第123話 VTuber、宇佐美めぐる④ 桜井美波と言う女
◆明日奈視点・過去編
「明日奈ちゃん、よしよし♡」
「ううっ.......」
幼子の様に楓さんの腕の中で沢山泣いてしまった。ママ以外にこんなに優しくあたしに接してくれた人は初めてだ。楓さんがあたしをいじめっ子から守ってくれた姿は、まるで御伽噺に出て来る騎士のように格好良かった。何だろう.......あたしの胸が少しドキドキする。顔が少し熱い.......
「楓さん、ありがとうございます.......」
「明日奈ちゃん.......」
明日奈は床にぶちまけられたママの手作りお弁当を見て激しく落胆していた。再び目に涙を浮かべてすすり泣いてしまう。
「明日奈ちゃん、私からお願いがあるんだ♪」
「ぐすんっ.......お、お願いですか?」
「私、実は今ダイエットしてるの。だから、このお弁当私の代わりに食べてくれるかな?」
「え? 楓さん.......流石にそれは.......」
「良いのよ♪ 遠慮しなくて良いから♪」
楓さんの優しさに再び涙が出て来そうだった。ダイエットしてると言うのは恐らく嘘だと思う。何で.......まだ一度しか会った事が無いのにここまであたしに良くしてくれるのだろう?
「ありがとうございます.......しかし、何で楓先輩がここに?」
「葵ちゃんが心配してたんだよ。お昼休みに私が行くと明日奈が遠慮しちゃうからって。葵ちゃんも色々と気を使ってくれてたみたい。だから、明日奈ちゃんの様子を見に行くついでにお昼ご一緒しようと思ったのだけど、たまたま明日奈ちゃんが屋上に行く姿を見掛けてね。迷惑だったらごめんね」
「あうっ.......そ、そうだったのですか。迷惑だなんて思っていません。むしろ楓さんが来てくれたのが嬉しかったです」
葵があたしの事を心配してたんだ.......葵に申し訳無いな。次あったら謝ろう。楓さんにも迷惑掛けちゃった.......
「明日奈ちゃん、また何かあったら遠慮無く私に言ってね♪」
「はい.......ありがとうございます」
「うふふ♡ せっかくの可愛いお顔が台無しだよぉ〜良かったらこのハンカチ使って♪ あ、私が拭いてあげようか♪」
「んん.......」
「拭き拭き♪」
私にもしお姉ちゃんが居たら.......毎日がこんな感じに心穏やかな気持ちになれたのかな。何だか今、物凄く甘えたい気分。心がボロボロに傷付いた後は、いつも帰ってママに甘えてたんだもん。
「楓さん.......」
「ん? どうしたの?」
「あ、あの.......むぎゅっとしてくれますか?」
「あらあら♪ 良いよ♪」
そして次の日から、楓がお昼休みに頻繁に明日奈の元にやって来るようになったのである。
――――――数日後・教室にて――――――
「..............」
「ううっ.......」
何だか視線を感じるなと思い、横目でチラッと見てみると何と不良の桜井美波があたしの事を睨み付けるかのように見ていたのだ。桜井は楓さんに頬っぺたを叩かれたあの日から2日くらい休んでいたが、今日何事も無かったかのように登校している。
(まさか、報復に何かしてくるんじゃ.......)
また虐められるのでは無いかと内心不安で一杯だった。桜井のあの人を殺してそうな目付きがとにかく怖い.......胃が痛くなりそう。桜井は見た目美人だけど、目付きが怖いから男子や女子両方から恐れられている程だ。
「では今から自習の時間にします。先生に何か質問がある人は居ますか?」
お、今日の理科は自習なんだ。他の連中は授業をサボるだろうけど、あたしは真面目に勉強するわよ。沢山お勉強をして、将来ママに楽させる為にも給料の良い会社に入るのだ!
「質問は無さそうですね。何か分からない事があれば纏めて後で聞きますからね〜」
そう言うと理科の男性教諭の金石先生は教室を後にした。
―――お昼休み―――
「良し、今日も屋上に行こ♪」
お弁当を持って屋上へ行こうとした所、何とクラスメイトの桜井に話し掛けられたのだ。
「おい、明日奈」
「な、何よ」
「ちょっとツラ貸せや」
「.......!?」
え、ちょっと何よ!? やっぱりあたしに報復する気なの!? 楓さんに散々叩かれたのに、こいつ全然反省して無いのかな?
「あ、あれだ! 今日はあたい一人だけだから! わ、渡したい物があんだよ!」
「え? 渡したい物?」
な、何.......まさか、毒物入りの食べ物!? それとも、あたしを後ろから刺す気かしら!?
(怖いけど.......でも、渡したい物とやらも気になる。仕方無い、屋上に行けば私だけじゃなく楓先輩も来るからきっと大丈夫な筈)
明日奈は意を決して、桜井の後に付いて屋上へと向かうのであった。
―――屋上―――
「良し、誰も居ねぇな」
「ごくりっ.......わ、渡したい物って何よ」
「明日奈.......今までの件.......わ、悪かったな。これやるよ」
「え? お弁当?」
やっぱり毒物が入ってるお弁当.......食べ物で来たか! 桜井.......ここであたしを亡き者にしようと言うのね!? あれ? でも、桜井があたしに謝ってる?
