会に付いては目を瞑っている。それ所か警察の上層部と癒着してると言う噂もある程だ。
天狼会の構成員は約5万人、傘下も含めて100団体のうち神楽坂組の勢力は他の組や会よりもはるかに突出している。組員数は神楽坂組だけで、約1万人は居るという恐ろしい勢力だ。
「るり姉! あいつは!」
「なっ......!? 神楽坂彩芽の右腕......
―――天狼会 直系 神楽坂組 若頭
通称【ドスの鮫島】、とあるアジアのマフィア組織を1人で壊滅させた神楽坂彩芽の次に並ぶ化け物だ。噂ではその巨体で車を持ち上げて投げ飛ばすという程の馬鹿力と聞いているわね。
てか、何で2人揃っておでんの屋台何かやってるのよ!? 組織の上の人間が、おでんの屋台で商売をするなんてありえないでしょ! 何かを狙ってるの? それともこの商店街の隅っこでヤクの取り引き? いや、流石にその路線は低いわね......なら何が狙いなのかしら?
「るり姉! エルちゃんが危ないよ! 早く助けないと!」
「待って! ここは一旦冷静に......組織犯罪対策4課と刑事総務課......捜査一課にも連絡を入れた方が良いかしら......この件は私の一存では決めれないわ!」
ん? 待てよ? そうか......そういう事だったのね。神楽坂組の狙いはエルちゃん......上からエルちゃんを護衛するようにとお達しがあった時はどういう事なのか謎だったけど、私達に白羽の矢が立った理由は極道絡み......天狼会が絡んで居ると言う事なのね。これは予想以上に大きな山になりそうだわ。
「エルちゃんは一体何者なの?」
最初はエルちゃんが、てっきりスーパーホモネコバリューへ1人でお買い物をするだけだと思ってたけど、もしやこれは特務? スーパーホモネコバリューは何かの隠語で本命は別にある? エルちゃんが持ってた買い物リストに何か秘密がある?
エルちゃんの日本人離れした美しい容姿から見て只者では無いと思っていたけど、あの神楽坂組が狙う程の女の子......対立組織のボスの娘? それとも何処かの大手企業のご令嬢? だとしても1人で外に出歩かせる事はしないか。そうえば、この依頼は警視総監直々の極秘任務と言っていたわね。だとすれば......
「魅音、今暫く様子見よ。いくらあの神楽坂彩芽でもエルちゃんに危害を加える様な真似はしないでしょう」
「あぁ......エルちゃんが!」
神楽坂彩芽......エルちゃんを膝の上に乗せて何をする気? あんな凶悪な笑みを浮かべて一体何を考えている? もしやエルちゃんを愛でて、安心させてから誘拐すると言う魂胆?
「るり姉......あの飲み物大丈夫かな?」
「もしや......ジュースに睡眠薬を混ぜてエルちゃんを眠らせようとしてる!?」
「ええ!? 早く助けなちゃ!」
「魅音、今迂闊に出て行っても私達だけでは抗う術は無いわ」
「うぐっ......」
それともう1つ気になる事がある。先程から黒づくめの怪しい2人組がエルちゃんの後を付けているのです。最初は偶然目が合ったのでニコッと会釈をしたのですが、黒づくめの片割れの方が、背後にドス黒いオーラを出して私を視線で牽制して来たのだ。
警察を見て敵視していると言う事は、何かうしろめたい事をしてる連中なのかもしれない。見た目からしても怪しさ200パーセントって感じだし。補導して置くべきだったわ......
「ふむ、神楽坂組の若頭も動いてるとなると......若頭補佐の3人も動いてる可能性があるわね」
「ごくりっ......神楽坂組の若頭補佐。1人1人が一騎当千の強者で曲者揃い。るり姉......抗争が起きないかな?」
「きっと大丈夫......その為に私達が抜擢されてるのよ。私の目が黒いうちはあいつらの好きにはさせないわ!」
◆早乙女キララ視点
★一ノ瀬家の庭にて
「何ですってぇぇぇぇぇえええ!? 天狼会の神楽坂組!?」
「お姉たま! 落ち着いて下さい!」
「ベリアナぁ! キャンディーちゃん達を大至急集めなさい! 他の四天王達にも連絡よん! アタシも現地に向かうわん!」
「はい! お姉たま!!」
偵察中のキャンディーちゃんから連絡が来たと思えば......どうして天狼会の大幹部何て出て来るのよぉん! しかも、よりにもよって武闘派の神楽坂組......エルちゃんの半径500m以内に居るヤクザ、不良、不審者はキャンディーちゃん達が撃退してくれた筈......あ、まさか!?
