第133話 黒づくめの2人組
◆エルちゃん視点
☆住宅地が密集する人気の少ない路地にて☆
「ぐふふ......」
ついにボクの冒険が始まるのだ! ボクの所持金はかえでねーたんに託された5千円とボクの財布に元々入ってた小銭220円。熊さんのお財布の中にお札が入ってると思うと何だかお金持ちになった様な気分です♪
「これが......ごせんえんさちゅ......ごくりっ」
お財布の中に5千円札が入っている事は分かってるけど、何か不安で5千円札が無くなって無いかチラチラと見てしまう。だって、これ1枚でおかちが沢山買えるんだもん! お札を持つのは初めてなので、何だかワクワクする反面少し怖い。貧乏人の僕から見るとこの5千円札を見ると後ろに後光が差してる様に神々しく見えるくらいですよ!
「あっ......」
エルちゃんは5千円札を熊さんのお財布に戻そうとするが、突如意地悪な風が吹いて何とエルちゃんは5千円札を側溝の隙間に落としてしまうのであった。
「ふぅえええええ!? ど、どうちよ......!? はわわ......!?」
う、嘘でしょ!? こんな事があるの!? かえでねーたんから託された大切な5千円札を道の隅にある側溝の穴に落としちゃった。あぁ、こんな事になるならお金出さなければ良かった......どうしよう。
「ぐぬぬっ......!?」
くそ! 一体どうすれば良いのだ!? いくら僕の手が小さいとは言えこの穴には入らない......中も暗くて見えないし困ったな。この蓋を持ち上げる事が出来るのだろうか?
「ふん! む、むりぃ......おもたいの......ぐすんっ」
重過ぎて持ち上げれない。詰んだ......まだ家を出て間も無いのに。落ち着いて考えろ......何か良い方法は無いものだろうか。
「ふぁ......!?」
えええええぇぇ!? 何でか分からないけど、隙間から5千円札がニョキっと出て来ました!
「にゃーお」
「あ! ねこしゃん!」
どうやらこの中に猫さんが居るようです。この猫さんのお陰でボクの落とした5千円札が無事に戻って来ました♪ 運良く危機を回避する事が出来て内心ホッとしたよ......
「ねこしゃん、あいあと!」
〘 お馬鹿エル......お嬢ちゃん、お金は無闇に出す物では無いよ。もう落とさない様に気を付けなさいな。ではさらば! 〙
ん? 何か何処かで聞き覚えのある様な声? まあ、良いか。どうやら猫さんは行ってしまったみたいです。親切な猫さんに助けられちゃいました♪
「もう、おとしゃないもんね!」
僕は決意を新たにし、熊さんのお財布の中にお札を入れて、首に紐を掛け落とさないように万全の体制を整えました。
「ふむふむ......」
さてと......気持ちを入れ替えて頑張ろう! 今日の目的地は、前にあおいねーたんと一緒に行ったお店【ホモネコバリュー】。ボクの昔住んでた場所で言うならば大きな市場みたいな場所ですね。まあ、今から行く場所の方が品揃えは豊富で規模も桁違いなのだ。
「えと......んぅ?」
かえでねーたんから地図を貰ったのは良いけど、この紙どっち向きから見れば良いのかな? こっち向き? それともこっち? こうかな?
「ふむふむ?」
まあ良いだろう。僕に地図等は不要だ。少し曖昧ではあるけれど何となく道は覚えています。ボクの記憶が正しければ、この先に公園があった筈。それを超えると商店街があり、アーケードを抜けてしばらく歩くとスーパーがある筈だ。
「............」
気の所為でしょうか? 何処からか視線を感じる様な気がする。でも、辺りを見渡すと誰も居ない......ボクの考え過ぎかな? 自意識過剰と言うやつなのでしょうか?
「はっ!? も、もちかちて......」
ボクが大金(5千円)を持ち歩いて居るのがバレたのか!? ボクのこの直感はスラムでの生活の時に身に付けた物だ。油断した際にスリやカツアゲと言った行為に何度ボクもやられたことやら......こ、これはかえでねーたんから託された5千円札だ。絶対に死守してみせるぞ!
「よち、だれもいない......」
もし、変態不審者に遭遇したとしても今日のボクはフル装備なのだ! かえでねーたんに貰った防犯ブザーと言うアイテムとヘルメットに防弾性能とやらのモコモコの服を着ています!
更にはボクの背負ってるリュックの中には、伝説の杖と変態不審者撃退用アイテムのスーパーボールも複数個入っている。その他にも何かあった時に賄賂として渡す1個150円の高級クリームパンやぺろぺろキャンディーのレバニラ味もあるのだ!
「よいちょっと......」
良し、スーパーボールを試しに投げて見よう。いざ実践となった時に使えなければ意味が無いのだ。このスーパーボールは、こないだあおいねーたんと100円ショップと言うリーズナブル?とやらのお店で買って貰ったものです♪ このボールは凄いのですよ! 投げると物凄く跳ねて当たるとかなり痛いのだ!