「毒物?」
「あ? んなもん入ってねぇよ!」
何で桜井の顔が赤いんだろう? 何かいつもと違った雰囲気だな。やはり、楓さんにやられてから何か変わったのかしら?
まあ、せっかくの桜井からの好意? 一応お弁当は受け取ろう。しかし、何でこんなソワソワしてるの桜井?
「明日奈ちゃん〜やっほー!」
「あ! 楓先輩♡」
「あれ? 貴方は.......また明日奈ちゃんをイジメに来たのかしら!」
「ち、ちげーよ.......ち、ちがいます.......です」
「ん? 何か雰囲気変わったね?」
そして暫くすると桜井は顔を赤くしながら、意を決した様子であたしと楓先輩に本音を話してくれたのだ。
―――――――――
「なるほどねぇ〜じゃあ、桜井さん本当は明日奈ちゃんの事が好きだったのね」
「ううっ.......あいつらの手前、素直になれなくてな。だけど、あたいにも面子があるし.......明日奈には本当に悪い事をした。ごめん」
え、嘘.......ちょっと待って。桜井美波があたしの事が好き? 意味が分からないわ!? しかも、桜井は女だよ!? 桜井は男よりも女が好きなの!?
「あらあら、桜井さん、でも虐めるのはやり過ぎだったよね。そこはちゃんと反省しなくちゃダメよ? 言葉は時に鋭利な刃物となるんだから」
「楓さん.......」
「明日奈ちゃんの事が好きなら、ちゃんと守ってあげなさい。桜井さんが本当に大切なものは面子? それとも好きな人どちらなの?」
「そ、それは.......明日奈.......ごにょごにょ」
え、まじか。あの桜井美波が楓さんの前で正座しながら話しを聞いてる。てか、こう思うのは失礼かもしれないけど、桜井の恥ずかしがってる姿が可愛いわね。
「ん? 聞こえないわよ?」
「大切なものは.......明日奈です! 明日奈の事が好きで、振り向いて貰いたくて意地悪を沢山してしまいました!」
「ふむふむ、この際全て洗いざらいゲロっちゃいなさい」
「ううっ.......明日奈ごめん。実は水泳の授業の日に明日奈の下着盗んだのあたいだ。家で匂いを嗅ぎながら、1人で致した.......それから明日奈の写真を待ち受けに.......」
「ま、待って!? も、もういいから!」
ただならぬ人だと思ってたけど、桜井が予想の斜めを行く性癖の持ち主だった!?
「明日奈が別クラスの一ノ瀬 葵と楽しそうに絡んでる姿を見て、正直言うとかなり嫉妬した」
「は?」
え、嫉妬? 何だかあたしの中の桜井美波と言う人物と今の桜井美波は全然違うわ。むしろ、今の桜井が素なのかな?
「他にも明日奈のリコーダーとあたいのリコーダーをこっそり取り替えたり、ええい! まどろっこしいのはやめた! 明日奈.......あたい、いや、私! お前の事が好きだ! 付き合ってくれ!」
「えええええええぇぇええ!?」
「いきなり恋人だとか贅沢な事は言わねぇ.......まずはあたいとダチになってくれるか?」
「は、はひぃ.......」
「おお!? 良いのか!? 良いんだな!」
楓さんに助けを求めようと視線を送ると何故かニコニコとしていたのです! まさか、告白された相手が、あたしをイジメてた校内でも有名な不良の桜井美波.......しかも、同じ女だよ!? 女の子同士の恋愛何てありえないでしょ!
「ま、まあ.......友達なら、別に良いけど」
「良し! 明日奈、あたいの事は美波と呼んでくれ! これから宜しくな!」
「は、はい.......」
あぁ、桜井ってこんな風に笑うんだ。物凄く良い笑顔.......てか、どうしよう!? 突然過ぎて思考が停止しそう。
「あ、後な! あたい、今日の朝早起きしてお弁当頑張って作ったんだよ!」
「え、お弁当手作りなの?」
「おう!」
桜井の指を見てみると指先には絆創膏がいくつも貼り付けてあるわね。まさか、あたしの為に頑張って手料理を作ってくれたのかな?
「あたい、料理には結構自信無いんだ!」
「無いんかい!」
あ、思わず突っ込んでしまったわ。あれ? そうえば楓先輩静かだなと思ってたら、いつの間にか居ないわ。
「卵焼き頑張って作って見たんだが.......こんな感じだ」
「えぇ.......これが卵焼き?」
何で紫色なの.......何入れて作ったらこんな禍々しい卵焼きが出来るのかしら?
「桜井さん」
「むむっ.......美波と呼んでくれ」
「美波.......」
「うむ!」
はぁ.......もう疲れたわ。でも、桜井美波と友達かぁ.......まさか、こんな事になるなんて夢にも思わなかったわ。
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