第122話 VTuber、宇佐美めぐる③ 楓お姉様に惚れたあの日
◆明日奈視点・その日の夜 過去編
「明日奈〜ちゃんと歯磨きした?」
「うん! したよ! ママ一緒に寝よ♪」
「あらあら、明日奈は大きくなっても甘えん坊さんだね♡」
「うん! ママ大好き♡」
今日はママに色々なお話しをするの! ついにアタシもお友達の家に遊びに行く程の.......俗に言うリア充の仲間入りを果たしたのだ! それに葵のお姉さんとも仲良くなったし♪
「ママ! 腕枕して!」
「はいはい♪」
「ふふ〜ん♪」
あたしの家は超が付くほどの貧乏な家庭だ。パパは私が物心付く前に交通事故で亡くなったそうです。現在はママと2人で家賃1万8千円の六畳間のボロアパートで一緒に暮らしています。築100年近い建屋で、隙間風や雨漏れも酷い所ですが、今では色々と慣れて住めば都と言った感じです。
「ゴホッ.......ゴホッ.......」
「ママ大丈夫!?」
「うん、心配掛けてごめんね。ちょっと疲れてるだけだよ♪」
「ママ.......無理しないでね。私もバイトしてお金稼ぐの手伝うから!」
「明日奈、貴方はお金の事は気にしなくても大丈夫よ。ゲホゲホ.......お金の事ならママに任せて.......明日奈は家のお手伝いを沢山してくれるし、それだけでママは十分.......ゲホゲホッ!」
「ママ.......!?」
ママはパートをいくつも掛け持ちをしており、帰りもいつも遅い時間に帰って来る。あたしも学校を退学して一緒にお金を稼ぐと言うとママは断固として反対をする。
「明日奈、ごめんね。貴方にも苦労を掛けさせちゃって.......本当はお小遣いももっと沢山あげたいし、好きな物を買ってあげたいけど.......」
「あたしはママが居ればそれで十分だから! ママが元気ならあたしはそれが一番嬉しいの! 生活は確かに貧しいかもしれないけど、あたしの心の中は全然貧しくないよ!」
貧乏生活だって、案外悪くないものなのよ♪ 水道が止められて近くの公園にバケツで水を汲みに行ったり、電気が止められた日には、ボロボロの机の上に蝋燭を付けてママと肩を寄せ合いながら過ごしたり♪ それにあたしの部屋には、ペット同然のネズミのチューすけも居るし結構楽しいのよ♪
「ママ、明日はせめてゆっくりして.......あたしはママが心配なの」
「ママは身体が丈夫だから大丈夫.......ゲホゲホッ」
「何処が丈夫なのよ.......とにかく明日はお休み! 晩御飯はもやし炒めだけで良いからさ♪ それかあたしの持ってるゲーム全て売って生活費の足しにしても良いから!」
「明日奈、そんな事しなくても良いから.......あれは明日奈がお小遣いをコツコツ貯めて買った大事な物でしょ」
「ママ.......」
これはあたしが根負けするしか無いかな。話しがこのまま平行線に続きそうだし.......こんな世知辛い話しはもうやめよう。あたしが笑って無いとママが悲しんじゃうんだもん。だから、あたしはどんな時でも挫けないで笑うの! ママに今日、葵の家に遊びに行ったお話しを沢山聞かせてあげるんだから♪
「ママ! あたし今日ね〜!!」
―――それから明日奈は、自分の母親に葵と一緒にゲームをした事や葵のお姉さんも混じえて一緒にお菓子作りをした事、3人で駄菓子屋さんに行った話し等色々のお話しをした。
「ママの分のお菓子もいくつか買って来たからね♪」
「ありがとう♪ でも、ママは甘い物がそんなに食べれないから残りは明日奈が全部食べなさい♪」
「ママ.......」
「うふふ♪ ほら、もっとママにお話しを聞かせてよ♪」
「うん! それからね〜」
明日奈の母親は嬉しそうな娘の頭を優しく撫でながら、同じ布団で横になり話しを親身に聞いている。
「そかそか♪ ううっ.......明日奈にお友達が出来てママ嬉しいよぉ.......ぐすんっ」
「ママったらぁ、そんな大袈裟なぁ〜わぷっ!?」
「むぎゅっ♡ 明日奈大好きよ♪ 私の娘に生まれて来てくれてありがとね♡」
あぁ.......ママの腕の中暖かい♡ ママの温もりを感じると心が和やかになって物凄く落ち着く。冬の寒い日でもこうしてお互い抱き合いながら寝ると凄く温かいの♪
「明日奈は本当に良い子だよ〜でも、明日奈は無理する所があるから、自分の感情を押し殺してまで我慢したら駄目だよ?」
「うん、大丈夫.......」
本音を言うとアタシは色々な悩みを抱えてる。違うクラスの友達の葵にも内緒にしてる事だけど、あたしは同じクラスの不良グループの女子に虐められている。
「本当に大丈夫?」
「う、うん! あたしに悩み何かある訳無いよ! ほら! 見ての通り元気一杯だよ!」
時にはトイレの最中に上から水を掛けられたり、校舎裏に連れてかれ服を脱がされたり、物を隠されたり、背が低い事を馬鹿にされたりと数え切れ無い程の虐めを受けて来た。
「ママの一番の宝物は、自分の娘.......明日奈だからね。何かあったら、思い詰める前にママに言いなさいね」
「ママ♡」
ママは優しいけど、これ以上ママにあたしの事で心労を掛けたくない。ママにはイジメの件は絶対に言えない.......