「えい!」
エルちゃんはスーパーボールを思いっ切り投げた。そして、そのスーパーボールは地面をバウンドして運悪く低空飛行をしていたカラスの顔面に直撃をする。
〘痛てえぇぇぇ!? こ、このチビガキ! 何晒すんじゃワレ!〙
「ぎゃああああああああ!!?? ご、ごめんなしゃい!!!!」
カラスさんが怒って追い掛けて来たよぉぉお!! しかも、あのカラスさん気性が荒くて怖いの!
「うぎゃあ!?」
エルちゃんは逃げる際に石ころに躓いて盛大に転んでしまった。
「ううっ......ぐすんっ。いたいの......」
〘ぎゃああああああああ!!?? 〙
「んぅ?」
え、何? 今一体何が起こったんだ? ボクが転んだと同時にカラスさんが悲鳴を上げて何処かへ逃げて行きました。ぼ、ボクは助かったのか?
「......」
やっぱり、タマちゃんに付いて来て貰った方が良かったのだろうか。一人は心細い......いやいや、今回はボクが一人でおつかいをすると決めたのだ。弱気になってちゃダメだ! 頑張るんだボク! 転んだくらいで泣いてたら、かえでねーたんとあおいねーたんに笑われてしまう。
「むむ! いちのちぇ......える! にんむをすいこ......あ、あう」
カッコよく決め台詞を言おうとしたけど、盛大に噛んでしまった。内心で思ってる事を口に出そうとするとどうしても噛み噛み言葉になってしまう。恥ずかしいとは思うけど、こればかりはどうしようもありません。
「んぅ? あ、あれは......ふぁっ!?」
ボクは気付いてしまったのだ。こちらからは死角で見れないけれど、交差点にあるミラーに映っている2人組のくろづくめの人達を!
「ごくりっ......や、やばいちとだ」
マスクにサングラスをしているぞ? あれはプロの殺し屋か? それとも変態不審者なのだろうか? でも、顔を隠してて良く分からないけど、あの黒づくめの人達は恐らく女性だ。近付いたら何をされるか分からない......ここは関わらないのが吉かもしれぬ。
(反対側の道から行こう。ここは一通りも少ないし危ない。少し大回りになるかもしれないけど、命あっての物種だ)
エルちゃんは交差点のミラーで黒づくめの格好をした2人組の存在に気が付いてから、来た道を引き返そうとしていた。
「ん? あ、あれは......」
そうだ! あそこに捨てられているダンボールを使おう! あれを被ってバレない様に先を進む。これぞ擬態戦法だ! 我ながら良いアイディアではなかろうか?
「これを......こうちて」
このダンボール丁度良い所に穴が空いてるぞ! この穴から周りを見渡せそうです! これを被りながらあの2人組にバレない様にあそこの交差点を突破するぞ!
「あ、あれ?」
さっきまで怪しい2人組が居たと思ったんだけどなぁ......まあ良いでしょう。ここでダンボールを元の場所に戻して先に進むのも良いかもしれないけど、念の為このまま被った状態で交差点を突破しよう!
エルちゃんは周りの様子を見ながら交差点を恐る恐る渡ったのである。
「ふぁっ......!?」
向こうに見える自動販売機横に先程の黒づくめの2人組が居る! やはりボクの方を見ていると言う事は、あの2人......ボクの持ってるこの熊さんの財布を狙っているに違いありません!
「ぐぬぬっ......」
ここは動くべきだろうか? それとももう少し様子を見てみるか。
「............」
あれ? もしかして、ボクの事バレてないのかな? もしバレて居たとしたら、そのまま走って来てボクを襲撃して来る筈です。このダンボールの擬態が上手く行って居るのかもしれませんね。
「ぬっ!」
黒づくめの人達があっちを向いたぞ! 今がチャンスだ!
◆
楓と葵は黒づくめのコスプレをしながら、バレない様にこっそりとエルちゃんの様子を暖かい目で見守っていた。マスクとサングラスをしているその姿は、怪しさ120パーセントと言った所である。
「これで完璧よ♪」
「お、お姉ちゃん......逆にこの格好悪目立ちしない?」
「大丈夫よ♪ もし、この姿でエルちゃんと目線があっても恐らくバレない筈よ♪」
「ホントかな......」
さてさて〜エルちゃんはどうしているかなぁ?
「あ! 葵ちゃん、エルちゃん来たよ!」
「お姉ちゃん、あそこの販売機の横に隠れよう!」
エルちゃんの様子を見てみると......エルちゃんは周りをキョロキョロと見た後にお財布から5千円札を恐る恐る取り出して、じっーと見つめています。
「うふふ♡ エルちゃん可愛い♡」
「あ! 5千円札が!」
「あらあら、これは大変ね」
エルちゃんが5千円札を側溝の方へと落としてしまいました。エルちゃんは口に手を当てて酷く動揺をしています。
「あぁ......お姉ちゃん! エルちゃんが泣きそうだよ!」
「葵ちゃん待って、今出て行ったら全て水の泡だよ。今日はエルちゃんにバレない様に陰ながら見守ると決めたんだから」
「でも......」
しかし困ったわね。落としちゃったものは仕方ありません。だけど、お金が無くちゃ買い物は出来ない。何とかエルちゃんにお金を渡す事は出来ないでしょうか......