「いいえ、もしかして撃退した中に神楽坂組の組員が居たのかしらぁ? それとも神楽坂組の島を荒らした事が原因? だとしたら......これは報復!?」
アタシと神楽坂組の彩芽ちゃんとは旧知の中ではあるのが不幸中の中の幸いねぇ。あの子なら仁義や情に熱い子よ......謝罪すればきっと分かってくれるはず。
【楓ちゅわん! 聞こえるかしらぁん? こちら早乙女キララよん!】
【はい、こちら楓です】
【そちらは今どんな状況かしらぁん?】
【現在、エルちゃんはおでん屋さんの屋台で、熱々のおでんを食べていますね。その横には赤髪の女性がエルちゃんに食べさせて......あ、あぁ!? ⠀今、赤髪の女性がエルちゃんにキッスしました!】
【赤髪の女性......まさか!?⠀楓ちゅわん、絶対にその女性に近付いたら駄目よん! 今からアタシも現場に向かうから!】
【え? あ、はい......分かりました】
キララは無線を切ってその場から立ち上がる。その表情はいつものキララとは違い険しい顔していた。額から流れる汗が、地面に吸い込まれるかの様にポタポタと流れ染み込んで行く。
「ドM三銃士に連絡を入れてちょーだい」
「お、お姉たま......あいつらを呼ぶのですか!?」
「万が一の保険よ......天狼会の神楽坂組と揉める事だけは何としても避けなくちゃ行けないわぁん!」
「わ、分かりました! 大至急連絡を致します!」
ここであたしが焦っては駄目よ。ここは警察と連携して神楽坂組と和議を結ばなければ......
【お姉たま!⠀こちら上空に待機している⦅おしりの穴狙撃隊♡⦆マルビッチでありんす!】
【どうしたのマル!】
嫌な予感がするわねぇ......あの常に冷静のマルがそんな慌てた様子で連絡して来るのは珍しい事。
【商店街に向けて、沢山の黒塗りの高級車が迫って来ております!】
【!? 時既にお寿司......か】
【お姉たま! どうするでありんすか?】
【そのまま監視を続けてちょーだい......万が一、エルちゃんに危険が生じそうならば、睡眠ゴム弾を発砲する事を許可するわん】
【イエス、お姉たま!】
どうか大事になりませんように......
◆
「それでは商談は以上となります」
「美玲社長、本日は大変有意義なお時間となりました。また今後とも是非取り引きをお願い致します」
「はい♪ こちらこそ♪」
―――東京某所、カグラ第3ヒルズ80階。会議室にて
青髪のポニーテールと毛先に白いメッシュを入れた女性が会議室の椅子に座っていた。目元がおっとりとしている美しい女性は、パソコンと向き合いながら取引先の企業と商談をしている。
そして、
「良し、終わりん♪ んん〜疲れましたぁ♪」
「
「ん? 彩芽お姉様から?
龍崎グループ 株式会社
裏の顔―――天狼会 直系 神楽坂組 若頭補佐 【
通称【無慈悲なる女帝】。おっとりした口調とは裏腹に、やる事がえげつなく全てがぶっ飛んでいる。神楽坂彩芽に心酔しており彩芽の命令とあらば、どんな事でも躊躇無く実行する。
「あぁ♡ 彩芽お姉様に抱かれたい♡」
そんな美玲の一族はまさにエリート一家。父親は財界の大物で、おじいちゃんは与党の【脱税民主党】幹事長、母親は龍崎銀行の頭取だ。
―――そして、美玲は大の女好きでもあり、自分の周りの秘書官等を常に自分好みの美少女を傍に置いている。気に入った女は、どんな手段を使ってでも手に入れる程に美少女に執着心を抱いている。
「詳細はまだ不明ですが、緊急の招集だそうです。他の若頭補佐にも招集命令が掛かっておりますが.....この後の美玲の姉御のスケジュールがみっちりと詰まっております」
「
「え、よ......宜しいのでしょうか?」
「だってぇ〜私の中の優先順位は〜常に彩芽お姉様が上だよぉ? それに今日の会合とかは私が出なくても問題無いわよぉ」
彩芽お姉様が直々に私を呼ぶのは久しぶりじゃないかなぁ? 一応下着は新しいのを穿いて行こう♡ お姉様が私を今度こそ抱いて下さるかもしれない♡ 前に100億円で彩芽お姉様に抱いて貰おうと迫ったのですが、彩芽お姉様はガードが固くその夢は叶わなかったですぅ。いくらお金を積めば......彩芽お姉様は抱いてくれるのかなぁ?