「学校はどう?」
「楽しいよ! お昼ご飯もクラスの子と一緒に食べてるよ♪」
それは嘘だ.......本当は学校のお昼休み、屋上の隅や誰も居ない非常階段で、1人でママの作ってくれたお弁当を食べている。
「ママ.......」
「なぁに?」
「頭撫で撫でして」
「良いよ♡」
ママと過ごしている時間は嫌な事も全て忘れられる。学校で辛い事があってもママにこうして抱いて貰えるだけでアタシは頑張る事が出来る。
本当は学校に行くのは苦に感じるし全然楽しくない。葵と会えるのは嬉しいけど同じクラスじゃないから、そんなに顔を合わせる訳ではない。
それに葵には私の現状の事は絶対に言えない。まあ、言いたくないと言うのが正しいかな。これはあたしのプライドなのかもしれないわね。
「明日奈、そろそろ電気消そっか♪」
「うん!」
「そうだ! 明日の夜は、明日奈の大好物のハンバーグ作ってあげる♪ ママお手製のハンバーグ腕によりを掛けて作っちゃう♪」
「わーい! ありがとう♪ めっちゃ嬉しい!」
「月曜日のお昼のお弁当にもハンバーグ入れてあげるから♪」
あたしはママにむぎゅっと抱きつきながら、暗い部屋の中でそっと瞼を閉じて眠りにつきました。
―――月曜日、学校のお昼休み―――
「良し、誰も居ないわね」
アタシはいつも昼のチャイムが鳴ったと同時に、お弁当を持って人気の無い屋上へと走って向かう。不良グループの女共.......特に桜井美波に見つかると厄介だからね。
「ふぅ.......今日も大丈夫そうね」
学校の屋上は、私の心が休まる唯一の憩いの場。アタシはいつもここでフェンスを背もたれにしながら、ママが作ってくれたお弁当を景色を見ながら食べているのだ。
「ママお手製のハンバーグ♪」
ママに感謝をしながら、今日も手を合わせて〜頂きます!
「おいおい〜こんな所でぼっち飯かよ〜あすなぁ」
「な、何で.......」
さいやくだ。あたしの大嫌いな不良グループのリーダー、金髪のつり目が特徴の桜井美波とその取り巻き達を合わせて3人とBADエンカウントをしてしまった。
「おチビちゃんは相変わらずお友達居ないのかぁ? ぷぷっ」
「こんな場所で、1人寂しくかわいそぉ〜」
「しょうがないから、あたい達が遊んでやんよ!」
こ、こんな奴等.......相手にする価値も無いわ! 無視よ! 無視!
「あ、あっちにいって.......」
「あぁ? 何て言ってるのか聞こえねーよ!」
「ヒィィッ.......!?」
「お、こいつビビって声も出ないでやんの!」
あ、あたしはこんな奴等に絶対に屈指ない! でも、怖くて声が震える.......ママぁ。
「ううっ.......」
「おいおい〜こいつ泣きそうだぞ」
「しかも、小便チビってやんの! 超ウケるんですけどぉ!」
「うわ〜こいつ高校生にもなって、熊さんのパンツ穿いてるぞ! 写メっとくか!」
ぐすんっ.......あ、あたしは泣いて何か無いもん! 目に少し埃が入っただけ! 全然怖くなんか!
「そうだ、こいつの弁当奪ってゴミ箱に捨ててやろうぜ!」
「なっ.......!? や、やめてよ! これはママが作ってくれた大切なお弁当なの!」
「へぇ〜ママね.......不味そうな弁当な事。生ゴミに捨てておくわ」
「ふ、ふざけるんじゃ無いわよ!! このゴミ糞ビッチが!!」
「あぁん? 何調子乗ってんだよ! 明日奈の分際で!」
どんな言葉を掛けられてもあたしは我慢する事が出来るけど、ママの作ってくれた弁当を侮辱されるのは流石に許せない!