「にゃーん♡」
「あらま♡ タマちゃんもエルちゃんの様子見に来てくれたの?」
「にゃう!」
「おお、他の猫ちゃん達も着いてきちゃったんだ」
タマちゃんの他にも我が家に良く遊びに来る野良猫さん達が沢山いますね♪ みんなエルちゃんの事を心配してくれてるのかな?
「にゃあ!」
「タマちゃんどこ行くの?」
も、もしかして......タマちゃん側溝の中に行くつもりなのかしら!? タマちゃんは猫さんとは思えない程にかしこいなと思う事が多々ありましたけど、タマちゃんは人間の言葉が理解出来る猫さんなのかしら?
「おお! タマちゃんナイスだよ!」
「うふふ♡ エルちゃん驚いて固まっちゃってるよ♪」
タマちゃんのお陰で5千円札は何とかなりました♪ これでエルちゃんのお使いは続行ですね♪
【あ〜あ〜♡ んふぅ〜♡ こちら早乙女キララよん♡ 今の所は問題ナッシングかしらぁ?】
【はい、今の所モーマンタイです。引き続きエルちゃんを追跡します!】
無線でこうしてキララさんや周りの人達とやり取りをしています。今、エルちゃんの周りにもキララさんのお友達が沢山隠れて見守っていますからね♪
「よしよし、エルちゃんが歩き始めた......ん?」
「あれは、スーパーボール?」
「スーパーボールで遊びたいのかな?」
エルちゃんはスーパーボールを取り出して、今度は投げて遊ぼうとしていますね。
「お姉ちゃん大変! エルちゃんが投げたスーパーボールがカラスに!」
「まあ大変!」
またタイミングが悪かったですね。まさかスーパーボールが跳ねてカラスさんの顔に直撃するとは思っても見ませんでした。エルちゃんを助けたいと思う気持ちは山々なのですが......ここは心を鬼にして、エルちゃんの事を見守るしか......ごめんね、エルちゃん。
【こちら、おしりの穴を狙撃し隊のマルビッチでありんす♡⠀楓ちゃん、ここはわっちに任せて下さいまし!】
【おお! まるさんお願いします!】
【ヘリの高度を下げるのでありんす。殺傷能力の低いゴム弾でカラスを撃退致しやすぅ〜】
早乙女キララさんの四天王が一人、【両刀】のマルビッチさんが援護射撃をして下さるそうです。上空からヘリコプターが降りて来るのが、ここからの位置でも確認できます。
「おお! 凄い......カラスさんに当たったわ!」
「カラスさんには申し訳無いけど、これもエルちゃんの為......」
まだエルのおつかいは始まったばかり。この調子でエルちゃんの事を陰ながらサポートするわよ!
【楓ちゃん、無事にカラスは撃退したでありんす。引き続き上空からエル姫の護衛を致すのでありんす】
【マルさんありがとうございます! 凄い腕前ですね......ビックリしましたよ】
【うふふ♡ ノンケのお尻を的にしてたらいつの間にか......ね♡ また何かあれば連絡下さいまし】
良し良し、今の所順調だね。エルちゃんも再び歩き出しました♪ 頑張ってエルちゃん♡
「あれ? お姉ちゃん待って、何かエルちゃんが立ち止まって考えてる」
「え?」
何か恐ろしい物を見た様な顔しています。身体も少し震えてるわね。やっぱりエルちゃんを一人でおつかいさせるのは時期尚早だったかしら? 一人で心細いのかもしれないわね。あぁ♡ 今すぐにでも抱きしめてあげたい♡
「あれ? エルちゃん、何で来た道引き返しちゃうの!?」
「何処に行くのかな?」
葵ちゃんと一緒にエルちゃんの様子を陰ながら見ているとエルちゃんはゴミ捨て場に置いてあるダンボールを組み立て始めて、何とそのダンボールを頭の上から被ったのです!
「まさか、エルちゃんあの某人気ゲームのメタルギャルソリッドの主人公の真似をしているのかしら?」
「エルちゃんはまだ幼いからね。ごっこ遊びしたいんじゃないのかな?」
「あらあら♡ 葵ちゃん、エルちゃんと目が合ったとしてもここはちゃんと気付かない振りをしなくちゃ駄目よ?」
「うん、分かってるよ♪」
ここでお姉ちゃんとして、あえて気が付いて無い振りをしてエルちゃんに合わせてあげるのよ♪
「あ、お姉ちゃんエルちゃん来たよ!」
「良し、あそこの販売機の横に隠れましょ!」
何だか葵ちゃんの方もやる気に満ち溢れているわね♪ 何だか微笑ましいわ♪
【楓ちゃん、葵ちゃん緊急事態よん!】
【キララさんどうしました!?】
キララさんのこの緊迫した声......只事ではありませんね。何か非常事態が起こったのでしょうか?
【公園で待機してる二宮マッマが......変態不審者と間違われて警察署に連れてかれちゃったのよん!】
【............】
楓と葵は反応に困った様なリアクションをするのであった。
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