「で、ですが......美玲の姉御」
「
「ヒィッ......!? も、申し訳ございません!」
もう〜私の命令が聞けない何て悪い子ね♡ そんな子にわぁ〜お姉さんがいじわるしちゃうぞ♡
「今日の私の夜伽当番は〜あかりちゃんで決まりね♡」
「は、はい......分かりました」
「パンツは穴の開いた物を穿いて来てねぇ〜」
「はい......ぐすんっ」
うふふ......美少女が泣いてる姿を見るとゾクゾクしちゃう♡ 本当〜私たらイケないわぁ♡ でも、今は一秒でも早く彩芽お姉様の元へと馳せ参じないとね♡
「あかりちゃん〜プライベートジェット機を5分以内に用意してね♡」
「5分ですかぁ!? さ、流石にそれは......」
「
「は、はい!! 直ちに!」
美玲は直ぐに彩芽が居る愛知へと向かうのであった。
◆
―――天狼会 直系 神楽坂組 若頭補佐【真瀬組】組長
★真瀬組の事務所にて
「おい、てめぇ......姐さんの面を汚す様な真似をして、これはどう落とし前つけるんや? エンコ詰めるだけじゃ済まないぞ?」
「真瀬の兄貴! も、申し訳ございません!!」
「おらぁ!」
「がはっ......!?」
俺ら神楽坂組は、地域住民の皆様のお陰で成り立って居るんや。姐さんは地域住民との触れ合いや仁義を大切にする御方だ。姐さんは仕事以外でも、無料で子供食堂を開いて貧しい子供に温かい飯を食わせたり、ホームレス達に炊き出し等様々な慈善事業をしている。
「この時期の東京湾は、さぞ冷たいやろなぁ」
「ヒィッ......!?」
だが、下っ端のクソ野郎は姐さんが最も嫌う様な真似をしやがった! 俺らの島でヤクを売りさばいて居たと思えば......身寄りの無い子供を誘拐して海外へ売り飛ばして金を稼いで居たんや! 神楽坂組の看板に傷を付けた落とし前はきっちりと付けて貰うからなぁ!
「おい、誰かこいつを連れてけ」
「へい、了解です兄貴」
「お、お願いします! どうか......真瀬の兄貴!!!」
全く......人を纏めるのは一筋縄では行かへんな。本当に姐さんはすげぇわ......姐さんの人望やカリスマ性は、天狼会随一や。あの若さで曲者揃いの神楽坂組を纏めるんだからな。本当に尊敬の念を抱くぜ......
「真瀬の兄貴、妹さんからお電話ですぜ」
「何!?
暫く口も聞いてくれなかった明美が......俺に連絡をくれるとは、明日台風が来るかもしれへんな。嬉しくてつい涙が出ちゃいそうや!
【兄貴......】
「明美か!? こないだは本当にごめんな! 明美の下着と俺のパンツを一緒に洗濯してしまった事は、本当に申し訳無い! お兄ちゃんは猛反省したぞ!」
【助けて......怖いお兄さん達に囲まれてるの......場所は商店街......の......ガチャ】
「ど、どうしたんや!? 明美!!!」
な、何が起きてるんや!? 明美の身に危険が......
「どうしたのですか? 真瀬の兄貴?」
「
「な!? 明美嬢が!? 分かりました! 大至急全組員に招集を掛けます!」
俺の妹に指一本でも触れてみろ......この世のありとあらゆる苦痛を味合わせて、コンクリートで足を固めてマリアナ海溝に沈めてやる!
◆小野寺 仁 視点
「会長、そろそろ目的地に到着致します」
「うむ、それにしても彩芽ちゃんは相変わらず人使いが荒いのぉ〜こんな朝早くから招集とはのぉ。もう儂も若く無いと言うのにのぉ」
「いえいえ、叔父貴はまだまだ若いですよ」
「工藤〜世辞はよせやい」
黒色の高級セダンの後部座席で、年老いた男性と壮年の男性が会話をしながら目的地へと向かっていた。白い立派なカイゼル髭を生やした年老いた男性は、笑みを浮かべながら顎髭に手を添える。
―――天狼会 直系 神楽坂組 若頭補佐【
「ふむ......この金髪の可愛いお嬢ちゃんを護衛せよとな?」
「まだ4歳か5歳くらいでしょうか?」
「フォッフォッ......まあ良い。儂が直々に面倒を見てやろうじゃ無いか」
良いのぉ〜孫と戯れるのが儂の夢じゃった......儂には3人の娘が居るが、何せ職業柄おいそれと関わる訳には行かないのじゃ。本当は極道を直ぐにでも引退して、娘の子供達の成長を近くで見ていたい。こんな老骨を天狼会の本部はまだ使いたがってる居るからのぉ〜極道に定年と言う物は無いのかの?
「会長......」
「どうした工藤?」
「ふふ......何だかとても穏やかそうな表情をしていたもので」
「そうかの? でも、ちと楽しみじゃな」
この写真に写ってるお嬢ちゃんは、どんな子なのかのぉ? それにしても本当に小さいのぉ〜こんな儂と仲良くしてくれるかの?
仁はカイゼル髭を撫でながら穏やかな表情を浮かべていた。その顔はまるで、自分の孫にこれから会いに行く様なおじいちゃんと言った感じだ。
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