「きゃっ.......!? い、痛い.......」
「おっと、思わず手が滑って平手打ちが出ちゃったわ〜キャハハハ!」
「ぐすんっ.......だ、誰かぁ.......た、助けて.......」
自分に嫌気が差してくる。あたしは臆病者で小心者.......どうしようも無く弱い女だ。それに助けてと言っても手を差し伸べてくれる人は誰も居ない。やっぱり、もう無理かもしれない。あたしの心は限界に近い.......辛いよぉ。
「や、やめて.......く"た".......さ".......い"」
「あらまぁ、チビの明日奈ちゃんが泣いちまったよ〜」
「桜井さんは本当にえげつないよなぁ」
もう、死にたい.......怖いよぉ。
「うわああああぁんんん!! ママ!」
「ぷぷっ.......ママに助けを呼んでもだぁ〜れも来ないから!」
「もっと泣いて喚け! アハハハ♡」
「ほら、床にママが作ってくれたお弁当転がってるわよ〜明日奈、ちゃんと食べなよ!」
ママ、ごめんなさい.......あたしの為に一生懸命作ってくれたお弁当がこんな事に.......ママに本当に申し訳無い。あたしが不甲斐ないせいで、お弁当を桜井に奪われて床にぶちまけられてしまった。
―――ここの屋上から飛び降りたら楽になるのかな.......
そんな事を考え始めたその時だった。突如屋上のドアが思いっ切り開いたのだ。
「明日奈ちゃん!」
私は目を疑いました。だって、そこに居た人物は、何と葵のお姉さん.......楓さんだったのだ!
「げっ、あれって3年の一ノ瀬 楓じゃん! 何でこんな所に!」
「あの一ノ瀬 葵のお姉さんか!?」
「美少女優等生か.......気に食わねぇ」
楓は心配そうな表情を浮かべながら、走って明日奈の傍へと駆け寄った。
「明日奈ちゃん大丈夫.......!?」
「ぐすんっ.......楓さん」
「明日奈ちゃん、私が来たからにはもう大丈夫よ♪」
楓は明日奈の震える身体を優しく抱きしめる。
「貴方達ねぇ.......3人で一人のか弱い女の子を虐める何て、言語道断よ! 恥を知りなさい!」
楓は鬼の様な形相で不良グループの女子達を睨み付けた。桜井以外の取り巻きの女子は、楓のその気迫に後ずさる。
「けっ.......気に食わねぇ。何でそいつをあんたが庇うんだよ」
「明日奈ちゃんは.......私の友達だから! 私、今凄い怒ってるわよ! 貴方みたいな最低な人.......思いっ切り引っぱたいてやるわ!」
「はん! やれるもんならやってみろよ! どうせ美少女優等生様には出来ないだろうけどなぁ!」
楓の怒りは凄まじいものであった。楓は桜井の前まで行き、渾身の平手打ちを放った。
「ふん!」
「痛ってぇなぁ.......おい! クソ! おまえらやっちまえ!」
「3人とも許さないわよ!」
「きゃっ.......!?」
「痛い!!」
楓は取り巻きの連中に盛大に平手打ちをした後に、背負い投げをして物の見事に2人を鎮圧した。取り巻きの女達は、その痛みの激しさにその場で唸り声を上げる。
「クソが! 使えね〜奴等だな! 死ね、一ノ瀬!」
「ふん!」
「グヘッ.......!?」
「明日奈ちゃんが受けた苦痛はこんなものじゃないわよ!」
「糞が! まだ親にだって引っぱたかれた事ねーのに! ぐはっ.......!」
「食べ物を粗末にする人間にご飯を食べる資格は無いわ! ふん!」
「ガハッ.......!?」
楓は桜井に馬乗りになって何度も桜井の頬を全力で引っぱたいた。桜井の心が折れるまで何度も何度も引っぱたく。
―――15分後―――
「あ、あたいが悪かったよ.......だ、だから.......もう許して.......」
「貴方達は明日奈ちゃんがそう言っても虐め続けたんでしょう? その腐った根性を私が完膚無きまでに叩きのめしてやるわ!」
「ぐはっ.......!? も、もうやめっ.......へぶぉっ!?」
桜井の心はこの時点で完全に折れていた。楓に何度も平手打ちをされて、桜井の顔は真っ赤に腫れている。
「金輪際明日奈ちゃんに近付かないで! もし、また手を出そうとしたら、クラスのみんなの目の前でスカート捲り上げてお尻ぺんぺんだからね!」
「こ、こいつ.......狂ってやがる!?」
桜井は涙目になりながら起き上がり、取り巻きの女達を連れて屋上から逃げるように走って行った。
「明日奈ちゃん.......」
「う、ううっ.......うわあああああぁぁぁぁんんん!! 怖かった.......怖かったよおぉぉ!!」
「もう大丈夫.......よしよし♪ 明日奈ちゃん良く頑張ったね」
楓さんの温もりが、何だかママと似てる.......あたしは恥やプライドを全て捨てて、幼子の様に楓さんに抱かれながら泣いてしまった。
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